3-2
さっそくそのサメジマ屋に向かうと、店の前で立ち往生している神々廻さんを発見した。
「あ、神々廻さ……!」
彼を呼ぼうとした瞬間、勢いよく引き寄せられ、口を塞がれる。
「ん、ん!?」
「黙りなァ。……奴に気づかれる訳にはいかねェ」
僕が訳の分からないままコクコクと頷くと、神々廻さんは解放してくれた。
「えっと……入らないの?」
なるべく小さな声で彼に問いかける。
「入りたいんだがなァ」
同じく彼も声を潜めて返事をする。
どうして入らないのだろうか。入りたいのならば入れば良いだけじゃないか、と思う。
「店主がなァ……居る日でなァ……」
「店主さん?」
だったらちょうど良いと思うのだが、どうして彼はここまで渋っているのだろうか。
「……嫁が店番の日が良いんだよ」
「え……どうして?」
「ここの店主はなかなか説教が長い奴でなァ……魔具を壊す度に怒鳴ってきやがるから……」
「ええ……?」
「修理を依頼した日は良かったんだ。嫁の方が店番だから、すぐに預けられてよ……」
……成程。つまり神々廻さんは店主に説教を喰らうのが嫌と。そういうことらしい。
何か、悪いことして親から逃げる子供みたいだなあと思わず笑ってしまう。
「……笑いごとじゃねェんだ。今日は修理に出してた番傘が返って来る日なんだぞ。何としてでも受け取らねェと……」
ひょっとして、この日は絶対に神々廻さんが来ると思ってるから店主さんも待ち受けているのではないだろうか。
これはもう、大人しく説教を喰らうしかない気もする……。
「ほら、魔具が無いと仕事が出来ないんだから。さっさと取りに行こうよ」
「……後生だ、ゴショー。俺の代わりに引き取りに行っちゃァくれねェか」
「……黎さん、それ……タジャレのつもり……?」
あまりにもつまらないダジャレを切羽詰まった表情で言うものだから、思わずフランクな呼び名をしてしまった。
しかし彼は気にしていない様子……というかそれどころじゃないのだろう。
「ほら!子供じゃないんだから!」
「はァ!?俺がこんなに頼んでやってるんだから行けよ!」
「ちょっと!それが人に物を頼む態度─────」
「うるせえええええ!!店の前でガタガタ騒ぐンじゃねえ!!」
突然、店の扉が開き、中からドスの効いた怒鳴り声が響き渡った。
そしてその声の主は店から姿を現す。……怖っ!金髪だし顔も怖いし、何かどう見てもチンピラじゃん!
「……!神々廻ァ!テメェ!!」
「げっ……!ワニ島……!」
「誰がワニ島だゴルァ!テメェ、表の看板が見えねえのか!?」
……表の看板。ああ。《サメジマ屋》って書いてあるな。
恐らくこの人は《ワニジマ》ではなく、《サメジマ》なのだろう。というか、恐れている相手によくそんな名前を間違えるとかいう挑発が出来るよなあと呆れてしまう。
「……まァ、落ち着けや。ワニ島よ」
「テメェが怒らせてンだろうが!!」
店主……サメジマさんは神々廻さんの無駄に長い長髪を引きずり、その場に倒した。
つ、強い!あの神々廻さんが押されている……!
「テメェは毎回毎回派手に壊してきやがって!!治すのもタダじゃねえんだぞ!?」
「あァ……悪いなァ……」
引きずり倒されながらも、神々廻さんは余裕の表情でそう答えた。凄い。この人どれだけ肝が据わってるんだろう。
「それに、この番傘は俺の仕事じゃねえっていつも言ってンだろ!!」
サメジマさんは怒鳴り声を上げながら、番傘を神々廻さんに投げつける。
「それでもいつも完璧に直してくれて、助かるぜェ」
彼は寝転びながらも見事にそれを受け取るのだった。




