宇都宮・函館間一泊二日バイク旅行
宇都宮インターから高速に入る。
ぼああっぷしたスーパーカブと金田バイクと化したゴールドウイングでじゃ。
料金所で二度見されたわ。
「こ、コン殿!関所を超えてから速くないか!?」
「そりゃ高速じゃもの。そういうスピード出すためのノンストップ道路じゃよ」
ゴールドウイングの後ろからチラチラわしの方を振り返ってきとる。
ヘルメットに無線つけとるから会話できるんじゃよね。
バイカー御用達装備じゃよ。
目の前のヒビキに言わぬのはヒビキが歌い始めてもう五曲目じゃからじゃな。
「きゅ、休憩などは」
「次は黒磯パーキングエリアじゃからまあ一時間後くらいじゃな」
「さ、さようか」
うむ、トイレとかは大丈夫そうじゃな。
では遠慮なくいくぞ!
「いやあ、気持ちのいいツーリングじゃな」
実際ウソ偽りなくええドライブなんじゃよ。
久方ぶりの秋晴れで田畑と雑木林の広がる真直ぐな高速道路……
狐の野山を駆け巡る本能に訴えてくるのじゃあ……
■
「大丈夫かのアーネスト殿」
「だ、大事ない……!疲れたが……馬のような物と思えばこれはこれで爽快だ」
うむ、乗り物酔いはないようじゃし、慣れてきたようだの。
ヒビキはパーキングエリア内のコンビニに買い出しじゃ。
「おー、案外大丈夫そうじゃん。はいこれお茶と飯ね」
「フライドチキンにじゃがバターまんか。定番じゃのう」
夜明けの黒磯パーキングエリアで三人してベンチに座ってコンビニ飯をくう。
このパーキングエリア自販機とトイレとコンビニしかないんじゃよね。
駐車場も二〇台くらいじゃしのう。この小ささがいいんじゃよ。
「して、今日はいかほど走るのだ?」
「東北の長者原サービスエリアの中の宿で泊まるからのう。まあ二三〇キロくらいじゃな」
「それは馬だといかほどの」
あー、馬のう。わしも文明開化前は馬車とか使ったこともあるしのう。
ええとどのくらいじゃったかな。
「馬だとだいたい一週間をなんと今日は三時間でじゃな」
おお、アーネスト殿が閉口しておる。
「まあ何がどうなっても夕方までには着くし、蔵王あたりでまた休憩すっからさ」
「うむ、ゆっくり休み休みいくのじゃよ」
さー飛ばすぞ。東北道の下りじゃからな。思い切り走れる良い道じゃよ。
■
おー、蔵王サービスエリアから蔵王の街が見えるのう。
「相変わらず天狗の街は止まり木みたいじゃのう」
「コン殿、空を翼の生えた人が飛んでいるのだが」
「天狗だよ。そっちには翼生えた人いない感じ?」
「いや、ハーピーなどはいるとは聞いたことがあるが……あの世界樹のようなものが、街……?」
いや本当にクソデカい木が山に生えとるんじゃよね。
そんでもってビルが木の実みたいにぶら下がっておる。
天狗のデザインセンスは終わってるのじゃ。
「うむ、蔵王にいるのはだいたい烏天狗じゃからな。全員飛べるから入り口は地上に作らんのじゃよ」
「……とてつもないな」
このパーキングエリアはトイレと自販機しかない昔ながらの小さな休憩所じゃから余計じゃね。
紅葉が綺麗なのじゃあ……
■
長者原のサービスエリア内のモーテルに泊まる。
白い小さな洋館風のホテルで部屋は案外広い。
ベッドもキングサイズで楽じゃあ……
「なあコン殿」
「なんじゃ~?」
「私の見間違えでなければ先ほど高速道路を足が馬の人間が走っていたようだが」
「あ~、遠野のオシラサマの眷属の馬人じゃよ。馬の耳と尻尾もあったじゃろ?」
あいつらクソ速いんじゃよね。
なんなら馬人競馬とかいうのでアイドル扱いじゃよ。
こう……甲子園的な?頑張る若人を見る系の娯楽じゃ。
だいたいみんなすらっとしたスタイルの良い美形じゃからの。
「遠野、遠野……ここか。あまりにも遠いように見えるが」
「あやつら走ることに関してはブッチギリじゃからのう。一日で百キロくらい移動するんじゃよ」
アーネスト殿は地図を畳んで横になった。
「……今日は早く寝ることにする」
「うむ、それがいいんじゃよ」
蔵王名物牛タン弁当食ったら腹がくちくなって眠いのじゃ……
ヒビキ?あやつ外でギター持ち出して歌っておるから。
あやつ歌うまいんじゃよね。ほれ、詩歌は悪魔の領分っていうじゃろ?
鬼もそうなんじゃよ。
まあ道路使用許可を聞かれる前に帰って来るじゃろ。
■
そしてアーネスト殿にとって艱難辛苦を乗り越えた末にわしらは大間漁港に降り立った。
相変わらず鄙びた港じゃのう。
やたらだだっ広くてがらんとしておるのじゃよ。
「ボートの鍵借りれたわ……なんでぽんちゃんって津軽海峡の漁師さんと知り合いなんだろうな……」
「わからぬ。知りとうない」
神々の会議の接待役だからって説明つかんほどに顔が広すぎるのじゃよ!
「……!これが、海か……」
アーネスト殿が感動しておる。うむ、喜んでくれたら連れて来た甲斐があったのじゃよ。
「おお、広いだろ~?途中で海の上で飯食ってくからな。マジで波の下にも都がございますってもんだからやべえよこのへん」
「ハハハまさかそんな。……おいウソだろう!?」
「まあ慣れればこのへんはまだ常識的じゃよ」
神戸港沖にあるという竜宮城や小笠原沖にあるというルルイエに比べればの!
ガチの水中都市は時間も空間もいい加減じゃからな。
ここはまだ洋上に足場を組んで屋台があるだけましなんじゃよ。
店員が海から出てくるのを除けばの。
■
「……ここがホッカイドウか……思えばずいぶん遠くに来たのだな……」
「うむ、お疲れなのじゃ。休み休みとはいえ弾丸旅行じゃったからのう」
アーネスト殿が宇宙猫みたいな顔になっておる。
函館で船からバイクを下ろし、北海道内陸に足を延ばす。
うーむ広大な北海道の原野は気持ちいいんじゃよ。
「さて、と……呼ぶぞ、いいな?」
「う、うむ」
熊と待ち合わせをしとった山んなかじゃよ。
そこでヒビキが思いっきり指笛を吹いた。
おーこだましとるこだましとる。
「これで本当に来られるのか?」
「たぶんあと二分くらいで来るよあいつ」
うむ、破壊音が近づいてきて、鳥や獣が逃げているのじゃ。
「オオオオーッ!!コンちゃンッ!!ヒビキッ!」
「わしもかや!?」
「あー、まあ私がやるよ。ヘイッ!ユキこっちこっち!」
「グオオオーッ!」
身長二メートル以上あるモデル体型の銀髪美人が時速六十キロで突っ込んでくる!
人熊が突っ込んでくる!そう!突っ込んでくる!!
そして姿勢を低くしてかかとをアンカーのように踏ん張ったヒビキと轟音をたててぶつかった!
「グゥオオオーッ!」
「はっはっは、よーしよし!はいはい!よしよし!もう放せ殺すぞ!」
「グルルル……ヒビキ、ひサしぶり。コンちゃン。あいたかっタ」
二メートル超えクールビューティーが大型犬みたいなじゃれつきかたをしてくるからもうこちらは毎回情緒がめちゃくちゃじゃよ。
「お、おう。久しぶりじゃの」
「そっチのヒトはダレ?」
「ぼ、冒険者のアーネストだ……そ、そう!コン殿の客分なのだよ!」
声が震えておる。わかるのじゃ……あまりにも野性!あまりにも獣!
ワイルドが過ぎるのじゃよ。
「コンちゃン?」
「本当じゃよ?」
「そっか」
スン……と熊のテンションが急に落ち着く。
この緩急がマジで怖いんじゃよ。
何かあればこの速さで即ガチめな怒りのない純粋な殺意が飛んでくるからの。
「じゃあオ友だチだネッ!!」
「う、うむ」
ユキの咆哮だけでそのへんの木々が震え、葉が落ちる。
鼓膜も丈夫な妖狐で良かったと心から思うのじゃ。
「コン殿。確認だが……確か私の仕事とは」
「うむ、わしと共に航海中このユキの話し相手になるんじゃよ」
おぬし一人を死地におくるわけにはいかんから……!
「泣いていいか?」
「ダメじゃ」
ユキが傷つくからのう。じゃから弱音は聞かんぞと言ったじゃろうに。
まあ……ユキはこういう感じじゃけど友達には違いないからのう。
とはいえ……海の上、熊と同船、半日間……!何も起きないはずがなく……!
わしも今からちょっと緊張しているのじゃよ。
なんとかなれーっ!




