新人猫神あいさつ回りの旅
「そうじゃ、資産運用について知りたいんじゃったらな。顔見せもかねてわしの友人たちの街を見ていくのはどうじゃ?」
「マジすか?それってすぐできる感じの資産運用っすか?」
「まあ……犬神の白峰御前や鬼のヒビキあたりなら仕事を回してくれるんじゃないかのう?それにほれ、若いうちはコネを作るのは大事じゃぞ。マジで仕事の入りが変わってくるからのう」
いやほんと、コネは大事なのじゃ。エグいほど収入が変わってくるもの。
「いや~でも急に休みを取るのはっすねえ……」
「そこはほれ、ぽんの名前を出せばええ。あやつの名前を出して出雲の会議の一週間ほど前から休むと上役に言ってみい。するっと休みがとれるのじゃ」
「ええ……いいんすかね。そういう所でぽんさんの名前だしちゃって」
「構わん構わん。ぽんに紹介されたわしがぽんに頼まれた仕事をするために必要なんじゃもの」
おっ、迷っとる。まあ若い頃にいきなり一週間休めは酷じゃからなあ。
「まあええ。ならわしからぽんに一言いっとくのじゃ。それで休みが取れんかったら仕方ないわい」
「すんませんお願いします……」
母屋の固定電話でぽんに電話したら二つ返事で『そのくらいお安い御用ですよぉ。お待ちしておりますねえ』と言うとった。
「なんか……二十分くらいで私の予定すぐに開いたんすけどいいんすかねこれ」
「じゃろ~?ぽんはこういう時にめちゃくちゃ頼りになるんじゃよ。わしがぽんを怖いという理由がわかったじゃろ」
「あの人の謎の影響力なんなんすか……?」
「まあ、それも今度の顔見せ行脚ですぐにわかるのじゃよ」
「ううんマジすか……」
マジで嫌そうな顔してるのじゃ。
まあ若い頃はこういう付き合いとか嫌じゃよね。
でもあやつらの街はマジでただ観光するだけじゃったら楽しい所じゃから……
■
そういうわけで数週間後。
おおよそ十月の末くらいじゃね。わしらは出雲へ旅立った。
いつものあの社用車エブリイでじゃよ。
リュックやらキャリーバッグにお土産と着替えを詰めてのう。
「これで埼玉から島根県までいくんすかあ!?軽自動車で!?」
「ま、まあそう急ぐ旅ではないしのう。おぬしは後部座席で寝てていいんじゃよ」
「う、うっす……」
早朝の東名高速道路を飛ばしまくり、森と山だらけの高速道路を快調に飛ばす。
うーむ青空が気持ちいいのじゃ……
「おおそうじゃ、ついでじゃからわしが実際どういう収入源持っとるかも言わねば不実じゃのう」
「いや~いいんすか?ぜひ教えてくださいよ」
なんだかんだでこやつも猫又じゃのう。
爽快な秋のドライブを楽しんでおる。
「うむ、神社を持つとのう。秋の例祭と正月の賽銭は確実に入る。あとわしのような稲荷じゃと春の豊作祈願が何気に一番がっつり入るぞ。その分マジで豊作の祈祷は覚えなきゃならんがのう」
「あ~!正月のお賽銭!確かにそれは確で入りますもんね!お稲荷さんもそっか……稲の神様ですもんね……猫又だと何だろ……」
「そこはほれ、ネズミ駆除とかあるじゃろ。種族特有の祈祷資格を見ればええんじゃよ。だいたい通信講座で習えるからのう」
豊作祈願ばかりはガチの家業じゃよ。
例祭みたいに祝詞唱えて儀式して……でがっつり祈祷料が入るのじゃ。
その上できっちり豊作という結果も出さねばならん。
マジで腕が問われる呪術じゃな。
「まあ、お坊さんのお盆みたいなもんでのう。ガチ繁忙期じゃよ。こういう時に一族がおるとええぞ~。娘や孫もバイトで駆り出しておる」
「えっ、いいんすかそれ!?」
「ちゃんと出すもんは出しとるし、あやつらもちゃんと資格を取っておる。全部合法じゃ。まあ手伝わせて悪いの~とは思うがな」
「う~ん、一族っすか……まだピンとこないすねえ」
「まあ、若いうちに産んでおいたほうがええよとだけ言っておく」
ミケはう~ん……と悩んでそれからスマホポチポチしだした。
飽きてきたようじゃな。
「おっ、そうじゃ。出雲の会議ではのう。先にお偉方が出雲入りして国会答弁みたいなのするじゃろ?」
「あ~毎年テレビ中継やってますね。みんな黒塗りのベンツですげえセレブなホテルに乗り付けてやってるやつすよね」
「それじゃ。あれネットニュースでもええからトピックと会議の結果だけでも目を通しておくとよいぞ」
うーむ、嫌そうな顔しとる。
まあ嫌じゃよね。わしも嫌じゃった。
新聞とにらめっこじゃからな毎年。
「ウス……努力します……」
「まあ面倒じゃけど、普通にそういうの話題になるし聞かれるからのう」
ミケはしばらく考えて、ふと思い出したように尋ねた。
「聞かれるって……そういえば新人のうちは偉い神様のお酌とかしなきゃダメってあの噂マジですか」
あ~!あれか!あったのうそういうのも。
「おぬし神社もっとらんよね?」
「あっ……そういう感じなんすか……?もってないす」
「じゃあ、何年かしたらバイトのお誘い、というテイでコンパニオンのお仕事回ってくるんじゃよ」
「……コンさんもしたんすか?」
「やったのう、大変じゃった」
まばらな雲が青空を泳いで後方に流れていく。
うーんいい天気なのじゃあ……
「どういうのが大変なんすかアレ……?」
「いやあ、相手はセレブじゃし失礼があったらとか、うっかり国家機密聞いちゃったらとか、そもそも相手はわしらとは格が違うお方じゃからな。その気になれば紙ペラみたいにひとひねりで殺される相手にお酌じゃよ」
「何とか断れないすかね……?」
「ただし日給三十万じゃ」
後部座席でがばっとミケが起き上がった。
「マジすか!?」
「大マジじゃ。しかもそういう場での若い者同士でコネができるじゃろ?高天原の噂話も届くじゃろ?なんならセレブの方々に気に入られれば一気にデカい案件が回ってくるぞ」
けけけけ。悪い笑顔になってしまうのう。
ミケは目がお金マークになってる顔してるのじゃ。
「いや~そういう世界マジであるんすか……?」
「マジじゃ。そう考えれば悪くないバイトじゃろ。何しろ相手は神話の神じゃから相応に羽振りはええし、体面は気にするんじゃよ。おぬしらにもしっかり旨味を与えてくれるのじゃ」
「いい神様っすねえ!」
「じゃろ~?まあ来年あたりからそういうの来ると思うのじゃ」
「楽しみになってきたっすねえ!」
こやつ面白いほど現金で話しやすいのじゃ。若者とは素直が一番じゃよ。
■
そういうわけでいくつかのサービスエリアで食事や休憩をして、最初の目的地についたのは夕食ごろじゃった。
「たしか最初は京都の丹波篠山あたりのヒビキさんの街でしたっけ?」
「そうじゃよ。響山をくりぬいて作った日疋町のヒビキニュータウンじゃ」
「山も街も自分の名前つけてるんすか……?」
「まあ……あやつが開拓した山で、実際ほとんどあやつの私有地じゃからなあ」
まあ、わしもあのネーミングセンスはヤバいと思うのじゃ。
人の事は言えんがな。
京都縦貫道を降りてしばらく。
暗い山道を走るといきなり山一つがスタジアムくらいギンギラに光っておる。
斜面には団地とイオンのビルが立ち並んでおる。
ふもとにはユニクロにマクド、全面ガラス張り公民館やクソデカスタジアムでギラギラじゃ。
「いきなり山ん中に超都会の山がでてきましたけどもしかしてここすか!?」
「ここじゃよ。あやつらしいじゃろ?」
「ヒビキさんウィキペディア見たら持ってる特許の数エグいすね……技術都市的な感じなんすか?」
「じゃと思うぞ?あー、モカが言うにはほぼ『ブルアカのミレニアム』と言っとったな。知っとる?わしにはわからん」
「ウソでしょ。私生きて帰れるんすかね……」
町中に入っていくにつれ、ギンギラのネオンサインがよう目立つ。
渋谷にあるような立体映像広告、やたらデカいコンビニやらメガドンキやら……
あまりにも光量が多いんじゃよ。
あやつこんな騒々しい街でよく眠れるのう。
「なんかここだけほぼ渋谷みたいになってないすか!?あと鬼の割合エグくないすか!?」
「じゃろ~。ほぼあやつかあやつの子分たちの血が入っとるんじゃよ。これでも大江山よりはマシじゃぞ。あそこほぼ全員鬼じゃもん」
道行く人の半分以上に角が生えてるんじゃよ!
男は超ガタイがいいし、女は女で背が低いのに腹筋バキバキなんじゃ。
車はどんどん山の斜面を登っていく。
「なんか隣の車がジェット噴き出して飛んで行ったんすけど!?」
「技術都市じゃろ~?」
「なんかあのへん爆発してません?」
「あと五分もすれば消火されよるよ。見てみい」
「マジすか……マジすね……なんなんすかあのアホほどデカい消防ドローン……」
「技術都市じゃよ」
この調子じゃよ。
この街ではいつでも何でもいきなりじゃ。
鬼の街らしいんじゃよね。
鬼のパワーに耐えるためになんでもかんでも頑丈で、本人たちも頑丈じゃ。
まあすべてが荒々しくもなろう。
「なんかやたら病院多くないすか?ていうかサイボーグみたいな人いません?」
「そうじゃよ。あやつ平安とか戦国のころに遺伝子治療と義体化技術を世界初実用化しとるもん」
「ヤバくないすか?ほぼほぼヤーナムじゃないすかここ」
「あー、あやつの街がらみでなんかその名前よく聞くのう」
「私生きて帰れるんすか?」
「わしが何度も行って帰っとるから大丈夫じゃろ。なんなら医療技術はアホほど進歩しとるから来た時より健康になって帰れるかもしれん」
そんな死にそうな顔せんでも。
わしはあやつの生命倫理は信じとらんけど技術力と義侠心は信じとるからのう。
おっ、そろそろあやつの家じゃな。
「町工場じゃないすかここ!アトリエヒビキって書いてありますけども!」
「あやつのガレージじゃよ。まあこんなもんじゃ」
「なんか車ごとエレベーター乗ってません?私こんなのエヴァでしか見た事ないすよ!」
「立体駐車場みたいなもんじゃよ」
実際降りた先は地下駐車場みたいだしのう。
おっ、何とかマッピングじゃったかのう。何か地面に映像が映されておる。
よし……こっちか。おお、玄関口近くのええ場所じゃ。
自動ドアの前にヒビキが立っとる。
「おー、こないだぶり。そのしおしおになってるのが新人ちゃん?」
「うむ、半月ぶりくらいかのう。半日かけて車移動にこの街はちと刺激が強すぎたようじゃな」
ほれ挨拶せんかとミケの肩を小突くとミケはもうだいぶダメになってる顔で頭を下げた。
「ど、どもっす……新人の猫塚ミケっす……よろしくお願いします」
「宴童ヒビキだ。よろしくな。いやマジで大丈夫そ?今日はとりま飯くって寝な」
「あざっす……!」
すたすた歩くヒビキの案内で五メートルはある大型搬入エレベーターに乗り、降りた先がなんとイオン地下街じゃよ。
「あのなんでエレベーターで下った先がイオンになってんすか」
「便利だから家と直通で山くりぬいて地下街誘致したんだよ」
「いいんすか山くりぬいちゃって」
「私有地はルール無用だろ」
マジでこの山ほとんどが地下基地化しとるからな。
「こやつ趣味が高じてガチの秘密基地もっとるからのう」
「私が開拓した山だし法律上も私の土地だぞ?で、ミケちゃんさ、肉食えそう?あっ、猫又なら魚行く?」
「お腹は無事なのでまあ魚なら何とかっすね……」
「いいねえ~!若いのはタンパク質食わなきゃだしな!あ~じゃあこっちこっち」
普通にショッピングモールなんじゃよ。
規模感がおかしいんじゃけどね。
地下の底から山の斜面まで使っとるから吹き抜けの高さが十階分じゃ。
おまけにガラス張りの天井には星空が見えとる。
長さもまあモールの通りが一キロくらいあるし、ここだけ梅田地下街みたいなんじゃよ。
「へい大将!やってる?」
「へいどうも姉御!席空けてますよ!」
「おっいいねえ。三名だからなんか良いのテキトーに十貫づつ握って!あとは流れで行くから」
「へいっ!」
回らないお寿司じゃね。超お高そうなのじゃあ……
なんせ三方がガラス張りで水槽になっててまるで水族館なんじゃあ……
おまけに個室席じゃからのう。席に着いた頃にはもうミケの顔が青い青い。
「大丈夫?お茶飲む?ぬるめにしといたけど」
「う、うっす……ごちになります……」
「相変わらず高そうな店じゃなあ~」
「いいだろ回らない寿司屋のクソデカ生け簀だぜ」
じゃろうなあ、鬼の板前さんが超でかいすくい網ででっかい魚取っとるもの。
あっ、素手で魚の頸骨へし折ってるのじゃ。うーむ鬼らしい調理法じゃのう。
「へいお待ち!」
寿司が出てくるのがアホほど早いのじゃあ……まずは三貫からじゃな。
客を待たせず腹に負担をかけん心遣いを感じるのじゃ。
一流の店なんじゃろうね。
「いただくのじゃ。う~むこれハマチにエンガワかのう?はちゃめちゃうまいのじゃあ~」
「ごちんなります……うっま!なんすかこれ!?食ったことない味しますよ!」
「だろ~?私が遺伝子から改造ったやつだからまあ八割ハマチだよ」
そんな飯が不味くなりそうなこと聞きとうない!
聞きとうないので聞かなかったことにする。
「はえ~ようわからんがおいしいのう」
「まあ安全性は私が散々食って確かめたから大丈夫だろ」
「あの、残り二割ってなんなんすか」
「え?特にモデルないよ?私が遺伝子オルガンとスパコンで総当たりの予測してこれが一番うめえんじゃねえかなで作ったから」
「合法なんすよね?」
「ああそれね。まだなんも法律ない時に先んじてうちの条例で合法だってことにした」
こやつこの手をよく使うんじゃよ……!
鬼らしいパワー系脱法手段じゃ。
規制される前に全力で実績と前例を作りよるんじゃ。
「もしかしてこれがヒビキさんのシノギなんすか……?」
「それと音楽の印税と、特許いっぱい持ってるからな私」
「理解はしたけど何一つ参考にならないっす……!」
ヒビキはケラケラ笑う。おっ、次の二貫がやってきたのじゃ。
これは何かのう。白子によく似とるのう。
……ま、まあうまければええではないか。
これが何かは聞かん方が良さそうじゃ。
「なに、ミケちゃんやっぱ神になったからには一発当てたい感じなんだ?」
「ま、まあ……正~直にいえばそうっす……!お世話になってる人たちに恩返ししたくて……!」
「じゃあこうしよう。ミケちゃん顔もいいしダンスも上手そうだからユーチューバーになって歌って踊りな」
胡乱な顔になっておる。まあそうじゃろうね。
じゃがこやつ本業というか本来の権能は「宴」じゃぞ。
いわばセックス・ドラッグ・ロックンロールじゃよ。
医療技術だの発明だのは宴に必要な酒造りからの派生にすぎんのじゃ。
派生でこれじゃから本業の音楽はもうあれじゃよ。
音楽で人を殺れるとかそういうやつじゃ。
「ええ……?私猫又でいえば全然普通の顔すよ?」
「並の顔なら十分じゃね?あとは衣装と歌と演出でマジでどうとでもなるから」
「ええ~?アイドルってことすか~?」
ミケがちょっと乗り気になっておる。
まあアイドルも夢じゃないと言われれば若いおなごはそうなるじゃろ。
「そう、それで信者集めて御朱印とかのグッズ売りな。二年で元取って五年で引退する。あとはじわじわ著作権とかで稼ぐわけ」
「いや~、ちょっと興味でてきちゃったっすねえ~」
「ま、覚悟ができたら電話してきな。これ名刺ね」
「あっ、どもっす!これ私の名刺っす~いや~悩んじゃうっすねえ~アイドルかあ……」
ヒビキがいつの間にかしれっとお出しされていた日本酒を水みたいにがぶがぶ飲んどる。
「せいぜい悩みな。迷うのが若者の特権だよ」
「うむうむ、わしはなミケ。この旅でおぬしにいろんな生き方を見せたいんじゃ。その上でおぬしは何を選んでもええのじゃよ」
「コン先輩……」
「あっ、これうまいのじゃ。お代わり頼む」
うむ、とりあえずミケが元気になってよかったのじゃ。
寿司もうまいしのう。
「おーそれな。タッチパネルで注文できる?」
あー、このやたらシュッとした液晶モニターかや。
ダメじゃまるで分らん。
「……お願いしてよいかのう」
「おー任せとけ任せとけ。稲荷寿司たのもっか?」
「うむ、楽しみじゃのう」
そんなわけで関西の夜は食い倒れで終わった。
宿はなんだかビジネスホテルみたいなのを用意されてたのじゃ……
まあぐっすり眠れてよかったのじゃ。
挨拶巡り初日でこれじゃよ。




