第31話 見落としていたもの
その頃──
獣公国への同盟締結に向かっていたフリューゲルが、その国家の全貌を捉えた。
衛兵
「見えました!獣公国です!」
大賢者フリューゲル
「ついに来たか…人類未開の地。」
フリューゲルを乗せた船が、獣公国の領海に入り、警備船が前方で静止の合図をした。
精霊王朝からの使者。
これを聞いた獣人達は驚愕した。
魔物から進化して4000年、人類は獣人を恐れ差別し、国交を結ぼうとしなかった。
だが同じく争った事も無い為、特段獣人達からの嫌悪感は感じられない。
獣人警備兵は一度本土まで案内し、王都からの返答が来るまで、港で待機するように指示した。
世界初、ついに人類は獣人領域に入った。
衛兵
「遂に…着きましたね…」
大賢者フリューゲル
「油断するな、まだ王都に入れた訳では無い。」
衛兵
「ですが、獣公国にはフリューゲル様同様、世界三大賢者の1人がいます!」
大賢者フリューゲル
「あぁ…それ故、使者へ愚行は犯さぬと思うが……」
そして2日後。
「会見の場を用意する故、王都に向かわれよ」と、獣人兵士から知らされた。
フリューゲル達は、獣人衛兵に護送され、王都へ向かう。
そして──
今まで獣人を、「魔物を先祖に持つ者達」と恐れ差別してきた。
だが道は整備され、街は栄え、野で子供が駆ける。
人類国家の有り様と何ら変わりない。
衛兵
「フリューゲル様……これは……」
大賢者フリューゲル
「あぁ……儂らは…大きな思い違いをしておったのやもしれぬな……」
獣公国は、東の大陸南部にある砂漠地帯のさらに南。
北部が砂漠の為、生物の生存が厳しい。
だが、国内に存在する巨大なオアシスの影響で、国全体に緑と砂漠が入り乱れている。
しばらくして、王都に辿り着いた。
王都は上質な砂岩で形成されており、精霊王朝や黄金郷の王都とは異なる、華やかしさがあった。
衛兵
「なんか……すごい見られますね。」
大賢者フリューゲル
「敵意は感じないがな。」
獣公国兵
「珍しいのですよ、貴殿達とは歴史上一度も関わりが無い。ほぼ伝説上の生き物として、我々は認識していましたから……」
獣人達は、フリューゲル達エルフを見ながらヒソヒソと話している。
だがそれは、本当にただただ驚愕しているように見えた。
そして王宮へ入り、玉座の間へ案内される。
獣人衛兵
「精霊王朝の使者、大賢者フリューゲル様御一行が到着いたしました。」
「…通して。」
玉座の間に入った。
派手さは無いが、上質な砂岩で形成された空間。
天井は、青いステンドグラスで覆われており、降り注ぐ光で空間全体に神秘さも感じられる。
フリューゲルは、玉座の前で跪きいた。
大賢者フリューゲル
「お初にお目にかかります。精霊王朝の使者として参りました。フリューゲルと申します。」
彼女は、玉座に座り肩肘をついている。
「マーヘルである。」
【マーヘル公】
110歳の羊人の女性。
羊の角、カールがかった長髪以外は人間と変わらない。
大賢者フリューゲル
「この度の来訪は──」
マーヘル公は遮り、
「人類と、国交を結べと?」
大賢者フリューゲルは目を見開いた。
「左様でございます……マーヘル公。」
マーヘル公
「4000年もの間、私達を恐れていた貴殿達が?」
大賢者フリューゲル
「今までの無礼を、どうかお許しください。我々は、貴方達は魔物であって魔物では無い存在として、認知してきました。関係性の築き上げが難しく、故に国交も結ばず争う事もいたしませんでした。」
マーヘル公
「問題は…貴殿のような大賢者を有しておいて、なぜ人類は我等を邪の者とし続けた。」
大賢者フリューゲル
「それは…」
マーヘル公
「此度の国交締結も、魔王に対抗する軍事強化の一環でしょ?」
フリューゲルは言葉が出ない。
ただじっと、マーヘルの言葉に耳を傾けた。
マーヘル公
「私達は4000年で進化し、ここに安寧の地を築き上げた。だか貴殿達は、魔族と戦いに明け暮れた。貴殿達の方こそ、魔物に近しい者だと私は考えるけどね。」
大賢者フリューゲル
「魔族が出現してから、執拗に奴らは人類を攻撃し続けて来ました。儂とて戦いたくはありません……ですが戦わなければ、守れるものも守れませぬ。」
マーヘル公
「知りもしない相手を、ここまで避けるとはね。」
大賢者フリューゲル
「深く…お詫びいたします。」
マーヘル公
「まぁ…私達も、貴殿達と関わろうとしなかったから、お互い様ね。」
大賢者フリューゲル
「では──」
マーヘル公
「理解は出来るけど、賛同するかは、また別の話よ。」
マーヘルは背筋を伸ばし、見下ろしたような目つきで語り出した。
マーヘル公
「私達だけじゃない。貴殿達でも一致団結してる訳じゃ無いでしょ?」
大賢者フリューゲル
「と、申しますと。」
マーヘル公
「人類にも、邪な考えを持つ連中はいる。私利私欲の為に、金品や人の命を奪う連中。奴らの事を人類と呼び、東南の辺境で静かに暮らす我等を魔物扱いするのは、貴殿達の身勝手な考えではない?」
大賢者フリューゲル
「仰る通りにございます。我等も過ちを犯す不完全な者、貴方達を避ける資格などありません。」
マーヘル公
「どれだけ綺麗事を言っても、軍事強化の一環である事に変わりわない。私達は、貴殿達の駒にはならない。」
大賢者フリューゲル
「駒などとは思っておりませぬ!世界安寧の為に、我等は魔王を討伐しなければならないのです!」
マーヘル公
「その安寧の為に、どれだけの者が死に絶えた!未来の理想論は、その場で死ぬ者達にとっては、何の慰めにもならないのよ!」
大賢者フリューゲル
「魔王討伐は人類の悲願!儂とてその為ならば命をも捧げる覚悟!」
マーヘル公
「その覚悟が全ての者に備わっていると思うな!」
大賢者フリューゲルは冷や汗を垂らした。
「なっ……」
マーヘル公
「兵士や民も、皆血の通った尊い命だ……死者や遺族全員が人類の為に戦っていると思うのなら、お前は何も見えていない!」
フリューゲルは、再び言葉を失った。
マーヘル公
「魔王討伐は世界の悲願…これは私も賛同する。でも戦う者達の多くは身近にいる愛する者の為に戦う。脅威から守る為に命を捧げるの。」
フリューゲルは、マーヘルから目を離さず彼女の言葉に耳を傾け続けた──




