退魔師に依頼したら後輩ができた
これでダンジョンは向こう側までつながっとるとは思うんじゃけど……
単独走破はまあまあ無茶じゃろ。こんな時は退魔師組合じゃな。
「ひよりや。退魔師組合にダンジョン探索で依頼かけておいてくれんかのう」
「いいですね。後で見積もりもらってきますから今週中くらいに振り込んでおいてくださいね」
「うむ」
今日もコタツでお茶しながらの話じゃ。
ゴロゴロしとったアーネスト殿がバッと飛び起きる。
「もしやこの間の儀式でダンジョンが?」
「うむ。ある程度は直っておると思うんじゃけどね」
「ありがたい。しかし、タイマシとは?」
「あー、ざっくり言うと警備とか害獣駆除とかをやってくれる傭兵とか自警団みたいなもんじゃよ」
今はウェブから依頼できるから便利じゃのう。
もうひよりがスマホぽちぽちで何とかしてくれているわい。
アーネスト殿は困った顔をされておられる。
うーむ、気を使わせてしまったのう。
「つまり……私の護衛に?」
「うむ、一人で探索は危ないじゃろ。料金もお手頃じゃし伝手もあるからのう」
「しかしそこまで世話になっては……私とて冒険者。帰還くらい一人でせねば」
うーむ、説得がめんどくさいがそこはまあ年の功じゃよ。
「それだがのう。今おぬしにダンジョンで死なれてはお礼ももらえんし、助け損になるからじゃよ」
「それはまあ……そうだが」
「ど~しても気になるというのであれば、おぬしの国に帰ってから交易品だのお土産だのいただければそれでよいのじゃ」
「……かたじけない。そのタイマシとやらを雇う金はツケにしておいてくれ。必ず返そう」
「うむ、それも生きてこそじゃよ」
「ああ、必ず生きてここに戻ろう。このアーネスト、この恩は忘れん」
「うむ、期待しておるよ」
そんな会話をみかんをむきむきしながらして、数日。
「どうも~!退魔師組合から来ました猫塚ミケっす!」
「おお……おぬしただの猫又ではないな?なりたての氏神じゃろ」
猫又から頑張って修行して氏神になった感じじゃな。
こやつ百歳もいっておらんじゃろ。あまりにもぴちぴち……!
若さがまぶしいのじゃあ。
モカみたいなゆったりパーカーにだぼだぼカーゴパンツじゃな。
頭は三毛猫模様のショートに猫耳じゃし、見るからに軽装じゃな。
「あざっす!いや~わかっちゃいます~?」
「わからいでか、ほほほ。若いというのはええのう」
おお、うれしそうじゃの。素直に喜べてよろしい!
ところで後ろにいるクソデカドローンは何なんじゃろうね。
「その……後ろにいるゴーレムのようなものは何だ?」
「あ~これはっすね。ボストンダイナミクスの飛行ドローンっす。百キロくらい積めるんで荷物運びいらないんすよ」
「な、なるほど荷役用か……」
ちょっとした牛くらいあってプロペラで飛んどるから大迫力じゃよ。
世の中進んでおるのう。
「じゃあまあ、依頼人さんがよければ今からダンジョン攻略はじめちゃうっすけどいいすか?」
「うむ、アーネスト殿の準備ができ次第じゃな」
「ああ、感謝する。コン殿には世話になった」
「うむ、また会える日を楽しみにしておるぞ」
まあ、これで今生の別れにならぬように退魔師雇ったんじゃけどね。
そうして別れて数日。
「なんとかあっちの国?まで送ってきたっすよ~。これ証拠の動画っす」
ダンジョン入り口からミケが神社の境内に戻ってきたのじゃ。
スマホの画面にファンタジーな街並みで手を振るアーネスト殿が映っておる。
「お~、三、四日で戻って来れるとはおぬしやるのう。ありがたいのじゃ~。うむ、たしかに」
「あと、アーネストさんからお礼のお金を預かってるっすよ」
こやつ正直じゃな~!
おお、金貨か。ひいふうみい……うむ、こやつの雇賃とほぼ同じじゃな。
律義な御仁じゃな~!
旅費はもうもらっておるからきっちり貸し借りなしじゃな。
こやつにちょっとはチップとしてやろうかのう。
「うむ、ありがたいのじゃ。チップに一枚とっておくのじゃ」
「えっとそれなんですけど……もしチップをもらうならって話をぽんさんに聞いたんですけど……知り合いですよね?」
なんであやつの名前がでるんじゃよ!顔が広すぎて怖すぎるんじゃよ!!
「お、おう。おぬしもかや」
「それでこんなメール貰っててすね。なんかチップ貰えるならそのお金で神として今度の出雲の行き方とか教えてもらえって……」
差し出されたスマホのメールを見ると確かにそうだのう。
先輩としてわしに後輩の面倒を見て欲しい、みたいなことが書いてあるのじゃ。
あやつ手広すぎんか?
まあ、退魔師の名家とつながっておらんはずがないんじゃが。
「うーむどうもそのようじゃのう。あー、まあ。そうじゃな。今度の出雲は車で送るし、ちょっとくらいなら相談に乗るのじゃよ」
「あざっす!ところでコンさん……かなり強いですよね?なんかやってました?」
うおっ、いきなり格闘漫画みたいなノリになってきたのじゃあ……
これだから退魔師は苦手なんじゃよ。
「まあのう。ず~っと昔に古武術とか、小太刀二刀流とかやったのう」
「あの自分、フルコンとかやってんすよ。組手してもらっていいすか」
うーむ、めんどくさいがとりあえず殴り合ってみれば話が早いタイプじゃな。
「しょうがないのう」
「あざーっす」
おっ、判断が早い。承諾をした瞬間に襟をつかんできた。
そんなこったろうと思ったのじゃよ!
じゃがまあ、備えておればなんとでもなるのう。
わしは服ごと変化して液状になって反対側に回る。
「しゃあっ!」
「おお、危ないのう。爪系の拳法じゃな」
さすが猫じゃな。
後ろ回し蹴りに加え手の爪でひっかいてくる。
わしの体もすぱすぱ切れるからそのへんのナイフよりずっと鋭い。
まあわし今ほぼ液状じゃから切れてもすぐふさがるんじゃけどね。
「はい詰みじゃ。このまま目や鼻から霧状になって入り込めば二秒くらいで死ぬぞ。それとも鼓膜からいくかの?」
わしはミケの鼻にぺたりと素手を置く。
おっ、これは降参のタップじゃな。
「あざっす……!めちゃくちゃ達人じゃないすか……!」
「まあほぼこれ一本で食べてる期間が百年くらいあればのう」
実際にガチの荒事になればわしは変化一本でごり押しておるから。
バット持ち出すのはまだ手加減なんじゃよ。
ガチじゃと変化で液状や霧状になってじゃな。
爪先を刃にして暗殺術みたいになるもの。
狐火とかも全部わしの毛先とかを変化させてなんとかしとる。
じゃからわしは実は幻術とかそのへんはまるで習っておらんのじゃ。
氏神としての儀式や呪符などの基本中の基本くらいは押さえておるけどね。
「やっぱ怖いすね変化は……!いきなり失礼しといて何なんですけど、これからは先輩と呼ばせてもらうっす」
「う、うむ……おぬしはおぬしでスト2みたいな動きじゃったから格闘が効く相手には相当強いんじゃろうけどね」
こやつの身のこなし天才のそれじゃったもの。
メッチャ速かったのじゃ。
ほぼ最短で神の階位まで駆け上がっとるしこやつけっこうな有望株では?
ぽんが世話を焼いとるのもそういう事じゃろうな。
「あざっす!これからお世話んなります先輩!」
「……夕飯でも食っていくかの?」
「ゴチんなります!」
めっちゃ媚びへつらいの笑顔じゃ……この猫又特有の調子の良さよ……!
なんかいきなり好感度が上がっとる。まあ実力を見せて正解じゃな。
妙な後輩ができたのう。
■
あれから家で鍋を行い、シメのおかゆまでたっぷり食べた後。
みかんとか食いながら世間話になった。
「いや~自分は生みの親がカスで……今は退魔師のお家に引き取られたんすけど、スゲーよくしてもらってっすね……それで猛勉強して神になったんすよ」
「おぬしすごいのう」
いやマジですごいんじゃよ。
こやつたぶん半世紀かからずに神まで階位を駆け上がっとるもの。
退魔師としては天才の類なんじゃろうね。
「でもなんか全然恩返しできてなくってですね……」
「それならお世話になった家の守護神になればええんじゃよ。神社も神棚で代用できるしのう」
「いや~最低限はそうなんすけど、でもできれば早めに何かビジネスで当てて返したいんすよ~」
いや~それはお勧めできんなあ。
一発当ててと急ぐ気持ちはわかるが、わしら神にはあんまりむいとらん。
「うーむ……それは急がん方がええじゃろうなあ。あちらさんからお話があればいい感じに一族の若い者とお見合いして、普段から守護神としての務めをちゃんとやるのがまず本分じゃよ。そこをおそろかにしてはならん」
おろそかにしとらんじゃろ?しとらんと願いたい。
「いや~お見合いっすかあ……」
おっ、デレデレしとる。これは思い当たる相手がおりそうじゃの。
念押ししておくか。
「たぶんおぬし、初給料でプレゼントはしておろうし、仕送りもしとるんじゃろ?」
「それはまあ……そうですけど」
よかった~!これでしとらんとか言われたらわしも困ったわ。
「ならば後は、そのご家族がいい人なら、おぬしが元気でいてくれればそれが一番の恩返しじゃよ」
「そんなもんなんすかねえ……同じこと言われましたけど……」
ほれみい。それなら安心じゃな。本当にいい人そうじゃの。
「マジじゃよ。年取ったらそんなもんじゃよ」
まあ、下手に焦り過ぎて破滅するよりはずっとましじゃからな。
とはいえ、これは焦っておるのう。よし、一つ世話を焼くか。
「うーむ、そうじゃなあ。ではわしの資産運用をいくつか見せようかのう」
「えっ、いいんすか!?そういうのって門外不出なんじゃないんすか!?」
「まあ、こういうのは助け合いじゃよ。わしも先輩にいろいろよくしてもらったからのう」
「あざっす!勉強させてもらいます!」
というわけでわしらは蔵に入った。
年代物のコレクションやガラクタをここに入れておるんじゃよ。
まずはガラクタをかき分けてわしの最近儲かっておる資産を見せる。
「これがわしの資産じゃよ。このゲームのこのキャラ……見たことあるじゃろ?」
「なんか私が子供の頃に超売れたやつじゃないすか!今リメイクされてますよ!」
こやつ四十代かや!?天才すぎるじゃろ……
今となっては昔懐かしいスーファミのカセット、そのパッケージを指さす。
何ならそのリメイクしてる会社は孫のモカのなんじゃけどね。
「ほほほ、じゃろう?何かええ感じじゃったがあんまり儲かってなさそうでのう。ちょっとばかり投資して、代わりにいくつかのキャラの権利をもっておる」
「はえ~!あ、もしかしてこの古い着物の柄も!?最近なんかブランド物で再販してません!?」
あ~これか。確か旅行に行った時に知りあった絵描きのじゃな。
美大に落ちたというからパトロンになっての。
代わりにいろいろとデザインしてもらった。
のちに髪を七三にしてちょび髭を生やしだしたのは笑ったのじゃ。
ダリとかクラウス・ノミみたいじゃったもの。
そういう方向性に行ったのは面白かったのじゃ。
あやつどうなったんじゃったっけ。
第二次独仏戦争で日本に疎開しとって……うーんと。
たしか訃報をモデルやっとった奥さんからもらった気がするから……
たぶん大往生じゃろうな。
「そうじゃよ?もとはと言えばずっと昔に売れない絵描きのパトロンをやっておったのを着物に流用して、最近コネのあるブランドにほかの絵描きの意匠もまとめて売ったんじゃよ」
おお、ミケが宇宙猫になっておる。
まあ、時間で複利が付くタイプの商売を教えたからのう。
「こ、これが長命者の資産運用……!参考になるっすけど、参考にならない……!」
「ほほほ、これが神々の商売のやり方じゃよ。まあ、今お主が必要なものではないのう。まあ……あれじゃよ。一年目じゃろ?じゃったら儲けるよりも仕事をちゃんと一つ一つ覚えるのが一番じゃよ」
ミケが眉間にしわを寄せてうなってしまう。
これはあれじゃな。わかっちゃいるけど納得できんというやつじゃ。
「ん~!そういうもんなんすかねえ~!いやまあ、それはそうなんすけど……!不老不死なら時間を味方につける稼ぎ方がいい……それはそうなんすけど!新人なら仕事を着実に覚える方が役に立つのもまあ、そうなんすけど……!」
わしは優しめにミケの肩を叩いてやる。まあ、若人は焦るものじゃからね。
「まあ、焦らんことじゃな。新人のうちは一つ一つじゃよ」
「……ウスッ!」
ふーむ、後輩か。まあ初めて後輩ができるわけではないしのう。
少しは面倒見るかのう。
……楽しみが一つ増えたかもしれん。




