心と合理
フレナパティは露骨に嫌な顔をしている。
男
「俺が多忙を極める時に、貴様は快楽に溺れよって…」
淫魔フレナパティ
「陛下は、どんな形でも無力化しろと仰っていたわ。」
男
「逃がしておいて、よくそんな口を叩けるな。」
淫魔フレナパティ
「彼は……私の想像の、遥か上を行っていたのよ。」
男
「言い訳はいい、何故奴を追わない。」
淫魔フレナパティ
「今追ったら、精霊王朝に私達が国内に侵入している事がバレるでしょ…そんな事も分からないの?」
男
「奴を逃した時点で知られる。快楽で思考が鈍ったか。」
淫魔フレナパティは頬を赤らめ、
「だって……極上だったから……」
男
「貴様…私欲で追わなかったな。」
フレナパティは、アスランが着ていたローブの切れ端をつまみ上げ、眺める。
淫魔フレナパティ
「だって見て……こんなに美しい……」
男
「何を言っている。」
淫魔フレナパティは頬を赤らめ、
「私の支配を逃れる者は居ない……でも彼だけは、唯一私を拒絶する事が出来たの。」
男
「それは貴様が、落ちぶれただけだ。」
淫魔フレナパティ
「分からないの?伴侶となり得る者と出会えた時の快感が……」
男
「分からんな、任務に私欲を持ち込むな。」
淫魔フレナパティ
「ふっ……"同類"の癖に、そんな事も分からないのね……」
男
「俺は貴様のような溺れたものでは無く、向上心だ。陛下に認めてもらう為、誰よりも多く功績を挙げる。」
淫魔フレナパティ
「つまらない男ね。」
男
「貴様の評価など、取るに足らぬ。」
フレナパティは、再びアスランが寝転んでいた部分を舐め始める。
淫魔フレナパティ
「私やる事あるから……早く出ていって。」
男
「調子に乗るなよ。陛下は、貴様に奴の無力化を命令された。その責務は必ず果たせ。」
淫魔フレナパティ
「うるさい……分かったから邪魔しないで。」
そして時は戻り──
精霊王朝王宮。
アスランは王宮内の医務室にいるエミリアを迎えに行った。
アスラン
「手当は。」
エミリア
「……終わりました。」
アスラン
「帰ろ。」
エミリア
「1人で帰ります。」
アスラン
「その不機嫌なに。」
エミリア
「……別に。」
エミリアは、アスランを置いてスタスタと歩いていく。
アスラン
「なんかあるなら言えよ。」
エミリア
「何もありません。」
アスラン
「ならその態度は何。」
エミリア
「いつも通りです。」
アスラン
「うざいんだけど。」
エミリア
「もういいです……ほっといてください。」
アスランはエミリアを追って歩く。
エミリアは廊下の曲がり角でソラネルとぶつかる。
大魔導師ソラネル
「おっと…失礼……大丈夫ですか?」
エミリア
「あっ…いえ、すみません……」
大魔導師ソラネルは微笑み、
「大丈夫ですよ。」
アスラン
「前見て歩けよ。」
エミリアはソラネルに会釈し、アスランには何も言わずに立ち去った。
その光景に、ソラネルが何となく悟る。
大魔導師ソラネル
「あの子は確か…アスランの同行者でしたね。」
アスラン
「そう。」
大魔導師ソラネル
「何かあったのですか?」
アスラン
「俺が聞きたい。」
大魔導師ソラネル
「ははっ……とりあえずお茶でも飲みますか。」
アスラン
「なんで。」
大魔導師ソラネル
「君の好きなスイーツありますよ。」
アスランとソラネルは書室に向かった。
アスランはそこで、今回の大罪出現を話した。
大魔導師ソラネル
「なるほど、色欲が……大罪が200年振りに人類領域で出現しましたか。でもまずは、君が無事で何よりです。」
アスラン
「無事じゃないけど。」
大魔導師ソラネル
「ははっ……なら大丈夫ですね。」
アスラン
「何がだよ。」
大魔導師ソラネル
「まぁまぁ……大罪の対応策は今後、陛下やフリューゲル様が模索されると思いますが、今はエミリアとの関係性についてですね。」
アスラン
「たまにああなる。」
大魔導師ソラネルはアスランを眺め、
「ところで……その首の血痣は何ですか?」
アスラン
「分からん。」
大魔導師ソラネル
「色欲と対峙したという事は……貪られたり等はされましたか?」
アスラン
「舐め回された。」
大魔導師ソラネル
「うん、それですね。」
アスラン
「何が。」
大魔導師ソラネル
「エミリアが怒っている理由です。」
アスラン
「なんで。」
大魔導師ソラネル
「ははっ……女性は時として悪魔より厄介ですよ。」
アスラン
「面倒臭いだけでしょ。」
大魔導師ソラネル
「エミリアと出会ってから、他の女性と親密な事はありましたか?」
アスラン
「無い。」
大魔導師ソラネル
「では、尚更ですね。」
アスラン
「あいつに何も言ってないけど。」
大魔導師ソラネル
「女性の勘は、鋭いものです。」
アスラン
「なんで。」
大魔導師ソラネル
「ははっ…君はその辺が理解できませんもんね。」
アスラン
「うん。」
大魔導師ソラネル
「女性は、好意を寄せる相手に対して敏感になるんですよ。」
アスラン
「何その能力。」
大魔導師ソラネル
「まぁ……君の出自を考えれば、感情に疎くなるのも理解できるので、一概に悪いとは言えませんけどね。」
アスラン
「俺何もしてないからね。」
大魔導師ソラネル
「君は、エミリアをどう思っているのですか?」
大魔導師アスラン
「考えた事無い。」
ソラネル
「エミリアが居なくなったらどう思います?」
アスラン
「特に。」
ソラネル
「寂しくはなりませんか?」
アスラン
「一人は慣れてる。」
大魔導師ソラネル
「縛られるのを嫌う君が、唯一同行を許す存在が彼女です。僕はそれが答えだと思いますよ?」
アスラン
「答え?」
大魔導師ソラネル
「ははっ…考えるものではありませんよ。」
アスランは家に帰った。
エミリアは彼の帰宅に気づいたが、一言も声を出さずただベランダから星空を眺めていた。
彼はとりあえず、面倒臭い態度の彼女を何とかしようと考えていた。
エミリア
「……なんですか?」
アスラン
「いや。」
エミリア
「何も無いんですか?」
アスラン
「無くはない。」
エミリア
「じゃあ何ですか?」
アスラン
「その態度なに。」
エミリア
「いいですよ、私は貴方の行いに口を出せる立場じゃありませんし。」
アスラン
「今まで散々口出ししてきただろ。」
エミリア
「もういいです。貴方の無神経さは今に始まった事じゃありません。」
アスラン
「失礼だな。」
エミリア
「もう何も言わないので、貴方も話しかけないでくださいね。」
アスラン
「なんで。」
エミリア
「これは私のわがままです。」
アスラン
「分かった。」
アスランは立ち去ろうとする。
だがエミリアは、立ち去る彼を見て切ない表情を浮かべる。
エミリア
「どうせ…私が居なくてもいいんでしょ……」
アスラン
「嫌なら離れれば。」
エミリア
「離れていいんですか?」
アスラン
「離れたいなら。」
エミリア
「貴方の気持ちを聞いてるんですけど。」
アスラン
「離れてみないと分からん。」
エミリア
「じゃあ何で……何で……」
エミリアはアスランに迫る。
彼女は彼の胸ぐらを、柔らかく掴んだ。
エミリアは涙を浮かべ、
「縛られるのが嫌だとか言ってるのに……何で私の事は…ずっと傍に置いとくんですか?」
アスラン
「苦じゃないから。」
エミリア
「苦じゃなかったら……誰でもいいの?」
アスラン
「誰でも苦だったから、人と居ないんだよ。」
エミリア
「私は何で…苦じゃないんですか……」
アスラン
「知らない。」
エミリアはアスランを見つめる。
だが彼は、本当に理解していないと述べている表情だった。
エミリア
「ぷっ……自分の事なのに、分からないんですか。」
アスラン
「人が何でも、自分の事を理解出来ると思ってんのか。」
エミリア
「確かにそうですね。アスラン様は特に自分の事が分かってないから。」
アスラン
「顔と性格がいいのは分かってる。」
エミリア
「はぁ……本当にいい性格ですね。」
感情表現がまるで無く、いつもテンションが低く面倒くさがるアスランが、自分の面倒くさい感情に対して、彼なりに向き合ってくれている。
彼女は何となく、そう感じた。
エミリアは微笑み、
「こういう時…アスラン様は言葉が下手ですね。」
アスラン
「分かりやすいだろ。」
エミリアはゆっくりと息を吐いた。
エミリア
「いいですよ……私も少々子供でしたね。」
アスラン
「いつもガキだろ。」
エミリア
「はぁ……やっぱり話しかけないでください。」
アスランは「なに、また?面倒臭いな。」という表情を浮かべている。
だがその顔を見て、エミリアは僅かに微笑んだ。




