チュートリアルの終わり
「お前んところの長女、長距離ドライバーやってたよな?」
「ノン、アレの荷台は借りものじゃ。熊のパワーで壊すと面倒じゃの」
「あ~じゃあ青函フェリー乗せるか」
「ノン、それができるのであればそもそもこうなっておるまい」
「じゃあもう、狸のぽんちゃんと犬神のシロも巻き込むか~?」
「もうそれしかあるまい……!わしらの手に余るんじゃよ」
むっ、ひよりが苦笑しておる。
「急にヘルシングごっこ始めてどうしたんですか?」
「暇を持て余した神々の遊びじゃよ」
「事実で通すのはやめてくださいね?」
こやつ言いよるのう。この図太さは本当に美徳じゃよ。
気楽な世話役で助かるのう。
「とりま、ぽんちゃんに電話するわ」
「おー頼むのじゃ」
最近のスマホはスピーカーモードがあるから便利じゃのう。
「もっしー?私だよ、鬼のヒビキだよ」
『たぬきのぽんです。どうもお久しぶりですねえ。お元気でしたかあ?』
このおっとりした甘い声じゃよ……この甘さがこわいんじゃよ。
「たぶんさあ、そっちもそろそろ忙しいんだろうけど、いっこ仕事頼んでいい?手間賃で百万明日までに振り込むわ」
『じゃあまあお話から聞かせてもらいますねえ』
化け狸と猫又は出雲の神々の会合で接待役や場所の手配を任されておるからのう。
ものすごくデカいシノギなんじゃが、まあ大変でな。そろそろ忙しくなる頃じゃからな。
なんなら狐も普通に駆り出されることもあるからのう。
まあわしはもう氏神じゃから?もてなされる側なんじゃよ。ほほほ。
「熊……なんだけどさ。北海道の。ユキちゃんな」
『あ~……お出迎え要りますよねえ』
この間じゃよ。本当に悪い子じゃないんじゃ。ただただ熊のパワーがこわいんじゃ。
「それな。船出してくれる?ボートな。個人用のでかいの」
うーん、なるほど個人用レジャーボートか。あれならアリかもしれんな。
『だったら助かりますね~。正直他の方々も妖し筋が使えなくなって色々大変ですから~』
他も交通事情たいへんなんじゃろね。
いや~狸は大変じゃのう。他人事でよかった……!
わしも若い頃は接待でお酌したからのう……!
「おー助かるわ。場所はどこからいけんの?」
『今の時期だと津軽の大間ですねえ~。お金は実費でいいですよお』
「いやいや悪いって……忙しいんだろ?」
『だからなんですよねえ。代わりにお迎えやってくれるなら助かりますからあ。貸し借りの相殺ですねえ』
それからまあ私が出すからとかいやいやいいですとか一通り茶番をして金の話が終わる。
『じゃあ大間漁港のほうに船を手配しておきますねえ。詳しい場所は後でメールしときますよお』
「助かるわ……!」
『お役にたてればさいわいですう』
ヒビキが指で丸サイン作っとるわ。
『じゃあコンちゃんによろしく言っておいてくださいねえ』
「お、おう。お疲れ」
普通にわしが隣にいることがバレておる。
あやつのこういう所がこわいんじゃよ……!察しがよすぎるのじゃ……!
「コン殿、これが電話か……便利なものだな」
「ほほほ、便利やら不便やらでのう。まあそういうわけで二、三日外すんじゃよ。アーネスト殿はゆっくりしててくだされ」
「それなのだが……」
ほら来た!どうせ行きたいとか言い出すんじゃろ!
勘弁してほしいのじゃよ。ケガさせるわけにいかん客人なんじゃから。
「実は私は山の生まれでな……率直に言おう。荷物持ちでも何でもする。対価が必要ならば払おう。船に乗せてくれ」
「え~?おぬしな~客人にそんなんさせるわけにいかんじゃろ?それにケガさせたくないのじゃ」
「なんの、神だとしても熊一匹でどうにかなる私ではない。伊達に鎧を着ているわけではないのだ」
お主がいま着てるのはユニクロのゆったりトレーナーじゃがの。
「え~そうは言われてものう……のうヒビキ?」
「あー、じゃあこうしよう。テストな。いまからやるぞ?はいこれ試練」
ヒビキが机の上に置いてあるペンを投げナイフのようにアーネストに投げる。
鬼のパワーでやるから普通に音速超えるんじゃよね。
「お~やるのう」
「伊達ではないといっただろう」
やるのう。普通につかんでおるし、立ち上る妖気というか魔力からはなかなか堅牢な魔力装甲が感じられるのじゃ。
「やるじゃん。じゃあ大丈夫じゃねえのコン。二人も三人もいっしょだよ」
「う~む……」
まあのう……死にはせんじゃろうしなあ……
「あーでも移動は港まで私の趣味でバイクになるけど大丈夫そう?」
「そうじゃそうじゃ!大変じゃぞ!」
「あの鉄の馬みたいなものだろう?大丈夫だとも。相乗りには慣れている。そこまで贅沢は言うつもりはない」
「じゃあ決まりな。コン、私が二ケツするから気にすんなって!」
うーむ……まあ最低限の護身の心得はあるか……
「それにあれじゃん、どうせ慣れたら観光に連れ出す気だったんだろ?前倒しになるだけだって」
「ん~!まあそれもそうじゃのう。アーネスト殿。少々過酷な旅になるがそれでもというのであれば……」
「ぜひよろしく頼む!海というものを一目見たいんだ」
よかろう!そこまで言うたのならばわしも一肌脱ぐかのう。
「弱音は聞かんぞ」
「ああ、私は冒険者だからな。冒険してこそだ。私にもその仕事を手伝わせてくれ。世話になりっぱなしは性に合わん」
ならばまあ、やるだけやるとするかのう……
「あっ、じゃあ私のヘルメット使ってくださいね。車庫にあるので。ええと、なんというか……心して無事にかえってきてくださいね?」
「うむ、必ず無事に帰る。信じてくれ」
うーむ、ひよりがしれっと笑顔で怒ってるのじゃあ……
まあ、あれじゃな。チュートリアルは終わりというやつじゃな。
見ねばわからんこともある。強く生きて欲しいのじゃ。




