観光ホテル『たぬや』大温泉前休憩所
狂乱の一夜を終えて深夜のホテル『たぬや』じゃ。
ほぼほぼハトヤみたいなもんじゃな。
大勢が入れる宴会場タイプの観光ホテルじゃよ。
いや~打ち上げで懐石料理にビールのスタイルは落ち着いたのう。
このレトロなぶあつい赤じゅうたんも懐かしいのじゃ。
「ふー……極楽じゃのう。やっぱ風呂上がりはこれじゃよ」
温泉を楽しんだのちにフルーツ牛乳を飲み。
古臭い飴色の皮のマッサージチェアに座る。
百円入れれば十分くらい揉んでくれるからお得じゃよね。
お~。揉み玉がパワフルなのじゃあ……
「……そなたも神か?」
「おー、今日のお客はほとんど神のはずじゃよ。もちろんわしもな」
わしはタオルをアイマスクにして寝ておるから顔はわからん。
じゃけど、若そうな声じゃな。
ちょっとイントネーションが変じゃね。海外からの来訪神かのう?
異世界の……いやいや、あんな賓客は今頃セレブにもてなされてるはずじゃ。
東南アジアとかの神じゃろ。
「海外からのお客神かのう?どうぞくつろいでいってほしいのじゃ」
「そのようなものだ……聞くが、この国の神々の宴とはこのようなものなのか?」
「いや、今日はだいぶ特別じゃよ。異世界からのお客も来てスサノオ様が張り切っておられたからのう」
「そうか……やはり特別なのだな」
「毎回あれでは体が持ちませんからのう」
「あの宴を見て思った。我の神としての在り方は少し窮屈だったのかもしれぬ」
あっ、横のソファに座りよったようじゃ。
それはただ単にカルチャーショックじゃな。
長話かの~。まあ、お客神の愚痴くらい聞かねばバチが当たろうぞ。
「とくに今日、この国の神……鬼神というのだろうか。妙な事を言われた」
「う、うむ」
ヒビキ!お客に何言ってるんじゃよ!
この場面で海外からのお客に物申すタイプの鬼神といえばたぶんあいつじゃろ!?
「我が領地では我の神威によって豊作をもたらす。そのために我が民は私を喜ばせるのだが……『あまりにも我一人の気分に依存しすぎている、いずれ民は我を薬漬けにして神威を安定させようとするのではないか』と……」
ノンデリが過ぎるのじゃよ!それがあやつのいい所でもあるんじゃが。
そしてあやつがそういう時はだいたいマジにそうなんじゃ。
きっと間違ってはおらんのじゃろうが、言い方!
「……その鬼神はあれですかのう?チビで赤髪でギターもっとって角が黒くて尖がった……?」
「ああ、貴公はあの鬼神の知り合いであったか。どうなのだ?」
「うーん……まあ、あやつがそういうのであればまあ……だいたいそうなんじゃろうねえ」
「……そうか」
難しい所じゃよ。
お客にそういうのを言うのはどうかと思う。
じゃが、若者に耳の痛い忠告をしっかり受け止めて欲しいのはそうじゃしねえ。
「……白い犬の神にも、こう言われた。『我が国の神官たちにもっと権限を与え、神殿を分割して互いに監視させよ』と……」
これ御前じゃろ!?デリカシー!わしの友人にデリカシーが欲しいのじゃよ!
とはいえ、こういう場面で御前が甘やかして支配するのではなくマジの統治を説教しとるということは、こやつ地元でかなり調子に乗っておったな?
「うーむ、まあ……それも統治の定石の一つではあるんじゃろうねえ」
「……我は今まで、我が国を立派な国にしようと励んできた」
若いお客神はぽつりぽつりと語りだした。
これはかなり説教が効いておる感じじゃな。
うーむ、友人たちがデカめの粗相をしとるならわしがフォローしとくかのう。
「武を尊び強き戦士を育て、民には勇壮な芸で我を称えさせた。我は神威により豊かな恵みを与えてきた」
「お、おう」
だいぶ軍事独裁政権ではないかそれは?
大丈夫かや?
あー……まあそれでガチ目な説教が入ったんじゃろうね。
「だが……それが本当に正しい事だったのかわからなくなった。我は……もっと違う国を作ることもできたのだろうか」
うーむ……ガチ目な凹み方じゃな。
まあ、それなら話は早いわい。年の功じゃ。
「そりゃまあ、これからすればええんじゃないかのう」
「これから……?我は、我が国はいまさら変われるのだろうか?」
「わからん。じゃけど己が間違えたと思った時にそのままにしておくのは己の心にようないよ」
うーむ、少し困っておられるようじゃね。
「少しずつでええんじゃよ。少しずつ……おかしなことをしたな、と思うたところを改めてゆけば。少しずつでもわしらずっと生きるんじゃもの。百年や二百年かけて少しずつを積み上げればだいたいなんとかなるんじゃ」
「……なるものだろうか?」
「なるよ。みんな店の一軒、法の一文から始めていったじゃもの」
わしはこの旅で訪れた友人たちの街を、我が町を思い出す。
みんな最初は野原から始めたもの。
「貴公もか?」
「わしもじゃよ。おぬしにいろいろ言うたわしの知り合いたちもみな野原で木を一本切り倒すところから始めたのをわしは知っとるよ」
「そうか……そなたは、よい神なのだな」
「いや~、そんなことはないんじゃよ。わしも子育てなんぞ失敗しっぱなしじゃったしのう。今でも悪いことをしたと思うておる」
ギンがひねくれた皮肉屋になったのは普通にわしのせいじゃしな。
その点はほんにすまなかったと思ってるんじゃよ?
「……そうか。貴公にも家族がいるのだな」
「うむ、孫やひ孫もな」
おっ、マッサージ終わったのう。
どれどれお客神はどんな顔だったんじゃろ。
オアッ!?異世界の女神ではないか!
ウッソじゃろ……あ~!海外の国ってそういうことかや!
ウワー……まあ、これはもうあれじゃな。
素知らぬふりで行くのじゃよ!
そう、無礼講!無礼講じゃから!
「ま、まあおぬしも若いんじゃろうし、わしらには存分に時間があるんじゃからね。焦らぬことじゃよ」
「……そうだな。貴公、礼を言う。もし我の国に訪れることがあれば歓迎しよう。貴公の名を聞かせてくれ」
素知らぬフリで立ち去らせてくれんかの~!
とはいえ、聞かれた以上は嫌じゃとも言えんし。
「い、稲荷コンじゃよ?」
「そうか、覚えておこう。私はカリアンナ神国の女神カリーナ。改めてよろしく頼む」
「う、うむ。わしはそろそろ寝るじゃから……お疲れ様なのじゃ」
「ああ、いずれまた会おう」
「う、うむ」
アレッ!?なんか重めの信頼を感じるのじゃあ……
これが吊り橋効果かや!飴と鞭かもしれん。ウッソじゃろ。
ま、まあ……こんな良くある名前からわしにたどり着くのはしんどかろう。
よくある名前でよかったんじゃよ!
旅先のいい思い出でいさせておくれ……!




