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僕達はサメジマ屋を後にして、純子さんの店へと向かっていた。
「そういえば、今日は馨ちゃんは?」
「近辺をパトロールさせてる。陰魔が見つかったら連絡しろって言ってなァ」
「それ、前も思ってたんだけど馨ちゃんが危険じゃない……?」
幾ら彼女に結界を張る能力があるとはいえ、幼い子一人で陰魔を探させるなんて相当危険な行為だと思うんだけど……。
「あァ。馨は幽霊だから問題ねェ」
「幽霊!?馨ちゃんが!?」
今年一番の驚きだ。
だ、だって普通に触れたし!そもそも視えない僕が視えてるくらいだし!
まあ確かに手に触れた時、異様に冷たいとは思ったけども……それにしたって幽霊!?
「で、でも触れたよ!?幽霊って触れないんじゃないの!?」
「アイツは特級陽魔なんだよ」
とっきゅうようま……?また分からない単語が出て来た。
「陽魔の中でも最高級の陽魔でなァ。幽霊の特級陽魔は自分の姿を霊体にも実体にも出来るんだよ」
「それで普通に触れたってこと?でも、それでも一人でパトロールさせるのは危険じゃ……」
「安心しなァ。特級陽魔には並の陰魔は近付くことすら出来ねェ」
……確かに。今まで襲って来た陰魔は、馨ちゃんには一切手出ししていなかった。
あれはしていなかったのではなく、出来なかったのか。
「ねえ、神々廻さんってさ……」
「おい、ゴショー」
正直神々廻さんにまだまだ聞きたいことはあったのだが、彼が不機嫌そうな声を出したので一旦話を止める。
まあ、あれやこれやと聞き過ぎたかもしれない。説明するのも疲れるだろうし。
「あ、ごめん。何か色々説明させちゃって」
「そこじゃねェよ」
「……え?」
何と、彼が不機嫌なのはそれが理由では無かったらしい。
「そこじゃないって……いったいどういうこと?」
「名前だ名前」
……名前?
彼が何を伝えたいのかさっぱりだ。
「名前?僕間違って呼んだりしてないよね?」
「違う。そうじゃねェ」
「ええ?ちょっと、ちゃんと言ってくんないと分かんないんだけど……」
「……黎さん」
「はぇ?」
彼の口から出た言葉に、思わず間抜けな声を出してしまった。
「さっき黎さんって呼んでただろ。アレで呼べよ」
「ああ……」
確かにさっき呼んだ。僕としてはツッコミのつもりだったのだけれど。
どうやら、彼はその呼び名がお気に召したらしい。
「もうそこそこ付き合いあンだろ。いつまでも神々廻さんって他人行儀な呼び方されちゃァ、イライラするんだよ」
「そうだったんだ。何か、ごめん」
そういうのを気にする人だと思わなかったし、あくまでも彼は僕より年上で成人済みだから、一応苗字にさん付けをしていただけだ。
距離を置きたいとかそういうことでは無いし、寧ろ僕は彼のことをもっと知りたいとすら思っている。
「えっと……黎さん?」
だから、呼んだ。彼の望み通りに。
「……おう、それだァ」
それを聞いた途端、分かりやすく機嫌が良くなったのを感じる。
「じゃあこれからは黎さんって呼ぶよ」
「そうかァ。よし、飯でも奢ってやらァ」
奢るって。どうせ一文無しの癖に。
そんなことを思いながら僕の足取りも自然と軽くなっていくのを感じる。




