閑話休憩
瀬戸大橋を渡り、米子自動車道を目指す。
うーむ山陰は広々して空気が違うのう。
長い長いトンネル区間を抜けるとスケールの違う大自然の山並みじゃ。
「あれっ、ぽんさんの町にはいかないんすか?」
「ぽんは今は神在祭の準備で死ぬほど忙しかろう。もともと顔見知りじゃし、向こうで挨拶しとけばええじゃろ」
ぽんの町は当然四国にある。四国はたぬきのメッカじゃからな。
瀬戸大橋に乗った時点で気づくとおもったんじゃが、まあ疲れておるんじゃろうな。
「もううっすら気づいてるんすけど、ぽんさんの町もヤバいんすよね?」
「うむ、ヤバいぞ。目に見えた異常は何もないし困ったことは何も起こらんじゃろうがな」
「それって何も起こらないようにしてるってことじゃないすかあ~」
うむ、こやつも学習してきたな。
それが神の御業というもんなんじゃよ。
わしも多かれ少なかれそうじゃが、エゴが肥大しておる。
「そうじゃよ?たぬき共が互いが不快にならんように幻術でちょっとづつ街を美化しておる」
「ヤバくないすか?幻術解けちゃったらどうなるんすかその街」
「……現実の町も照明の当て方やら看板の色合いやらをあやつら全員でちょっとづつ工夫しておるから、幻術破ってもそう変わらんのじゃよ」
あの徹底ぶりにはゾッとするのじゃよ。
丹念に、丁寧に、執拗に街を居心地よくする『演出』が積み重ねられておる。
あの街に行くと現実というものがグラつく。わしはそれがこわい。
「……あの街に本当の姿などないのじゃ。ぽんがおらずとも住人が自主的にええ感じにするじゃろう」
「う~ん、なんか釈然としないっすね……?うっすら管理社会なんじゃないすかそれ」
それはそうじゃな。
御前の所と方向性が違うタイプじゃが、ゆるいディストピアという事に変わりはないのじゃ。
何がこわいって、この二人が組んで四国の政治を取り仕切ってることじゃよ。
御前の野心をぽんが全力で演出する組み合わせじゃ。
関係性としては富豪と御用聞きの商人なんじゃけどね。
じゃけど、ぽんは御前の壮大な発注を実現させてしまうからのう。
どうなってしまうんじゃろうのう。わしはこわい。
「……まあ、ぽんが言うには『お掃除やお化粧と同じですよぉ、皆さんがちょっとづつ気持ちよく過ごせるように工夫してるんですう』だそうじゃ」
「モノマネめっちゃ似てるっすね……」
「そりゃまあ、他人に化けるのは狐狸の十八番じゃもの」
車は蒜山高原のサービスエリアに向かっていく。
いや~よく晴れてカラッとした青空に広々とした大自然で気分がええのじゃ~。
■
蒜山高原のサービスエリアで休憩をとる。
いや~広々した雄大な山並みが心地いいのう。
サービスエリア自体も建物が大きいし、出店も多くて安心して休めるのじゃ。
ぱっと見はログハウス風ファミレスみたいじゃな。
「あれ。ってことは出雲の会議まで直でいくんすか?ホテルもうやってんすか?」
「そうじゃよ。日本全国からゆったりやってくるからのう。神々というのは割とその辺ルーズになるんじゃ」
まあ……いやと言うほど長生きするとの。
時間間隔がのんびりしてしまうんじゃ。
ぽんもそのへんはホテルに抜かりなく手配してるわけじゃよ。
「へー、そういうもんなんすね。それにしてもなんかいい所っすねえ!空気良いから元気出てきたっす!」
「うむ、出雲は神々の地でこれだけ自然があればのう。空気中の神気の濃度が段違いなんじゃよ」
「この流れでマジで空気に何か混じってることあるんすか?」
ミケがさっきから舐めっておった蒜山ジャージー牛乳ソフトを疑いの目で見る。
カンが良いのう。そのミルクもこの神気に満ちた場所の牛から出たものじゃぞ。
「ま、まあこれで疲れも取れるじゃろうし、ホテルでのんびりしておれば本番の会議に万全でのぞめるじゃろうという計算じゃよ」
「結果オーライは私も嫌いじゃないっす」
「おぬし言うようになったの~」
はははこやつめ。
■
駐車場は二手に分かれておる。
わしらのような、それぞれの神社のロゴの入った軽自動車とか軽トラとかの庶民的な社用車。
かたやド派手なスポーツカーやでかいアウトドア車の集まったゾーン。
「なんか……二極化してないすか?」
「正確には三極化じゃ。前倒しでベンツとかの高級車のセレブたちはもう会議を済ませとる」
「は~……こういう社会階層があるんすねえ?」
うっすら舐めが入っておるな。ここは修正しとかんいかんね。
「まあ、だいたいそういう三つの社会構造になるんじゃが、総資産でいえばスポーツカー勢より軽トラ勢のほうが安定しとるんじゃよ」
「そういうもんなんすか?」
「スポーツカーに乗るのはおぬしのような若い神じゃな。で、こういう大衆車に乗るのは地元で長いことやってた神じゃ。金とコネをため込める時間があったから気楽な車に乗ってるだけじゃよ」
「……そういえばユキさんは歩きっすもんね」
「わかったじゃろ?大衆車グループを舐めるのはおすすめできん。よく考えてみい、わしの交友関係というものをな」
ミケはしばらく考えて答えに突き当たってゾッとしたようじゃ。
正解じゃ。わしを舐めてかかった場合、ヒビキにユキに御前が出てくる。
大衆車に乗ってる庶民神は本人は『普通』でも知り合いはそうとは限らん。
そしてその手の地元密着型はコネを広げる時間だけは有り余っとるわけでな。
「う、うす……神の交流って気をつかうもんなんすね……」
「じゃろ~?でもこれもわしらの大事な仕事じゃから……」
車を駐車スペースに止める。いやー駐車場やっぱ混んどるね。
いわば国内の神のサミットじゃからな。
「ところでスポーツカーの人たち駐車場でバーベキューとか相撲とかやってるけどいいんすかあれ」
「おぬしのような武闘派の若い神はあんなもんじゃよ?おぬしもいずれああなる。混ざってくるとよいよ」
「たしかにタメくらいの年頃の人がけっこういるっすね……いってくるっす!」
「うむ、こういうところで友をつくってくるんじゃよ」
おー、ミケも混ざっとるまざっとる。
いやあ、若いもんはすぐに打ち解けるのう。
わしが今回ミケに紹介したように、こういう友は得難い財産になるのじゃ。
存分に青春するとよいよ……




