第17話 異形
アスランは、異形の右腕を握り締めている。
淫魔フレナパティは目を見開き、
「あらぁ〜?その腕どうしちゃったの?お姉さんが見てあげよっか。」
アスラン
「くっ……うざい。」
淫魔フレナパティ
「ふふっ……さっきは散々、私の声で悶えてたくせに?」
アスラン
「……それお前だろ。」
淫魔フレナパティは高揚とした表情を浮かべ、
「そんな事言って……本当は何も考えずに私の身体を貪りたいんじゃないの?」
アスラン
「……うるさい。」
フレナパティは両手を広げた。
まるで、我が子を抱き締めに行くように。
淫魔フレナパティ
「私がず〜っと愛でてあげる。だから……早くおいで?」
アスラン
「無理。」
淫魔フレナパティは口角を上げて鋭い歯を見せる。
「ふふっ……警戒しなくていいのに。しょうがないわね……私の身体しか見れなくしてあげる。」
フレナパティは天井を見上げ、両手を広げる。
すると、足元に桃色に光る魔法陣が展開された。
淫魔フレナパティ
「色慾之解放」
淫魔フレナパティ専用魔法。
魔法陣から、無数の桃色の蝶を出現させて放つ。
触れた者は本能の赴くまま、フレナパティを求めてしまう。
フレナパティは蝶を放った。
覇気も解放し、どす黒く桃色のオーラを解放した。
この状態のフレナパティに口付けをされれば、どんな者でも精神を支配されてしまう。
蝶はアスランに直撃し、桃色の煙が立ち込める。
アスランは、眠るように膝から崩れ落ちた。
フレナパティは、アスランの顔を自身の胸に埋めさせた。
淫魔フレナパティは優しい声で語りかける。
「もう何も考えなくていいの……貴方は一生、この私が愛でてあげるから……」
フレナパティは、アスランに口付けをしようとする。
だがその瞬間──
アスランの目が開いた。
深紅の瞳に、縦長の瞳孔。
淫魔フレナパティ
「なっ…どうして……私の……」
アスラン
「体質。」
アスランは、フレナパティの腹に杖を押し当てる。
フレナパティは即座に、杖を退かそうとするが──
アスラン
「冥獄之煌」
杖から眩い青紫の光を解き放たれ、それは瞬時に凝縮された。
次の瞬間──
眩い青紫の閃光が、フレナパティの腹を貫いた。
フレナパティは、逃げるようにアスランから離れた。
アスランは、右腕の隆起した鱗を握りしめている。
淫魔フレナパティ
「っ………なにっ…これ……」
アスラン
「あぁ……痛い。」
フレナパティは、初めて凄まじい痛みに襲われた。
フレナパティは、最高位悪魔。
魂生命体であり、肉体への攻撃には痛みを感じない。
だが、アスランが今放った魔法は、魂に直接干渉する為、凄まじい痛みを与える。
淫魔フレナパティ
「この私が……愛でてあげるって言ってんのよ!その価値が、なんで分からない!」
アスラン
「……うるさい。」
淫魔フレナパティは涙を浮かべ激昂する。
「私は200年間……お前を喰らうのを我慢してたの!"初めて"お前を見た時から……私は何をしても満たされなくなったの……!」
アスラン
「うるさいって……」
淫魔フレナパティ
「絶対に…私のモノにする……色慾之解放」
アスラン
「ふぅ……暴発砲」
吸収した魔力や粒子を、全て放出する空間魔法。
アスランは天井に向かって放ち、瓦礫が降り注いだ。
物理的に魔法を遮り、フレナパティも身動き瓦礫に埋もれた。
アスランはゆっくりと立ち上がり、右腕を握りしめながらヨロヨロと部屋を出て、エミリアを探しに行った。
アスランは廊下に出て、再び暴発砲を発射。
周囲の上位魔人や壁は、全て吹き飛ばされた。
そしてエミリアのもとに辿り着いた。
顔を見た途端、アスランは壁にもたれかかった。
アスランは精神支配が効かない。
だがフレナパティから、数時間に渡って魅了を与えられ続け、精神支配魔法も直撃している。
アスランはかなりの疲労があり、意識も朦朧とている。
エミリア
「っ……アスラン様っ!」
アスラン
「おぉ…」
エミリアは涙ぐみ、倒れそうになるアスランを抱き締めた。
エミリア
「っ……こんなにボロボロになって……」
アスラン
「くっつくなよ……息苦しい…」
エミリア
「倒れそうだったでしょ?」
アスラン
「まだ……動けるよな。」
エミリア
「はい……!」
アスラン
「じゃあ……行こ…」
アスランは立ち上がり、杖を上に向けて構える。
アスラン
「何も見るな。」
エミリア
「え……」
アスランは天井に、もう一度暴発砲を放った。
天井は吹き飛ばされ、星空が顔を出す。
そしてアスランは──
背から竜のような翼を広げた。
エミリアを抱きかかえ、空高く飛び上がった。
エミリアは、一瞬目を開けてしまった。
そこに移る光景に驚愕した。
だが、いつも通り面倒臭そうなアスランの表情を見て安心した。
そして、ゆっくりと目を瞑った。
エミリアは、あるものを思い出した。
神政法国に建てられた像。
魔王を追い詰めた、偉大なる魔導師。
そこで老婆から聞いた言葉。
竜の翼を持ち
エルフのように美しく
竜のような強さ
200年前の"第二次精魔大戦"で、
英雄視された偉大なる魔導師の正体は──
そしてエミリアは、自分を抱きかかえるアスランの首元に顔を埋め、強く抱き締めた。
エミリアは彼の耳元で囁く。
「ねぇ……アスラン……」
アスラン
「なに。」
多くの感情が込み上げ、エミリアは涙を浮かべた。
そして優しく囁いた。
ありがとう……




