2-14
「ぼ、ぼくの……?」
成世さんは傍らに倒れていた人形にちらりと目線を向ける。式部は、頷いた。
『成世様が赤子の時から、私はずっとあなたの側で、あなたを見守っていました』
「ずっと……側で……」
『幾度あなたに捨てられても、あなたと離れ難くなってしまい、戻って来てしまいました。それはあなたに付き纏う陰魔からあなたを護る為です。……ですが、成世様を怖がらせてしまい……申し訳御座いませんでした』
話しているうちに徐々に式部の姿が変わっていくのに気づく。……神々廻さんの表情が厳しい表情に変わった。
「……まずい。陰魔に取り込まれてやがる……」
「ま、まさかさっきの腕のせいで!?」
成世さんを庇って式部に入り込んだ陰魔の腕。陰魔本体は既に成仏したが、式部に入り込んだせいで腕はまだ残っているのだ。
そしてその腕は、式部と同化しようとしている。
それもきっと、成世さんのそばにいる為─────
僕は思わずゾクリとした。
同じ《そばにいる為》でも、式部と陰魔ではこうも意味合いが異なってくるのかと。
しかも、意味合いが違っても彼らの目的は同じ。「成世さんのそばにいる為」。
だからさぞ、式部とは同化しやすかったに違いない……!
「ねえ!どうしたら!どうしたらいいの!どうしたらぼくは式部を助けられるの!?」
成世さんが神々廻さんに泣きつくように懇願する。
「……そうだ!さっきみたいに陰魔を引き剥がせば……!」
「無理だ」
僕の提案に、即座に否定する神々廻さん。
「ど、どうして……!?」
「魔具は……陽魔にも効果が出ちまう。魔具で引き剥がそうとすりゃァ、その付喪神だって無事で居られるか分からねェ」
「馨ちゃん!馨ちゃんは何か出来ないの!?」
「……ごめんなさい。私には、陰魔に対抗出来る能力は無いの……」
「そんな……!」
僕は膝をついた。もう打つ手無しなのか。このまま式部が陰魔に飲み込まれていく様を見ているしか出来ないのか。
『……祓い手様。頼みが、あります』
式部の、凛とした声が響いた。
「……おう。何だァ」
『私ごと、陰魔を祓ってください』
「だめ!!」
彼の《頼み事》に真っ先に反応し、反対したのは成世さんだった。
「いやだ!だってぼく、護ってくれてた式部にたくさん酷いことしたのに!ぼくの為に死ぬなんてむごすぎるよ……!」
式部に縋り付いて泣き崩れる彼女の頬を式部は優しく撫でた。
『あなたが私に気づいてくれただけで、私にとってはこれ以上無い幸せです』
「いやだ!いや!何とかして!何とかしてよぉ……!!」
必死に縋り付く成世さんの姿を、僕らはただ見ているしか出来ない。
「……時間がねェ」
しかし、神々廻さんは無慈悲にも番傘を構えた。
「や、やめて!式部を殺さないで!」
「いい加減にしろ!それしか方法がねェんだ!テメェはそいつを陰魔にするつもりか!?」
そう怒鳴った神々廻さんの表情は、苦しそうだった。彼だってこんな方法望んじゃいない。
でも、きっと本当に打つ手が無いのだろう。もうこれしか、方法が無いんだ。
僕は彼の辛そうな姿は見たくなくて、目を逸らす。
……その時だった。
「……他にも方法は、あるよ」




