第12話 歪んだ優しさ
アスランは柱に持たれながら、古書を熟読している。
エミリア
「ねぇ、アスラン様。」
アスラン
「なに。」
エミリア
「今日って……暇ですよね?」
アスラン
「なんで。」
エミリア
「海の街行ってみたいな〜と。精霊王朝南東部にありますよね?」
アスラン
「なんで。」
エミリア
「すごい綺麗な観光地と聞いて!」
アスラン
「遠い。」
エミリア
「散歩しながら、ゆっくり行きましょうよ!」
アスラン
「丸2日かかる。」
エミリア
「え……そんな遠いんですか。」
アスラン
「うん。」
エミリア
「えぇ〜……じゃあ王都観光しましょ!」
アスラン
「したじゃん。」
エミリア
「まだ行けてない所沢山あります!」
アスランは拒否し続けた。
だがエミリアは、永遠に誘い続けた。
すぐ帰る事を条件に、アスランは渋々承諾した。
エミリアは店に入り、服の試着や装飾品を眺めている。
アスランは終始眠そうにそれに付き合っている。
エミリアは首飾りを見せた。
「これどうですか!」
アスラン
「いいんじゃない。」
エミリア
「本当に思ってます?」
アスラン
「うん。」
エミリア
「本当に?」
アスラン
「うん。」
エミリア
「え〜!じゃあ買っちゃお!」
王都来た初日のように、エミリアは袋いっぱいになるまで買い物をした。
そして──
気づけば日も暮れてきた。
エミリア
「もう…あっという間に夜ですね。」
アスラン
「腹減った。」
エミリア
「あそこのレストラン行きたいです!」
王都の高台にある、滝に囲まれた高級感あるレストラン。
レストランに入り、滝を一望できるテラス席に案内される。
エミリア
「わぁ……すごく綺麗!」
アスラン
「うん。」
エミリアは眉をひそめた。
「本当に思ってます?」
アスラン
「いい加減慣れろ。」
エミリア
「分かってますけど……何考えてるか分からないから。」
アスラン
「何も考えてない。」
エミリアはテラスに持たれながら、滝を眺めている。
エミリア
「………ありがとうございます。」
アスラン
「なに。」
エミリア
「あの時、アスラン様に助けて貰えなかったら……こんなに綺麗な所に来れなかった。」
アスラン
「あぁ…」
エミリア
「本当に……感謝してますよ。」
アスラン
「いらない。」
エミリア
「なんでそんな頑なに、人からの感謝を拒むんですか?」
アスラン
「感謝されたい訳じゃない。」
エミリア
「善意からですか?」
アスラン
「違う。」
エミリア
「え……じゃあなんですか?」
アスラン
「その場に居ただけ。」
エミリア
「例え居合わせただけでも、助けるという行動に……意味があるんですよ。」
アスラン
「誰かを助けたいと思った事が無い。」
エミリア
「どんな理由であれ、助けた事実は変わりません。」
アスラン
「見捨てる自分が嫌なだけ。」
エミリア
「ではそれを……アスラン様の善意と受け取りますね。」
アスラン
「屁理屈だな。」
エミリア
「ふふっ……それはアスラン様ですよ。」
アスラン
「いちいち掘り下げるなよ。」
エミリア
「掘り下げた時、アスラン様はよく喋るので。」
アスラン
「いつもよく喋る。」
エミリア
「え、少ないですよ!?面倒臭いしか言わないし!」
アスラン
「素直って言え。」
エミリア
「もっと……普通のお話をしたいのに。」
アスラン
「なんで。」
エミリア
「人と言葉を通わせる事に、理由は必要ですか?」
アスラン
「面倒臭いな。」
エミリア
「もぉ〜……!」
しばらくして──
料理が机に届いた。
エミリアはフルコース、アスランは大量のスイーツを頼んだ。
もはや、アスランの行き過ぎた甘党は、いつもの事だ。
エミリアは微笑んだ。
「甘いものばかり食べてると、虫歯になりますよ。」
アスラン
「別にいい。」
エミリア
「ダメですよ!痛いし!」
アスラン
「抜けばいい。」
エミリアは笑い、
「ふふっ……そんな事してたら歯が無くなりますよ。」
アスランはキョトンとした顔で、
「え……生えてくるけど。」
エミリア
「何言ってるんですか、生えてこないですよ。」
アスラン
「大変だね。」
食事を終え、レストランを出た。
すると王都は──
月と星、街灯に照らされた。
昼間の華やかで輝かしい印象とは変わり、神秘的で寂しげな雰囲気が漂っている。
エミリアはお酒を少し嗜み、ほろ酔い。
エミリア
「美味しかったですね〜!」
アスラン
「うん。」
エミリアは腕を絡ませ、
「私と居て〜……幸せですよね〜!」
アスラン
「なに言ってんの。」
エミリア
「だって〜……嫌な時は嫌って言うじゃないですか〜!でも私と一緒に居る事を……嫌って言った事ありませんよね〜!」
アスラン
「うるさいな。」
すると──
エミリアは体勢を崩した。
後ろに倒れそうになり、アスランのローブの袖を掴む。
ローブの袖がエミリアに引っ張られ、捲れてしまう。
だがその時──
不可解な何かが、エミリアの視界に入った。
その時一瞬、酔いが冷めてしまう。
アスランは、捲り上げられた袖をすぐに直す。
エミリア
「あぁ〜……すみません。」
アスラン
「ちゃんと歩け。」
エミリア
「なんか……右腕……怪我してませんか?」
アスラン
「酔ってるだろ。」
エミリア
「じゃあもう一回見せてくださいよ!」
アスラン
「嫌。」
エミリアはアスランの腕にしがみついて歩いたが、そのまま寝てしまった。
アスランは嫌そうな顔をしながら、背負って家に帰った。
次の日、エミリアは二日酔いになった。
そしてアスランは、早朝にどこかへ出かけて帰ってきていたようだった。
エミリアは頭を抱えながら起き、
「おはようございます……すみません。昨日の帰り、あまり覚えてなくて。」
アスランはソファーにぐったりと座りながら、古書を呼んでいる。
アスラン
「弱いなら飲むなよ。」
エミリア
「うぅ……すみません…でも楽しくて。」
アスラン
「水飲みな。」
エミリア
「ところで……どこか出かけてたんですか?」
アスラン
「なんで。」
エミリア
「だって……部屋着じゃないし。」
アスラン
「気分。」
エミリアは疑問に思った。
アスランの妙にぐったりした姿。
そして、いつもより明らかに早く起きていた。




