第4話 意外な一面
小屋を出た瞬間、凍てつくような空気が2人の肌を刺す。
エミリアは腕を擦りながら、
「うぅ…今日は特に寒いですね…」
アスラン
「寒っ。」
アスランはすぐに小屋へ戻り、扉を閉める。
エミリアは扉を開け、
「ねぇ!何してるんですか!」
アスランはうずくまりながら、
「死ぬ。」
エミリア
「死なないですから!」
エミリアはアスランを小屋から引きずり出した。
アスラン
「帰りたい。」
エミリア
「ダメです、杖直しに行かないと。」
アスラン
「お前が行きたいだけだろ。」
2人は森を抜け、すぐ近くの村へ立ち寄った。
この村のパンが目当てだ。
老婆
「あら、アスラン様いらっしゃい。」
アスラン
「パン10個。」
老婆は、パンを焼き始める。
エミリア
「よく来られるんですか?」
アスラン
「うん。」
老婆はエミリアに視線を向け、
「あら、見ない顔だね。」
エミリア
「エミリアと言います!」
老婆はエミリアを見つめる。
「なんとまぁ…綺麗な子だね、エルフかい?」
エミリア
「はい!」
老婆
「アスラン様も隅に置けないねぇ。」
アスラン
「ただの居候。」
エミリアは目を細め、
「アスラン様は、家で寝てるだけですけどね。」
老婆はパンをアスランに渡した。
アスランはすぐにパンを食べ始めたが、熱つ過ぎてワタワタしている。
エミリア
「ところで…どうして様付けしているんですか?」
老婆は遠くを見渡し、
「ここら辺は魔物や猛獣が多くてね、アスラン様がそれらを退治し、その後もこうして顔を出してくれるんだよ。」
エミリアは目を少し見開き、
「意外です…あまりそういう事をしない御方だと思ってたので。」
老婆は微笑み、
「優しい御方だよ。お嬢さんも助けられた事があるんじゃないのかい?」
エミリア
「はい…でも普段の振る舞いを見てるとそれも不思議です。」
老婆はアスランに視線を向ける。
「私はエルフほど長くは生きないけど、この歳になると分かるんだよ。」
エミリア
「何がですか?」
老婆は
「不器用なだけで、誰よりも優しいんだよ。」
エミリアもアスランを見る。
「全然……そう思えないんですけど。」
ワタワタしていたアスランが戻ってくる。
彼は特に村を守っているつもりはない。
老婆のパンが好きなだけだ。
アスラン
「行こ。」
老婆
「2人とも気をつけてな。」
エミリア
「はい!行ってきます!」
2人は村を出て、雪原を歩く。
雪は深く、くるぶしまで沈む。
エミリアは老婆に言われた言葉を考えていた。
エミリア
「アスラン様…意外と評判いいんですね。」
アスラン
「なにが。」
エミリア
「私もお世話になってるし。」
アスラン
「それな。」
エミリアは目を細め、
「なんか…ムカつく。」
夜になり、2人は近くの宿屋へ入った。
アスランはすぐ、ベッドで寝転がった。
エミリア
「掲示板にクエストがありましたね。」
アスラン
「見てない。」
エミリア
「トロールの討伐です。」
アスラン
「あぁ…」
エミリア
「あぁ…じゃなくて、やります?」
アスラン
「なんで。」
エミリア
「クエストってことは、困ってる人が居るんですよ。」
アスラン
「トロールくらい誰でも倒せるでしょ。」
エミリア
「はぁ……全ての人の力を、ご自身の基準にしないでください。」
アスラン
「報酬は。」
エミリア
「銀貨10枚でした。」
アスラン
「安っ。」
エミリア
「安くないですよ、旅費も稼がないと。」
アスラン
「あぁ…」
エミリアがクエストを受けてきた。
エミリア
「街の住人が数人襲われてて、東から来た個体らしいです。」
アスラン
「なら、そうか。」
エミリア
「どういう事ですか?」
アスラン
「東に行くと魔物の強さが上がる。」
エミリア
「魔王の領域が北東だからですか?」
アスラン
「うん。」
エミリア
「でも、矮人国家は大陸中央だから危なくないんですか。」
アスラン
「ドワーフは守りが堅いから。」
次の日、2人はトロール討伐に向かった。
アスランは、2体のトロールの棍棒を軽々とかわし、魔力砲を放った。
トロールは上半身を吹き飛ばされ、膝から崩れ落ちた。
その後街へ戻って報酬を貰い、先へ進んだ。
山越えをしている時、吹雪が襲った。
山越えをしなくても精霊王朝に辿り着けるが、この辺りは山岳地帯が多く、迂回するとなるとかなり時間がかかってしまう。
2人は近くの洞窟に入る。
エミリアは鼻声で、
「うぅ…寒い。」
アスラン
「寒すぎ。」
エミリアは腕を擦る。
「吹雪が過ぎるのを待つしかないですかね…」
焚き火を起こす。
その日は早めに休んだ。
だが次の日。
エミリアの様子がおかしい。
アスランは額を当てる。
「…熱だわ。」
エミリアは目線を下に向け、
「あの…アスラン様…」
アスラン
「なに。」
エミリアは少し頬を赤らめる。
「………近いです。」
アスランはエミリアから離れ、
「自分で治せないの。」
エミリアはローブに包まる。
「僧侶は別に医者じゃないですから…」
アスラン
「この辺、薬草もないか。」
エミリア
「アスラン様は…大丈夫ですか……」
アスラン
「風邪引くのはバカだけ。」
エミリアは冷たい視線を向ける。
「なんか……イラつくんですけど。」
アスラン
「なんで。」
エミリア
「バカは風邪を引いても気づかないだけです。」
アスラン
「失礼だな。」
エミリア
「お互い様です。」
アスランは目を瞑り、瞼の奥で目が動く。
エミリアはその様子を不思議そうに眺める。
しばらくして――
彼の掌から、薬草と毛布が出てきた。
エミリアは目を見開き、
「え………は……?」
アスラン
「なに。」
エミリア
「え……?今…掌から……」
アスラン
「うん。」
エミリア
「何ですか……それ……」
アスラン
「なんでも。」
それ以上は答えなかった──




