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第30話 異形の包容

ある程度成長したアスランは、フリューゲルに弟子入りした。


フリューゲルは、アスランに憎悪では無く、人類の救済として戦う術を教えた。

だが憎悪の為、生き残る為に魔物を殺戮し続けたアスランにとって、人を救うという感情がよく分からなかった。

実際幼少期を戦場で過ごし、常に生死を問われ、魔物と戦い続けた彼は、感情を押し殺してしまっている。

だがフリューゲルはそれを否定せず、己を心を鍛える為に、他者を救う事も大切だと説いた。


そしてアスランは、闇属性を習得した。

己を作り上げた世界を憎悪した幼少期。

フリューゲルに説かれても、扱う魔法は正直だった。


成長と共に、彼の顔は美しくなっていった。

彼には父親が存在しない為、パナギアと瓜二つの美しい女性顔。

街を歩けば女性に声をかけられ、多くの者が「天帝に次ぐ、美しきエルフ」と彼を称賛した。

しかし彼の鋭い眼光や、ふとした瞬間に見せる、世界に絶望した経験のある儚げな表情はそのまま残った。


そして、今から200年前に起こった、"第二次精魔大戦"。

王都は蹂躙され、国内は壊滅状態。

彼は、フリューゲルの教えを独自解釈し、善意では無く、弱者を見捨てる者になりたくないという自尊心から、多くの国民を救った。

また、数多の悪魔を葬った事から、魔族から『殲命』と恐れられた。


そんな中、魔王自ら彼に攻撃を仕掛けた。

魔王に致命傷を負わされたが、彼も魔王に致命傷を負わせ、撤退させた。


「人類で唯一魔王を追い詰めた偉大なる魔導師」、「精霊王朝を救った若き英雄」としてアスランは祭り上げられた。


精霊王朝や隣国の神政法国では、彼の像が建てられ、エリュシオンやフリューゲルも彼を英雄と称えた。


だが、彼の本質はめでたくない。

憎悪を剥き出しにし、魔物を蹂躙した幼少期。

人の感情を理解出来ぬまま、女性に求められる青年期。

そして、再び憎悪を糧に戦闘し称えられた。

彼にとって英雄視される事は窮屈でしかなった。


終戦から数ヶ月後の早朝。

王都の街中で──


「どうした!?こんな朝早くに!」


アスラン

「うるさい。」


そいつは、アスランに近寄り肩を組んだ。


「おいおい英雄だろ?もっと俺にも優しくしろよ!」


アスラン

「黙れよ。」


アスランは、その男の腕を振りほどいて歩いていく。

彼は、基本的に無神経で口が悪い。

だがその男は、彼の微妙な違和感を感じとった。


「何かあったのか?」


アスラン

「……別に。」


「話したくないならいいけど……あんま無理すんなよ。」


アスランは、立ち止まった。

そしてゆっくりと振り向き、その男に自分の全てを話した。


「そうか……ありがとな。」


アスラン

「何が。」


「辛い事、話してくれて。」


アスラン

「何でお前に話したのか分からん。」


「親友だからだろ!?」


アスラン

「勘弁してくれ。」


アスランは、再び前を向き立ち去ろうとする。


「おい!」


アスラン

「なに。」


その男は、微笑みながら胸を張り、手をポケットに入れている。


「"また"なっ!」


アスランは鼻で笑い、歩いていく。

そしてそのまま、精霊王朝を去った。


彼が去った事は、すぐに明るみになった。

残された手紙には、「人といるのが面倒」と書かれており、フリューゲルは激怒。

終戦後の国家多忙の時期に、腑抜けた理由で国家を立ち去るなど言語道断と、叱責した。


だがエリュシオンは彼の内情を深く考え、少し休ませたいという結論に至り、再び帰還するまでは、一切口出しをしないという決断を下した。


幼少期から70年。

永遠に気が休まらず、戦い続けた彼が求めていたものは、何も気にせずただゆっくり休む事。

そして彼は、ルプランド王国北西部の森の中で、200年間静かな時間を満喫していた。


アスラン

「これが全部。」


話を聞き終わったエミリアは、涙を流しながらアスランを抱きしめた。

「頑張ったね」と言うように、ただ優しく静かに。


彼が過去に、彼の全てが収束されていた。

面倒くさがりな所、テンションが低い所、口数が極端に少ない所も、何を考えてるか分からない所も。

それを話してくれた事への感謝がこみあげてきた。


そして──

もう1人で背負わないで欲しいという願い。

何があっても彼から離れないという強い意志。

その全てが、優しく抱きしめるという行為に凝縮された。


エミリア

「…………とう……」


アスラン

「なに。」


エミリア

「…ありがとう……生きていてくれて……」


彼は感情に鈍感だが、彼女の言葉は妙に胸を貫き、目頭が熱くなった。


怪物でも英雄でも無い。

忌々しい己の過去を、「生きててくれてありがとう」と肯定された。

それは、母が残した「幸せだった」「生きて」という言葉と重なった。

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