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お人好し令嬢の異世界婚活記3〜白百合と蒼金の誓い  作者: カンテラ澪


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10/10

10 王立治癒院が安全になりました

リリエル王妃の日記の続きを読んでいく。


——やっと会いにくることができました。ケルビム様——


日記の最終行に、そう書いてあった。

日記を読み終えて、ヴァン様を見上げる。


え?今のヴァン様、水色の瞳だった?

もう一度、瞳を見つめる。


「どうした?そんなに私を見つめて」

ヴァン様に見つめ返されると恥ずかしい。

勘違いね、蒼金の瞳だわ。


「ヴァン様、ブーレ湖の結界柱になったのはケルビム様でした」

「エルラールではなかったのか」


「ケルビム様とエルラール様は同じ方のようなのですが」


「同一人物で名が二つあったのか」


「そこがよくわからなくて、日記はそこで終わっています」


「謎が解けるとまた次の謎か。しかし、私がエルラールとケルビムの生まれ変わりであり、結界柱になったという事はわかったが、よくわからんな」


ここにくると謎が解ける、でもまた新しい謎が出てくる。

懐かしい感じは変わらないけれど。



⌘

その後、ヴァン様はかなりご多忙になった。


アデリーヌ様が拘束されて、治癒院長の監督不行届きで、バルトランザ侯爵も拘束され、尋問が始まったのだ。

クレサール領で保護されていたマルイ先生はじめ特級治癒師の先生方も、バルトランザ侯爵に狙われる危険がなくなったので王都に戻っている。



ヴァン様は、毎日、公爵邸には夜遅く帰ってらっしゃる。


「ララ、今日はどうだった」

「はい、王立治癒院でマルイ院長先生のお手伝いを。バルトランザ侯爵が治癒院の中を勝手に変えていて、治癒院というよりも、贅を尽くしたサロンみたいになっていて、先生方とお片付けをしています」


「ある程度は聞いていたが、大変そうだな」

「ええ、王宮の調度品よりも贅沢で。売りに出すにも浄化が必要で」


「なぜ家具に浄化を」

「少しですがダークミストが付着して危険なのです。でもそれが、ここしばらく、治癒師の方が全滅するきっかけだったのではないかと」


王立治癒院もダークミストに汚染されつつあった。そこで暮らしていた治癒師たちは、少しずつダークミストに侵されていた。

十年前に私が不合格になった時に、合格になった人たちで治癒院に残っていた治癒師の再試験をマルイ先生がしたら、微力な治癒魔力しかないことがわかった。


そしてすでに亡くなった治癒師も、討伐に出るとダークミストの格好の餌食になって命を落としていた、そういうことだったらしい。


「治癒師の全滅はそういう仕組みだったのか」


ヴァン様も教えてくださる。

——マルイ殿は十一年前に免職になったとき、治癒師試験で使う予備の魔力測定器、特級治癒師名簿、代々院長に伝わる機密書類など、特級治癒師ではないと使えないもの全てを、結界の強い場所へ隠した。

バルトランザ侯爵は治癒師ではないから、全て見られないし使えない。廃棄される恐れがあった。

その場所を感知し結界を解けるのは、マルイ殿と同等以上の聖属性魔法を持つ特級治癒師だけ。

結果的に誰も見つけられない。

マルイ殿は王都に戻って、すぐにそれを取り出し、魔術師団を通して王家に提出、調査は一気に進んだ。

だから、クレサール子爵は、この十年、目立たぬようにマルイ殿らをクレサール領中心に保護をしてきた。デビュタントの夜遅くにグラサージュ騎士団がクレサールに同行したのも、彼らを守るためだった。

バルトランザ侯爵が黙秘しても罪は明白になり、断罪を待つばかりだ。——


あの慌ただしかった一日は、そうだったのね。


「罪は白日のもとに晒された。だが、何故なのか、そこが不明なのだ。アデリーヌと私を婚姻させる目的で、同年代の女児を不合格にしたのもわかる。サダーンが操っていたこともわかる。なぜ私とララなのだ。ブーレ湖の戦いで国を守った者の生まれ変わりだからか」


「ヴァン様、以前にもこのお話が出ましたが、サダーンがヴァン様と私を狙っているのは、ヴァン様がこの国を唯一救える方だからだと思うのです」

「そして、その私を救えるララを生贄に?」


私は頷いた。

ヴァン様は苦々しいお顔になる。

「アデリーヌは最初から、私を殺す気だった」


たぶん、そう。

でもアデリーヌ様とバルトランザ侯爵を簡単に操ってしまうサダーンって。

ブーレ湖の戦いで、ケルビム様が封印した地獄の門。


「ララ、もう遅い。疲れたろう。ここで休むか」

ヴァン様が相変わらず、甘い声で囁かれる。


「いいえ、お部屋へ戻ります。おやすみなさいませ」


「我が婚約者殿は、つれない」

もう!

私はヴァン様の頬にちゅっとして急いで部屋を出る。

ヴァン様の楽しそうな笑い声が聞こえた。

またからかわれたわ。


⌘

翌朝、王立治癒院。


「マルイ先生、これで何とか治癒院らしくなりましたね」

「みんなご苦労だったね……まさかこんな様変わりしていたとはね」


ダークミストを帯びた調度品は、全て処分対象になった。

さすが特級治癒師の先生方が数人で浄化したら、一瞬にして大量の家具がかき消えてしまった。

それって、浄化じゃなくて殲滅でしょう?


しかも無詠唱だった?

微かにヒールって聞こえた気もするけど。

軽いヒールで全部消すの?


やっぱり私、落ちこぼれ治癒師かもしれない。


マルイ先生は、すでに王立治癒院の院長に復帰されている。


お父様がクレサールを中心に、保護しておられた先生方は二十五人もいらして、ほとんどが特級治癒師の先生と、特級ポーションを作れる先生ばかりだった。


バルトランザ侯爵が治癒院長だった時から残っていた治癒師は、全員、微力な治癒魔法しか使えず、各地の小さな治癒所に派遣されることになった。


そして少し穏やかな王立治癒院の日々が始まろうとした時、緊急の一報が入った。


——アデリーヌが黒い霧状になって、封じ込め結界の中から消えた。警戒せよ!——


あの、魔術師団が誇る何重もの封じ込め結界から消えた?

ヴァン様が危ないわ。


お読みいただきありがとうございます。

不定期投稿ですが、完結します。

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