3-10
「大丈夫。別に君を消したりしないから。話を聞かせてくれないかな」
出来るだけ優しく、声を掛ける。しかし少女の方は目を逸らし、口を噤む。
……困ったな。何も話してくれそうにない。でもあまりグダグダしていたら、黎さんが無理矢理聞き出しかねないし……。
「あっ……その。私が答えるわ」
どうしようかと迷っていると、少女を庇うように女性が前に出て来た。
「その前に、自己紹介が必要ね。私は鈴木涼。この子はアリス。さっきは助けてくれて……ありがとう」
「そ、そんな……僕は何もしてないから……」
実際助けたのは黎さんだ。僕は最後の良いとこ取りをしただけみたいなもので、実際には何もしていない。
「……さあ。何処から話そうかしらね。この子を守ろうと思った経緯から話すと、長くなってしまうのだけれど」
「構いません。ゆっくり話して」
「うん……。最初は何ら関係の無い話に思えるかもしれないけれど……最後まで聞いて欲しいの」
僕がそう促すと、涼さんはゆっくりと話し始めた……。
「……私は、学生の頃に父親から暴行を受けたの」
「ええっ!?」
いきなりハードな話から始まり、僕は思わず絶句する。
って、こんなところで話を止める訳にはいかない。僕は続きを促した。
「母親は庇ってくれるどころか、父親を誘惑した泥棒猫だと私を罵ったわ。そして父親からの暴行のせいで、私は生涯子供を産むことが出来ない身体になってしまった」
これは、何というか……想像以上に重い。はたして僕は最後までちゃんと話を聞くことが出来るのだろうか。
しかし(恐らく)デリカシーの無い黎さんにバトンタッチする訳にはいかない。そっちの方が危険だ。……地雷とか踏みそうで。
「……続けても、大丈夫そう?高校生には重過ぎる話だったかしら」
「だ、大丈夫。頑張る」
僕の様子に涼さんは戸惑っているようだったが、何とか笑顔を作って「続けて」と促すと、彼女は続きを話してくれた。
「高校を卒業して、すぐに家を出たわ。両親から逃げる為に」
それはそうだろう。そのまま家に居ても、彼女にとって良いことは……きっとない。逃げ出したのは正解だと思う。
「でも一人で生きるのは寂しかったし、辛かった。パートナーが欲しいと思ったこともあったわ。だけど、こんな身体の私が結婚なんて、絶対に出来ないって諦めてたの」
「そんなこと……」
「ない」と言い切れるだろうか。まだ社会を経験したことすらない、高校生の僕に。
「優しいのね。でも、私みたいな女をわざわざ選ぶ男性なんて、本当に居ないと思ってたの。だって、私は子供を作れないのよ……?」
「……だけどね、私を好きだと言ってくれる人が現れたわ。嬉しくて、私はその人と御付き合いをすることになったの」
「良かった……!なら、その人と……」
思わず口を挟んでしまうと、彼女は悲しそうに首を横に振った。
「彼には……告げていないの。私が子供を産むことが出来ないって」
「……!で、でも……その人なら受け入れてくれるんじゃ……」
「私だってそう信じたい。でも、真実を告げることで、彼の気持ちが私から離れることが怖いの。だから私は何度も彼からのプロポーズをはぐらかして……喧嘩も増えた。そのうち彼からプロポーズを受けるのが怖くなって……彼を避けるようになった」
涼さんは、今にも泣きそうだった。……流石に、何も言えなかった。
「……そんな時に出会ったのが、アリスだった」




