おいでよ四国、アニマルランドへ
「いや~……ヒビキさんの街ってマジで未来に生きてますね……」
「じゃろ~」
「ガレージでガンダムが出てきたときはどうしようかと思ったっす」
「あやつ18メートルあるもの作ってどうするんじゃろうな」
実物大ガンダムを作ったと言われたときは開いた口がふさがらんかったよ。
しかもマジで実働するし、武装も再現したとか言っておったからな。
何と戦っとるんじゃろうね。
「あとアレなんなんすか!?ノーアンプ・エレキギターって!?」
一行で矛盾しておるものを作りよるからたまらんのじゃよ。
「あーアレのう。なんでもレゾナンス?リゾネーターとかいうあのおしゃれな円盤やら弦やらを改良したら電源なしでエレキギターの音が出せたとかうれしそうにしとったな」
「総金属製って!ネックにヒヒイロカネとオリハルコンすよ!?ヤバいすよ」
ついでじゃからネックも金属製にしたとか言ってたのう。
なんでもここまで来たら全部金属製にしたほうがすっきりするとか。
ヒヒイロカネもオリハルコンも超レアメタルなんじゃけどね。
「じゃけど音はよかったじゃろ?」
「そこが一番ヤバいすよ!なんでヘビメタ聞いてたらいつのまにかしっとりしたバラードになって私寝てるんすか!?」
「おぬしが寝付けないと言うてあやつが子守唄を歌ったからじゃな」
いや本当にすごいんじゃよ。
曲が始まったとたんに音の美しさに圧倒されていつ曲調が変わったのかつなぎ目がまったくわからん。
わしもいつのまにかついでに寝ておった。
「まああやつの本領発揮じゃよね。あやつの権能は宴じゃもの」
「パンパないっすね……」
「数百年も芸を磨き続ければああもなろう。次もすごいんじゃよ」
「えっ、次もあるんすか?」
数人ほど友人の街を紹介すると言うたんじゃけどね。
ちなみに今は明石大橋をエブリイで渡っとる。けっこう風にあおられるのう。
「まあ次はもう少しわしらには居心地いいじゃろう。なにせ四国は白峰御前の企画した獣人王国じゃもの」
「あっ、そういえば四国は獣人に住みやすいって聞くっすねえ。なんでなんすかねえ」
「次行く白峰御前がぽんと組んで政治力でごり押ししたからじゃよ?」
おお、またミケの顔が青くなっておる。
白峰御前は五メートルくらいある犬神じゃよ。
野心と権力にものすごく素直な奴じゃ。
犬じゃからね。忠誠と権威が好きなんじゃ。
「マジすか。そんな偉い人に会いに行くんすか?」
「あやつ自体は十期くらい町長をやっとるだけじゃよ」
「十期!?」
「それよりも一族から県議会議員を出しまくっとる方がヤバいがの」
「それはもう政界のフィクサーってことじゃないすか!?」
「まあ……わしもあやつは嫌いではないが苦手じゃ。気を抜くとすぐに自分の一族に取り込もうとするんじゃよ」
あやつわしの旦那の遠縁の超強い狼神を狙っとる。
それでわしの一族と自分の一族を結ぼうとするんじゃよ。
なにせ未だに権力に欲を出しとるからのう。
全然枯れとらん。シモのほうもじゃ。
旦那が死ぬたびに次の旦那を狩りに行く恋の狩人じゃよ。
「それ本当に大丈夫な人なんすかあ!?」
「あやつはこちらが裏切ったり不義理をせん限りは優しいぞ」
「裏切ったときに全力で報復に来る人じゃないすか!」
「じゃが、身内にはバンバン儲け話をよこすんじゃ。ちなみに友人や後輩にもじゃよ」
わしはあやつの身内にはなりとうないがのう。
あやつ裏切ったら犬神一族がたいまつ持って家におしかけてくるもの。
その日のうちに、フル武装で、目がガンギマリの犬神の群れがじゃ。
そしてあやつは裏切り者が手下にボッコボコにされるのを見て笑っておる。
わしは怖い。
「んん~!行くっす!」
「うむ、まずは四国ビーストパークにいくんじゃよ。あそこは楽しいのじゃよ~」
「マジすか!行ってみたかったんすよねえあそこ!」
文字通り食肉目の獣人なら最高のパラダイスじゃからね。
クソデカいドッグランみたいな獣人用テーマパークなんじゃ。
「うむ、あやつから永年フリーパスもらったからのう」
「まさかあそこ作ったのって」
「白峰御前じゃ」
何しろ化け狸の本拠地も犬神の本拠地も四国じゃからな。
ならばついでに妖狐や猫又も楽しめるものを……
ということであやつらが本気を出して作った獣人を虜にする遊園地じゃよ。
気をしっかり持たねばのう。
■
「さーて何で遊ぼうかのう。昼に飯屋のプレデターズ・ダイニングで集合するかのう?」
「マジすか!あそこ超高級ステーキハウスっすよね?!刺身も生肉もいろんなのがあってなんかあそこだけ生肉出していい所で!」
「お、おう」
食いつきがすごいのじゃあ……やはり若い者には肉じゃのう。
まああの店、ふつうは行けん超高級ダイニングじゃからね。
ちなみにあの店だけではなく四国では生肉がわりと合法なのは……
もちろん白峰御前の政治力とぽんの根回しなのじゃ。
わしはその政治力がこわい。
「あざっす!ごちになります!じゃあ行ってくるっす!うわーっすっげえー!スーパーキャットタワーだぁ!」
「う、うむ。楽しんでいくのじゃよ」
五〇メートルはある超巨大キャットタワーにミケは全速力で駆けて行った。
あれたしか内部にボルタリングや立体迷宮、屋上には超絶景日向ぼっこスポットとかあるんじゃよね。
まあ……わしは無限穴掘りランドと毛皮エステしてこようかのう。
無限穴掘りランドはわしらイヌ科の獣人にやさしい、無限に穴掘りしていい超巨大砂場じゃよ。
閉園後に術で平らにしてるらしいがのう。
■
「なんか……毛並みよくなってないすか先輩?」
「ほほほ、毛皮エステで耳と髪としっぽを手入れしてもらったからのう。いやー極楽じゃったよ」
マッサージもついてババアには優しいのじゃ~。
めっちゃ疲れがとれたのじゃ。
「そうすよ!ここ極楽じゃないすか!なんなんすかワイルドハントゾーンって!獲物放し飼いで好きなだけ狩っていいとか!超すごい巨大高速ねこじゃらしとか!」
ちなみに犬神向けには無限フリスビー射出装置もある。
「そりゃまあ、わしら獣に特化したテーマパークじゃからな。犬にはスーパードッグランもあるし、狸には化かし放題ゾーンあったじゃろ?」
「なんなら狸がキャストですんごい幻術ショーまであったっす!ここは天国っす!」
「うむ、あやつのこだわりっぷりがよくわかるじゃろ?」
白峰御前の肝いりであの幻術上手のぽんが本気で獣人への快適さを追求したパークじゃからな。
わしでさえ骨抜きになりそうで怖いんじゃ。
「なんだかもう今から白峰御前先輩に好感度が爆上がりしてるっすね……」
「そういうところじゃよ。あやつはそういうやつなんじゃ」
「これが白峰御前先輩のシノギ、ってことすか……すごいっすね……」
うむ、頭がええのう。まさにそれを見せたかったんじゃよ。
とはいえ、いきなりシノギの完成品ばかり見せるのも焦らせていかんかもしれん。
「そのほんの一部じゃよ?四国全体にうっすら獣人向けのチェーン店が多いもそうじゃよ」
その全部からちょっとづつ金があやつの懐に入っておるのじゃ。
あやつのお財布がどんなことになってるかわしもちょっと想像つかん。
少なくともあやつにとっては億でもはした金じゃろう。
なんならこれで同胞たる獣人に働く場を作っておる。
そしてそれが盤石なあやつの権力基盤になるのじゃ。
まさに領主の仕事、循環型経済じゃな。
「……やっぱちょっと壮大過ぎて参考にならないすね……?」
「まあ、あやつならちょっとした案件くらいは回してくれるんじゃないかのう?」
なんならヒビキもアイドル案件回したままだしのう。
なんだかんだでわしの友人はみんな面倒見がええよ。
「まあ、焦らず一歩づつじゃよ。あやつだって最初は飯屋一軒からはじめたもの」
「その最終形態がこれすか……」
「うむ、うまそうじゃのう」
獣人専門肉料理店プレデターズ・ダイニングじゃ。
わしらこの前で待ち合わせしとったんじゃけど、店からあまりにうまそうな匂いがして勝手に足が進んでおるもの。
■
「うンめえええーっ!かっ、感動だッ!こんなうめえもん生まれて初めて食べたっす!う、うますぎる!涙が止まらねえっす!」
「ほほほ、大げさじゃのう。まあめちゃめちゃうまいがのう」
箸がマジで止まらんし、肉と刺身が次々出されるのじゃあ……
各種族向けコースを頼んで五分でこれじゃよ!
ミケには肉と刺身、わしには肉とキノコと野菜にナッツじゃ!
この隠し味はクルミ系じゃな。
ダイコン一つとってもあまりにもみずみずしくて甘いんじゃよ!
全部の食材が一口ごとに汁が溢れ出るのじゃ。
あまりにうまくて理性がぶっ飛ぶ味なんじゃよ!
前はここまでじゃなかったじゃがのう……?腕を上げよった!
「んにゃあああーっ!うみゃあーっ!うみゃい……!うみゃすぎる……!」
「う、うむ。うまいのう……」
「うみゃしゅぎて頭パーになるっす……!幸せ過ぎる……!」
客の中には人化が解けて獣の姿に戻ってしまうものまでおるからな。
まああれってすぐに獣人や人の姿に戻れるもんじゃからええけど。
うおっ、トリュフに松茸が山盛りじゃあ……
それでいて下品じゃないからこの店の品質はおかしいのじゃあ……
「あーっ!うみゃいいーっ!頭おかしくなるーっ!!」
「う、うむ。水も飲むんじゃよ……気を確かにの」
「水まですんごくうみゃいいーっ!!」
ミケが滝のような涙を流しながらガツガツ刺身食っとる。
あやつが食っておるのはヒビキが手加減なしの改良を加えた魚か、ルルイエ直送のやつじゃよ。
とりあえずわしらが正気でこの店を出られることを祈る。
もう祈るしかないじゃろ!こんな味覚の暴力は!
誤算じゃった……!前からうまかったが、ここまで腕を上げとるとは!
■
「は、はやめにパーク出て正解っすね……!これ以上あそこにいたら四国に永住してたと思うっす」
「じゃ、じゃろう……?これがあやつの手口なんじゃよ」
「確かこのパークやあのレストランってもうちょっと小さいのが四国中にぽつぽつあるんすよね……?」
なんならわしら獣人に合わせた美的感覚のアパレルや香水もあるんじゃよ。
しかも四国限定で。あやつの支配の引力というものがわかるじゃろ?
「そういうことじゃ……!あやつこういう事で世界中から獣人を四国に集めとるんじゃよ……!」
わしらは逃げるようにパークから車を出しておる。
まあ向かう先はこのパークの発案者である白峰御前の町なんじゃけどね。
「なんでその人ここまでするのか聞いていいすか……?」
ミケはいまだに涙とよだれを流して後部座席でぐったりしておる。
おそろしいのう。
「『世界に一つくらい我らが主役の島があってもいいだろう』だそうじゃ……」
「それだけでその人ここまでするんすか……?」
「野心とはそういうものじゃよ」
ミケの声が震えておる。それは感動だけではなく畏怖も入っておった。
わしも怖い。
「こ、これからその人の所に行くんすよね……?」
「気をしっかり持つんじゃよ?」
「ねえっ!先輩これ私生きて帰れるんすかこの旅からっ!ねえっ!」
「……気をしっかり持つんじゃよ」
変な形で知るよりこうやって少しづつ慣れていった方が安全じゃろうから……!
たぶん、おそらく。そう願いたいのじゃあ……
この世界には誘惑と落とし穴が多すぎるのじゃあ……
とりあえずしばらく落ち着かせてから行こうとするかのう。




