第24話 見えない敵
次の日、アスランは寝不足で起きた。
昨夜の不可解な体調不良や、一時的に固有能力が使えなくなった事が気になってまともに眠れなかった。
エミリア
「アスラン様…大丈夫ですか?」
アスラン
「眠い。」
エミリア
「一度、上級僧侶に診てもらった方が。」
アスラン
「いい。」
エミリア
「ですが……」
アスラン
「いい。」
アスランは部屋を出て、天帝の部屋に向かった。
天帝エリュシオン
「どうしたの、こんなに朝早くから。」
アスラン
「"亜空間"が…昨日一瞬使えなくなった。」
天帝エリュシオン
「え、固有能力が使えなかったって事?」
アスラン
「うん。」
【固有能力】
神々が人類種族に与えた恩恵。
固有能力はどの種族でも1つしか与えられず、能力の種類は様々。
エルフの多くは、魔法能力関係。
ドワーフの多くは、物理能力関係。
獣人系の多くは、身体能力関係。
人間の多くは、他種族と比べ元の能力は低いが、多分野の能力を発現する可能性を秘める。
天帝エリュシオン
「聞いた事ないわね…」
アスラン
「困る。」
天帝エリュシオン
「あなた、才能と能力に依存しすぎよ。」
アスラン
「あぁ…」
エリュシオンは目を細めた。
アスランの青冷めた顔、普段なら軽口を叩くはずなのに妙に素直。
エリュシオンは彼の頬に手を添えた。
「顔が真っ青よ…妾に話しなさい。」
アスラン
「何もない。」
天帝エリュシオンは彼の頬をつねった。
「いいから…」
アスラン
「何か居る。」
天帝エリュシオン
「どうしてそう思うの?」
アスラン
「何かが内部に入ってくる感覚、誰かに見られている感覚があった。」
エリュシオンは眉をひそめた。
彼女はアスランの種族を知っている。
種族柄、彼の感覚が鋭い事も知っている。
彼女は、感覚的に彼の言葉が正しいと悟った。
だがまだ情報が少なすぎる。
そして万が一、世界一安全と称される黄金郷王都に魔族が侵入しているのだとすれば、大罪の可能性が極めて高い。
天帝エリュシオン
「一度、ガウロスに話す。妾も魔素感知を最大解放させるから、あなたはしばらく部屋で休んでなさい。」
アスラン
「うん…悪い。」
天帝エリュシオン
「いいのよ…あなたもまだ子供なんだから。」
アスラン
「いつまでも子供扱いするなよ。」
天帝エリュシオン
「あら…いつまでもあなたは大切な我が子よ。」
アスラン
「母親じゃない。」
天帝エリュシオンはアスランの頭をコツンと叩いた。
「こら…それは言わない約束でしょ。」
エリュシオンはアスランが部屋を出てすぐ、ガウロスのもとへ向かった。
皇帝ガウロス
「なるほど…固有能力封印の可能性か。」
天帝エリュシオン
「確定では無い…でもどうも引っかかるのよね。」
皇帝ガウロス
「アスラン……彼の性格は知らぬが、功績は知っている。第二次精魔大戦で魔王を瀕死に追い込んだ、偉大なる魔導師。近くは大罪"色欲"と対峙し生還。そんな彼が、ただの杞憂で言う事とは思えぬな。」
天帝エリュシオン
「そうなのよ……でももし本当なら、固有能力封印なんて馬鹿げた能力……」
皇帝ガウロス
「大罪の可能性が高い。」
天帝エリュシオン
「そのような事が有り得るの?」
皇帝ガウロス
「5000年魔族と戦い続けているが、我らは奴らの強さを正確に知らぬ。」
天帝エリュシオン
「そうよね…」
皇帝ガウロス
「各国元首にも伝え、王宮の警備を強化する。」
部屋に戻ったアスランは万が一の為、杖や戦闘に必要な物を亜空間から取り出した。
その頃、黄金郷王都の遥か上空──
1人の男が魔力通信をしていた。
【魔力通信】
魔素を媒介とする高度魔法で、使用時は空気中の魔素に乱れが生じる。
基本的に国家上層部が用いるもので、登録されていない者が使用すればすぐに分かってしまう。
男
「陛下、ご報告いたします。」
魔王
「どうした。」
男
「"殲命"が…ここ黄金郷王都に来訪しております。」
魔王
「ほう…」
男
「現在、黄金郷王宮内では人類共生連盟の会議が行われており、天帝エリュシオンの護衛として来訪している可能性があります。」
魔王
「そうか。」
男
「如何致しますか。」
魔王
「奴とは接触したのか?」
男
「間接的にですが。」
魔王
「中身か。」
男
「はい。精神支配には、高い耐性を示していますが、固有能力封印は効くようです。」
魔王
「奴の魔力は…確か外付けだったな。」
男
「はい。奴自身の魔力量は不明ですが、かなりの量を制限出来るかと。」
魔王
「上々だ。」
男
「討伐しますか。」
魔王
「あぁ…だが奴を見くびるな。」
男
「無論…そのつもりです。」
魔王
「各国上層部に悟られないように葬れ…それ以外は好きにして構わぬ。」
男
「承知しました。」
魔王
「頼んだぞ…ベルゼビュート。」
冥魔ベルゼビュート
「はっ…」
【冥魔 ベルゼビュート】
数万年生きる堕天魔の男性。
魔王ルキフェルの右腕であり、魔導帝国の第一臣。
大罪『暴食』の名を冠し、その実力は魔王に次ぐとされている。
黄金郷は勇者誕生の国家。
次の大戦まで、勇者やそれに準ずる実力の者を誕生させない、あるいは暗殺する目的で潜入している。
そして──
アスランがまだ気づいていない、ベルゼビュートとの因縁が明かされる事になる。




