なんとかなった
「おいっ!熊殿が後ろから追いかけているがこれが本当に正しい移動方法なのか!?」
「大丈夫大丈夫。足速い種族は高速入っていいから」
「う、うむ。わしが入り口でちゃんと払ったのじゃよ」
高速道路でわしらのバイクの後ろをユキがうなりながら走っておる。
目がガン開きじゃが、あれは機嫌がいいんじゃよ。
思い切り走れる場所が余り少ないらしいからのう。
「ゴルルルッ、ゴルルルッ!」
「なあこれは本当に大丈夫なのか!?」
「……今追いつかれたら何も保証できんが、止まる時はゆっくり速度を落としていくから大丈夫なはずじゃよ」
「はず!?なにも保証できんとは!?」
ほれ、哺乳類の本能でな。前に走る物があれば追ってしまうんじゃよ。
それで狩猟本能が刺激されたユキに捕まるのは……まあ、ごめんじゃな。
生き延びる手はあるが、絶対ニュースになるじゃろうから。
「死にはしないんじゃねえかな。たぶん」
「神よ……!」
「おお祈っとけ祈っとけ。まあ私らも神の端くれなんだけどな」
まあ、函館港まではこんな感じで、そこからの船なんじゃけどね。
「コンちゃン、クッキーたべナいの?」
「これはおぬしのために用意したお土産じゃから存分に食べておくれ」
「そっか」
バターサンドクッキーに練乳かけて、ハチミツレモンでそれを流し込んでおる。
これができるという時点でもう生物としての格が違うんじゃよ。
わしら?ユキの抱き枕かぬいぐるみみたいにされておった。
「おイしいねッ!!」
「う、うむ」
熊の膂力で肩に手を回されて逃れようのない至近距離でこれじゃよ。
アーネスト殿?三十分ほど前から気を失ってただのゆたんぽじゃ。
ヒビキは舵をとりながらしれっとした顔で知床旅情を歌っておる。
「はっ!ここは!?」
「盛岡じゃよ。ラーメン食べて今日は解散じゃ」
ヒビキは人混みに慣れんユキの背中をさすっておる。
「ユキ大丈夫か?」
「うン。ラーメンたノしみダね」
都会のストレス対策でユキはゴリリゴリリとクルミ二つを握りしめておる。
というか片手の中で回しておるというか……まあ、そんな感じじゃ。
二メートル超えの美人じゃからまあ周囲から振り向かれるな。
「ラーメン」
「うむ」
アーネスト殿が耐衝撃体勢に入る。
「おいしいね」
「そうじゃな」
豚骨ラーメンを静かに食う。
ユキもさすがに店内では静かなんじゃよ。
ありあまる野性をTPOに合わせて抑えている哀しき獣なんじゃ。
「ここまできたらね。あとは道わカる」
「おうそっか。じゃあ今日は解散しちゃう?」
「うン。ヒビキ、コン、そレから知らナいヒト」
盛岡から出て地道を下って道の駅でお茶飲みながらじゃね。
静かじゃ……
「アりガとウねッ!!」
夜中じゃというのに森から鳥がバサバサ飛び立ったんじゃよ。
「おう、出雲で会おうな」
「財布やらは忘れておらんな?何かあったらすぐ電話するんじゃぞ」
「ウん。だイじょうぶ」
そういってユキは口元だけで薄く笑いつつ森の中に消えていった。
目は笑っておらん。あやつの目が笑っている時をわしは知らん。
常時ガン開きじゃ。目力が強い……!
「まタねッ!!」
「うむ、関東に着いたらうちに寄っていくんじゃよ」
「関西来たら私の家来ていいからな。まあその前に四国のぽんちゃんの所にも寄るだろうけど」
「うン!!」
おお、茂みをかき分ける音が遠くになって行くのじゃ……
おそらくユキも気心知れた仲とはいえ、大人数と共に行動するのは気疲れしておるんじゃろうな。
わしら?しばらく疲れ果ててうずくまっておった。
「熊殿はこれからどうやってその、イズモとやらに?」
「山から山を森をかき分けてだよ」
山があやつのホームグラウンドじゃからな。道や街より楽らしいんじゃ。
「宿などは?」
「雨の日以外は普通に野宿。飯はたぶん途中で飯屋寄ってる」
「それを毎年、一か月ほどかけて?」
「そうだよそれがキムンカムイって種族だよ」
「強いな……」
「いいだろ?ヒグマだぜ」
あまりにも生物としての規格が違うんじゃよね。
そしてそれは人格的に良い子であるのとは矛盾せんのじゃ。
■
そういうわけでそれから数日かけてわしら紺野町に帰ってきたのじゃ。
三人してわしの家のコタツでぶっ倒れておる。
「なんというか……すごい旅だったな……」
「うむ、わしの町はあんがい普通の方じゃろ?」
「身に染みてな……あれだけ異様に見えたこの町が懐かしく感じるよ」
「じゃろ~?」
わしがかなり頑張って古き良き「普通の町」を維持しておる訳をわかってくれたか!
この世界では油断しとるとあっというまに「普通」はなくなってしまうんじゃよ!
倒れておるわしらにひよりが温かい葛湯をもってきてくれとる。
甘さが旅疲れに効くんじゃよ……!
「お疲れ様でしたコン様。秋の例祭は明後日ですからそれまでゆっくり休んでくださいね」
明後日……!?わしが主役の祭りが?明日休んでその次に!?
ウッソじゃろ……完全に忘却の彼方じゃった。




