ジュリアナ出雲神在祭
駐車場の受付にいくと、何やらアーネスト殿によく似た感じの格好の外人さんがおられる。
「いやぁ……すいません!本当に申し訳ないんですが、どうしてもこの親書をこの国の政府の方に渡していただかないといけないんですよ!」
うーむ、これは異世界の方々じゃないのかのう?
これって実は歴史的瞬間なんじゃろうが、一般公務員らしき受付の人に聞かれても困るじゃよね。
「うーん……外交文書ですか」
「はい!国王陛下から正式にお預かりしたものなんです!」
「おい、何をやっておる。我は退屈だ」
「す、すいません女神様……すぐにしますから!」
ふーむ、代表はやったら偉っそうで中二病っぽい女神。
ガタイのいい軍人あがりっぽい兄ちゃん。
後ろにおる年配のエルフの三名じゃ。
あのおっさんが実際は権限もってるんじゃろうね。
「う~ん、そういうことでしたらこちらでは直接お受けできないんですよねえ……」
「あっ、そうなんですか!?でも何とかお願いできませんか!?」
「いや~実はたまにいらっしゃるんですよね。ここが日本の外交窓口だと思われる外国の方が」
「あっ、そうなんですか……」
「本当に正式な外交使節の方のようですし……外務省には連絡してみます。ですが担当者の確認やら何やらで時間がかかると思いますよ」
「ああ!ありがとうございます!それだけでも助かります!」
「なんじゃあ?これだけ神がおってなんにもできぬのか!?」
子供っぽい女神じゃのう。
ここで年配のガタイのいいエルフがにこやかな顔で出てくる。
あー、あれは人のいい顔をしとるが、相当なやり手じゃよ。
「まあまあ、君。私が替わろう」
「あ、はい」
「まず、貴国の外交窓口が別にあることは理解いたしました。我々としても貴国の制度を尊重したく存じます」
「はあ……」
受付の人困っとるではないか。
うーむ……これは割って入ったほうがええんかのう?
嫌じゃなあ、そんな出しゃばりはしたくないんじゃがなあ。
「ただ、我々は三カ国の共同使節として正式な国書を携えて参りました。これをしかるべき方に届けていただくことが、我々の使命です」
「ええ、その点はまあ……」
「そこで、一つお願いなんですが……正式な交渉についてはまあ置いておいてですね」
「はあ」
「この地には貴国の高貴な神々が多数お集まりと伺いました。我々もぜひご挨拶だけでも申し上げたいのです」
「うーん……まあ……挨拶くらいは……うーんしかしですねえ……」
うおっ、いきなり駐車場に爆音が響きよる。
なんかクソデカいバイクが入ってきたのじゃ。
うわっ、ハーレーの最大モデルのウルトラリミテッドじゃ。
あんなのに乗る神は一人しかおらん。
スサノオ様じゃよ。よりによって。
「どうした!騒ぎか?」
「こ、これは……どうも御大様!いやあ……正式な外交使節の方々らしいんですが、政府への取次ぎに少々時間が……」
「そうか客人か!」
そしたらいきなりなんか偉そうなチビ女神を軽々と担ぎ上げて高い高いじゃよ。
ええんかあれ!?
「おお!異界からの女神か!素晴らしい!そなたも宴に招こう!」
「い、いずこの神かしれぬが、強き武神とお見受けする……!御美名をおたずねする」
おお……大変じゃのう外交使節というのも。
というか触っただけで異界の神とわかるスサノオ様も大概じゃよ。
「俺か!スサノオだ!この国でだいたい三番目に偉いと思っておけ!」
「わ、我は武神カリーナだ。カリアンナ神国の女神である」
「そうか!では盛大にもてなさねばならんな!」
こんな感じじゃよ……おおむね神話の通りなんじゃよ。
これでもだいぶ丸くなったんじゃろうけどね。
「あ、あのスサノオ様!この親書なんですけど……」
おお、お若い異界の使節の方も頑張っとるのう。
「うむ! 親書は預かっておく! しかるべき筋に渡しておこう! まずは存分に楽しんでゆけ!」
スサノオ様が、あのやたらと生気に満ちた目をギラギラさせて笑っておられる。
あーこれは止められんな。もうむちゃくちゃじゃよ。
「ぽん!狸の刑部ぽんはおるか!」
スサノオ様の雷のような大音声が響くともうすでにそこにぽんがいおる。
あやつのガチの幻術はまあこんなんじゃよ。
術の範囲にはどこでもおるし、どこにもおらん。
「そのう……スサノオ様、念のためお聞きしますが、宴はホテルのほうで……?」
ぽんがいろいろ諦めた顔でスサノオ様に確認する。
「今!ここでだ! 客人を待たせるわけにはいかん!」
「ですよねえ」
「ここでしばし歓待し、その間に席を設けよ! それでよかろう!」
「ご高配に感謝しますう……」
ぽんも苦笑しておるが、それでぜんぜん怖気づいてないのがまあプロじゃよね。
「皆の者! ここにはこれだけの神がおるのだ! 客人の歓待一つできぬわけがあるまい!」
スサノオ様が、普段から『そう』なギラギラした目で駐車場をぐるりと見渡された。
「酒だ!肉だ!歌え!舞え!武を見せよ!おのおの磨いた芸を魅せよ!」
オアッ、豪快に両手を広げただけで転びそうになるほどの神気というか生命力の嵐なんじゃよ。
たまらんわ。
「俺が許す!今こそその権能を示せ!」
駐車場に集まっていた神々がいっせいに立ち上がった。
「はぁい、では……せーのっ!よいさっ!」
ぽんが手を打つと、殺風景な駐車場の白線がするりと消え、赤い絨毯が敷かれおった。
紅白の鯨幕に赤提灯じゃよ。これはもう遅めの盆踊りじゃな。
なんなら今の一瞬でぽん自身も煙と共にどろんと消えておる。
匠の技じゃなあ……
「はいはい、急ごしらえですけどねえ~。じゃあ皆さん、よろしくお願いしますよぉ」
「あー、そういうことなら。まあ、しゃーねえなあ」
そこへヒビキがやれやれとでも言いたげにギターを抱え、耳をつんざくような音を鳴らした。
やれやれじゃないんじゃよ。ノリノリでやぐらに上っておろうが。
そうじゃよ!この日はわしの友達みんな来とるんじゃよ!
「な、なんすか何がはじまったんすか!」
「大騒ぎじゃよ。まあ……祭りの類じゃ」
ミケが慌ててわしの所に避難してきおった。
判断が早いのう。さすが退魔師じゃ。
「神在祭っていつもこんな感じなんすかあ!?」
「今年はなんか異世界から外交団が来ちゃったのじゃ。これはもう事故じゃよ」
「どうなるんすかこれ!」
「流れに身を任せるしかないんじゃないかのう」
「ハァ~!?」
うーむ、このやたら攻撃的な音は……
キング・クリムゾンの『21世紀の精神異常者』じゃな。
異国からの客人を迎える最初の曲がそれでええのか!?
おっ、そろそろ歌が入るところじゃな。
「アーオ!」
ええ……ティーレックスの『20世紀少年』になりよった!
なんでじゃよ!?
周囲の神々も一瞬ずっこけたが、すぐにあちらこちらで笑い声が上がり始める。
「なんすかこの歌!?なんでみんなずっこけてるんすか!?」
いつのまにかわしの後ろに避難しとったミケが混乱しとる。
ほれみいギャグが古臭すぎるんじゃよ!
「20世紀少年と21世紀狂人の二曲の合成だからじゃよ」
「ダジャレだけでこんなんなるんすかあ!?」
うーむ、しょうもない!まったくしょうもないのじゃ!
しかもつなぎ目にまったく違和感ないのが技術が高くて腹が立つのじゃ!
「イッツ……BURRRRRN!」
なんでそこからディープパープルにつながるんじゃよ!
若い神がわけわからん顔しとるではないか!
ヒビキが指さした先で篝火がごうっと燃え上がる。
金屋子神が鉄串を並べよるし、あのひょっとこ面の神はカグツチ様ではないか?
豪華すぎるキャンプファイヤーなのじゃあ……
「ヘイカモン!カモン!さくら、さくら……」
森山直太朗がなぜそこに接続するんじゃよ!
アスファルトの割れ目を突き破って若草が伸び、花が咲く。
うーむ草木の神々がめっちゃがんばってるのじゃあ……
こんな晴れ舞台そうそうないじゃろうからね。
「紅だーッ!!」
その横で武神たちがニヤリと笑い、腕まくりをしておる。
ぽんの幻術でしつらえられた土俵の上へ、ユキと白峰御前が上がる。
ユキも来とるんじゃよ……それはまあそうなんじゃが。
今日ばかりは御前も人間形態じゃな。女装無残様みたいなのじゃ。
「きょウは、このアりあマるパワー、つかっテいいノ!?」
「おお!存分に我らが力、見せようではないか!」
そして相撲のテイをした何かが始まった。
御前のやつ術まで使っておる。本気じゃな。
いやあ、あれはもう完全に超能力格闘じゃろ。
「これ、私も行った方がいいんすかねえ……!?」
「そうなんじゃろうねえ……」
わしらは呆然としながらも参加するしかないんじゃよ。
異界の使節たちも呆然としとる。
そりゃそうじゃ。
わしとて、毎回こんなことをやるわけではないのじゃから。
「コンさん、コンさんも参加してくださいねえ」
うおっ、もうこの場におらんはずのぽんの声が真後ろから聞こえるのじゃ。
そうじゃった、こやつの間合いじゃった……!
こやつはどこにでもおるし、どこにもおらんのじゃよ。
わしは慎重にうなずくしかない。
「コンさんも大切なお友達ですからねえ」
「も、もちろんじゃよ~わしら友達じゃもの~ハハ……ハハハ……」
「ですよねえ~うふふ、ふふふ……」
と、とりあえずそれらしい格好で踊っとくかのう!?
思いつくのがジュリアナ東京しかないのじゃよ!
ヒビキの選曲が古いせいじゃぞ!?
神在祭はいつもこんな感じなんじゃよ!
じゃからわしは神々の集まる所にあんまり行きたくないんじゃ!
……じゃがまあ、年一くらいじゃったらこんなバカ騒ぎも悪くないのう。
国威発揚じゃよ!これがわしらの外交政策じゃあ!




