3-7
丁寧に草むらの中を探してみるが、人らしき気配は見当たらなかった。
人間と一緒に居るなら、人間だけなら僕にも普通に見える筈……なんだけど。
「黎さん、いる?」
「いねェな。だとすると……」
黎さんは草むらをかき分けながら、廃墟になった団地の方へと目を向けた。
「……あそこか」
「げっ……」
そう言った黎さんに、僕はあからさまに嫌そうな声を出して応えてしまう。だって……つい。
放置されて長い年月が経ったであろうその建物は、禍々しい雰囲気を醸し出していた。
「……何か、色々出そうじゃない……?」
「まァ、浮遊霊の一人や二人くらい、居るんじゃねえかァ?」
……うう。この人は何でそんなに楽しそうなのだろうか。
僕は別にホラーは苦手では無いし、どちらかと言うと好んでいたくらいだ。ゾンビを撃ち殺すゲームとか、何作もやったし。
でも、それが現実となると話は別だ。あれはゲームで自分に戦う手段があったから楽しかっただけで、それが何の対抗手段もない現実に出てきてしまうのは……困る。
それに、僕は二度も本物を目の前で見ている。正直、何度逃げ出したいと思ったことか。
「……心配すんなァ」
僕の心中を察したのか、黎さんが声を掛けて来る。
「まァ、ここまでついてくるのを許可した俺の責任だ。何とかしてやらァ」
「えっ……」
この人は、やっぱり良い人だ。見た目はもう危ない人そのものだけど、僕はもう黎さんを信頼していい人だって、とっくに気づいてる。
やっぱり、僕はこの人と……
「あ、ありがとう……!」
「……シッ」
声が弾み、思った以上に大きな声が出てしまい、窘められる。
しかし、廃墟なので思い切り僕の声は響き渡ってしまった。
その瞬間─────……!
ガタッ
「……!上か!」
明らかに人が居る気配。そして物音が廃墟に響き渡り、黎さんはすぐに反応してすぐ側にあった階段を駆け上がる。
「ちょ、待って……うわっ!」
しかしその階段は古びてボロボロになっており、僕は踏み板を踏み抜いて落ちてしまった。
「おいゴショー!無事かァ!?」
先に階段を上り切って上の階に辿り着いていた黎さんがこちらを覗き込んでくる。
不幸中の幸い、僕が踏み抜いたのは階段の3段目だった為そこまでの高さは無く、上手く着地も出来て怪我もしていない。
「ぼ、僕は大丈夫!それよりも追って!逃げられるよ!」
「チッ……!これ持って、そこを動くんじゃねェぞ!」
黎さんは上の階からこちらに何か文字が書かれた札を投げて寄越した。
文字は全く読めないが、恐らく霊避けか何かだろうか。……まあ、ここ色々居るみたいだし……。
「……うっ」
自覚したら怖くなってきた。しかし、勝手に動き回って黎さんの手を煩わせる訳にもいかない。
ああ、足手まといになるくらいだったらやっぱりついてくるべきじゃなかったなあ、なんて後悔しながら、僕はなるべく隅の方で渡された札を握って縮こまっておくことにする……。




