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紺野稲荷神社例祭

 翌日は昼まで爆睡して長風呂に入り、境内でじっくりと瞑想するのじゃ。


「コン殿は今日はずいぶんおとなしいようだが……?」

「あー、こいつ明日がこの街のなんつうの?守護神としての仕事だからさ。力貯めてんだよ」

「……ヒビキ殿も同格と聞いたが。貴公の街はよいのか?」


 ……じっくりと瞑想するんじゃよ!

 まあ、体はしっかり休まっとるし霊力もちゃんと集まっとるんじゃけどね。


「私?私はまあ前倒しでやったからさ。私の地元なんだからその辺はもっと適当だよ。見る?」

「うむ、拝見しよう」


 どうもヒビキがスマホで自分の秋祭りを見せておるようじゃな。

 こやつの神社の祭りはほぼだんじりなんじゃよ!


『ッシャオラーッ!!いくぞ野郎ども!!デッパツだーっ!』

『シャス!!道あけろコラァ!!ヒビキ様のパレードの始まりだぁーっ!』

『おらっ!これが私の神威!これが私の恩恵だーっ!受け取れ舎弟どもーっ!』


 どやかましいわ。

 たぶんまたどうせだんじりの屋根の上に昇ってエレキギター弾いてるんじゃろ!

 聞こえとるぞ。ギブソンのレスポールとやらの音が。


『メシちゃんと食えよ!歯磨いてしっかり寝ろよ!ダセえ喧嘩すんなよ!!わかったかコラァ!』

『オスッ!わっしょいわっいしょい!』

『良いじゃん。これが今年分の無病息災だーっ!』


 ……これでしっかり祝福はかかってるんじゃから嫌になるわ。


「どうよ、こんな感じだよ。楽しい祭りだろ?」

「その、それで本当に効果が……?」

「あるよ?町中に私が張った術式をこれで起動してるからな。年一のメンテなんだよ」


 こやつの術式はほぼ送電網か街丸ごと使った電子回路なんじゃよ。

 根本的にはわしのやっとることも同じなんじゃがな。


「具体的には穢れっつーよくない力が溜まらねえように年一でそっちでいう魔力を流して掃除してんの」

「なんというか……おもったより即物的なご利益なのだな……?」

「まあ疫病対策とかに近いね。実際これである程度の健康効果はあるし、怪異も減るんだよ」


 いかん、なんだか出店のソースの匂いまでしてきよった。

 たぶん搬入した食材からなんじゃろうけどね。


「ハーッ……やかましいわ!瞑想に集中できんではないか!」

「う、うむ。すまない。向こうでやる」

「ごめんて」

「コン様、衣装出しましたよ。あとで袖を通してチェックしてくださいね」

「うむ。年一回の晴れ着じゃからのう」


 まあ、ヒビキのように自費で踊り子と担ぎ手雇って祭りをフェス化するほどではないが、わしもこの日ばかりは主役じゃもの。ほほほ。


 ■


 いつも通り朝五時に起き、この日ばかりは朝風呂でしっかりと身を整え、化粧も久々にバッチリしておく。

 いや~毎年とはいえ少し興奮するのう。

 わしも……わしも女神じゃから……!


「お久しぶりですコン様。バッチリですよ」

「おお、ひなた。久しぶりじゃのう。今年もよろしく頼むのじゃ」

「ええ。この間の地震は大変でしたが、今年もまあそのくらいですから。本年も無事に例祭ができて何よりですよ」


 この男はひなた。ひよりの父親で我が神社の宮司じゃよ。

 

「うむ、皆の日ごろの行いのおかげじゃのう」

「はっはっは、まあそこはコン様の神徳と言う事で……」

「ほっほっほ。うむくるしゅうない。今年も安全第一で行くんじゃよ?」

「まあまあ毎年のことですから……では会場に」

「うむ」


 まあ……わしの神社の祭りはこんな感じで世間話とか村の寄り合いみたいな感じで行うんじゃよ。

 ひなたに運転を任せて紺野稲荷のロゴの入った軽自動車で神輿の車庫に向かう。


「いやー、コン様お疲れ様です。今日はコン様主役ですから。まあまあ、これ毎年のやつですけど……」

「うむ、ありがたくいただくのじゃ。今年も安全第一で頼むのう」


 この人は町内会長さんじゃな。

 今年もおそらく万札がぎっしり入っているであろうご祝儀袋を束にして受け取る。

 まあこれわしが気軽に使える金ではなく神社の修繕費とか運営費なんじゃけどね。


「まあまあそこはね。大丈夫ですから。ドンと構えててください」

「うむうむ。よろしく頼むのじゃよ。さて……今年もきれいに磨いてくれたのう」


 わしの神輿は十人ほどでかつぐ軽くて小さなものじゃ。

 見た目もまあ……垂れ幕に狐の絵が描いてあるだけで普通じゃよ。

 神輿のキンキラな屋根のある中央部分に触れて霊力を流し込む。

 ……よし、接続完了じゃ。

 これでこの神輿はわしの端末として手足のように霊力を振りまく。

 魔法使いの杖とかスマホみたいなもんじゃな。


「ありがとうございます。じゃあ開会のあいさつと乾杯を……」

「うむ!」


 ひなたにマイクと酒の入った朱塗りの盃を渡されるのも恒例じゃな。

 いや~ここが一番主役感あるんじゃよ。


「え~、本日はお忙しい中お集まりいただきありがとうなのじゃ。ご苦労をおかけするのじゃが、まあこれで町内安全ということでじゃな。出店も出とるからぜひ楽しんで欲しいのじゃ。では本日もご安全に!」


 マイクをひなたに渡してわしはぐいっと盃を飲み干す。

 ふーむ、相変わらず純米酒じゃな。たぶん五十嵐じゃ。

 うむ、うまい。


「ご安全に!え~、では開始ということで。まあぼちぼちとお願いします」

「うむ、ぼちぼちとやるんじゃよ」


 さてと……神輿が町内を一回りしてる間に神社に帰るかのう。


 ■


 わしは神社の中で座って静かに目を閉じる。

 あれじゃ。真ん中の鏡とかおいてあるお殿様とかが座ってるような席でじっとしとる。

 なにしろ神輿からの感覚が伝わってくるからのう。

 これで盛大に霊力を振りまいておるのじゃよ。

 町内の頑固な穢れをこれで一斉洗浄じゃ。


「……ふーっ」


 コンチキチン、どんちゃかちゃんと祭り囃子が遠くにずっと聞こえとる。

 ギンのいる役所が、アカネのいる飲み屋街が見える。

 街角の手慣れた感触が伝わってくるのじゃ。

 うむ……いい街じゃ。見慣れた顔が神輿に手を振っているのがわかる。


「思えば早かったような、ずいぶん長かったような……わしもようやったもんじゃのう」


 うーむ、このなんらかのエンドロール感は毎年やるがええのう。

 いや本当によくやったのじゃよわし。

 ちっぽけな子狐から頑張って修行して妖狐になって。

 氏神として右も左もわからん頃からがんばって仕事してじゃな。

 いつのまにか人間の旦那を見つけて子育てしてじゃな。

 うまいように街も子もなんとかした。いや、わし頑張ったじゃよなあ!?

 いろいろあったもの!戦とか戦とか戦とか。

 

「どうぞ。お昼は軽めですけど。これ今年の新米で作ったお稲荷さんです」

「うむ、今年もようできたのう。うまい」


 これも恒例行事というか神事のうちじゃな。

 この街で作った材料の食事をわしが食う事で「取引」が儀式として成立するんじゃよ。

 毎年町中に加護を張り直すのも大変なんじゃよ。

 無数の誓約とか縛りで成立させる大儀式じゃからな。


「もう少しでお神輿も帰ってきますよ」

「うむ……ひより」

「なんです?」

「いつの間にか大きゅうなったのう」

「なりますよ。もう七年になりますからね」

「そうじゃのう」


 ああ、祭り囃子が秋空に響くんじゃよ……


 ■


 社の外に神輿が帰ってきたのう。

 ひなたが宮司としてわしに祝詞を唱えておる。

 わしに日ごろの加護の感謝と供物をささげるので平穏に統治してくれ、と言うような内容じゃな。


「掛けまくも畏き、紺野稲荷神社の大前に、宮司榊ひなた、恐み恐みも白さく。

此の大宮に、常磐に堅磐に鎮まり坐す、稲荷コン大神の高き尊き御恵みを仰ぎ奉り、称え奉りて。

今日の生日の足日に、氏子崇敬者等、諸々の生業に勤しみ、家門を栄えしめ、世を安らけく過ごし来つることを、偏に大神の広き厚き御恵みと、かたじけなみ奉り。

瑞の御饌、御酒、種々の味物、山野の幸、海川の幸、また珍しき品々をも、御前に捧げ奉りて、今日の例祭の御祭仕え奉る状を、平らけく安らけく聞こし食し、見そなわし給えと、恐み恐み白す」


 わしはスッと立っていそいそと社殿の入口の障子の前に立つとスッとひよりが障子を開ける。

 お集まりいただいたご町内の皆さんや観光客の皆さんから、おお……とため息が漏れる。

 うむ、おめかしした甲斐があったのう!

 わしのこの日の衣装は純白の巫女装束に白粉と口に紅じゃからね。

 まるで花嫁さんみたいなのじゃあ……


「宇迦之御魂大神の、高き尊き大神徳を蒙りて、此の大宮に常磐に堅磐に鎮まり坐す、我、稲荷コン、宣らく」


 神様らしいカリスマっぽく振舞うのはすごく緊張するんじゃよ~!

 これ、わしの選手宣誓みたいなもんじゃからな。

 わしが神として言葉を返すと、術式が一層活性化する。


「常日頃より清き明き直き心もちて、我に仕え奉る氏子崇敬者、また神職等が、今日の良き日に捧げ奉りし、御饌御酒、種々の供物を、嬉しみ愛で、安らけく受け納めたり」


 まあ……つねひごろから街の人々にはようしてもらっておるよ、捧げものはありがたくもらうのじゃよ、と言う事を言ってるんじゃよ。

 その上でここからはわしがこの街を守る!という宣誓じゃな。


「故に、此の美しき豊けき里を、我が神威をもちて、神随に守り恵まむ。

此の里に鎮まりたる隠り身なるもの、諸共に安らけくあれ。

堅磐に常磐に、夜の守り日の守りに守り幸え。

氏子等の身も心も、平らけく安らけく、家門は栄え、諸々の生業は弥栄えに栄えしめむ」


 よし……毎年の定型文はこなした。うまく術式に霊力が巡っておる。

 神輿を練り歩かせることでわしの霊力を町中に巡らせ、この宣誓でその霊力を操作して術式発動なんじゃ。

 さて、今年はここにもう一節いるのう。


「また、此度の地の震え、理の乱れによりて、此の里に住まう人等の、日々の生業に障り生じ、安けき暮らしを脅かしたること、我、深く憂え思う。

故に今、我が神威を振るい起こし、此の大宮を中心として、東西南北の四方、山の尾の上、谷の底、海川の瀬に至るまで、遍く守りの御霊を及ぼさむ」


 今なら近くの妖し筋やダンジョンもある程度弄れるんじゃよ。

 この祝詞ならたぶんあのゴブリンみたいな悪意ある者はある程度はじけるはずじゃ。


「禍事、曲事、荒ぶるものの来たり侵すことなく、地は鎮まり、水は清まり、草木は栄え、人は安らぎ、諸々の生業は滞ることなく営まれむ。

此の里に住まう諸人等、今日より後も、夜の守り日の守りに守り恵み、千代に八千代に、堅磐に常磐に、幸え給わむ」


 うむ、わしが巡らせた霊力に手ごたえありじゃ。

 ダンジョンがガコンガコン鳴っとる。

 たぶんこれでうまいこといい感じに直るんじゃないかのう?

 さて、締めにいつもの守護宣言いってこうかの。


「此の里に住まう諸人等、共に安らけくあれ!

朝日の豊栄登に栄え、夕日の降ちの極みに至るまで、我が守りの絶ゆることなし!

稲荷コン、此く宣る!成就あれ!」


 よし……いつものいい感じに地面から蛍みたいに霊力が立ち上って消えてゆく。

 たぶん……たぶんうまくいったのじゃ。

 ダンジョン部分はわからんが、少なくともご町内部分の守護はいつも通り確実にやったんじゃよ。


「……ふー。というわけでじゃな。今年もややこしい儀式はこれで終わりじゃ。本年もお疲れ様なのじゃー!」

「コン様もお役目お疲れ様でした。ではこれからは無礼講ということで……えー、皆さん稲荷寿司を食べまして解散と言う事にしたいと思います。お疲れ様でした」

「うむ、これはどうもなのじゃ。では皆さん行き渡ったかや?では……わしからいただくのじゃ。うむ、うまい!」

「お疲れさまでした!では後は皆さん適度に……」


 このうまい!まで含めて手順じゃからね。

 儀式もちゃんと終了条件と手順があるから大変じゃよ。

 この手順覚えるまでめちゃくちゃ修行したもの。


「やったじゃん。馬子にも衣裳だな」

「これがコン殿の神としての姿か……」


 ヒビキとアーネスト殿が笑顔でやってくる。

 まあヒビキは鬼のパワーでバンバン背中叩いてくるんじゃがね。


「ほほほ、わしも今日ばかりは主役をやらねばならんのじゃよ。おめかしもたまにはよかろう?」

「まあね?」

「うむ、相応しい威厳があるように見える」

「じゃろ~?」

「じゃあまあ、私は適当に出店巡って帰るわ。出雲でまたな」

「うむ!来月会うのじゃよ!」


 いや~……ようやく休めるわ!

 毎年面倒じゃがやはり終わってみるとやってよかったのう。

 わしの神社の祭りは毎年こんな感じじゃよ。

 庶民的で普通な祭りじゃ。

 こんなんでええ……!こんなんがええのじゃ……!

 この祭りはむしろわしがこの町に感謝するイベントなのかもしれんのう。

 ……この街の氏神でよかった。皆に感謝じゃよ。

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