2-11
「……!ゴショー!テメェ勝手に……!」
僕は一番気になった《何度も帰ってくる人形》にその粉をぶちまけた。
するとその人形に憑いている陰魔が姿を現す。
「お、お前か!」
『あっ……』
姿を現した陰魔は、僕が思っていたよりずっと落ち着いた感じだった。
格好は白い着物に身を包み、髪型はサイド三つ編みの黒髪。目は閉じられているが身体は細く、中性的な美形なのだろうということがよく分かった。
……というか、普通の人間に見える。グロテスクじゃないし。前に見た陰魔がドロドロでグロテスクな感じだったから、余計にそう感じるのかもしれないけど。
この人、本当に陰魔なのだろうか。
「おいコラ、ゴショー」
僕が長考していると、神々廻さんに頭を引っぱたかれる。
「何アホ面してやがる」
「何と言うか……その、陰魔にしちゃグロテスクじゃないなって……」
「いや、そいつは恐らく……守護霊型の陽魔だ」
「え!?陽魔!?」
初めて見た。まあ、陰魔自体もこの間が初見だったのだから当たり前ではあるが。
「で、でも人形に憑いてたんだよね?」
『はい。私は式部と申します。ずっとこの人形に憑いて、成世様を見守っておりました』
陽魔……式部は深々と頭を下げる。その丁寧な対応に、僕も思わず頭を下げ返してしまった。
「じゃあその、毎回戻って来てたのは……」
『成世様から離れない為です。どうしても私は彼女から離れることは出来ませんでしたから……』
いや、普通に怖くない!?
何度捨てても元の状態に戻ってきてるって恐怖でしかないよ!?
「……じゃあ、この怪奇現象は陽魔が成世さんから離れたくがない為に起こしたってこと……!?」
だとしたら何て人騒がせな陽魔なんだ……!
「……コイツはまァ、《付喪神》の一種だろうなァ」
神々廻さんが口を挟む。
……つくもがみ?聞いたことの無い言葉だ。
僕の表情を見て察してくれたのか、彼は説明してくれた。
「その人形、相当古いモンだろ。長年人間に大事にされた物には神が宿るって言われるんだよ。それが付喪神だ」
「えっと、陽魔ってことは悪いモノじゃない……んだよね?」
「あァ。大事にして貰った恩返しにつく守護霊みたいなモンだ」
……ちょっと待った。
だとしたら、どうしてこの付喪神……式部は成世さんに危害を加えているのだろう。
いや、神々廻さんは式部を陽魔だと言ったじゃないか。そもそも陽魔は人に危害を加えないのではなかったか。
というか、さっき純子さんは「成世さんは陰魔に《入られた》」って────────…………
「違う!その人じゃない!」
僕が叫ぶと同時に、《成世さん》が神々廻さんに襲い掛かる。
彼は間一髪で番傘で攻撃を防いだ。
そうだ。違う。今陰魔は成世さんの中に入っている筈。人形に憑いている訳が無い。
だから人形に憑いていた式部は、現在成世さんの中に入っている陰魔とは別物だ。
神々廻さんがその陰魔に気づかなかったのは、成世さんの中に入っていて、気配が消えていたから……だと思う。
だから彼は真っ先に目に付いた人形に取り憑いた不思議生物である式部さんの元へと足を進めた。
だって彼は僕から報告を受けただけで直接陰魔を視た訳では無い。僕はそもそも視えないから今回の陰魔がどのような姿をしているのかも知らない。
そして、唯一陰魔の姿を視ていた純子さんは気絶している。
確かに人形が戻ってくるという不気味な現象は式部によって起こされたことだった。
しかし彼は付喪神という陽魔。謂わば成世さんの守護霊のようなものだ。そんな彼がどうして成世さんを怯えさせるようなことをしたのか。
だけど、その理由が成世さんに付き纏う陰魔から彼女を護る為だったとしたら……!
「……神々廻さん、全てが繋がったよ!」
「あァ!?何だ急に!」
神々廻さんは成世さんの攻撃を防ぎながら返答する。
彼はまだ、成世さんに陰魔が入っているとは思っていない。人間に攻撃する訳にはいかず、防戦一方だ。
「陰魔はその女性の中にいるんだ!人形は陰魔からその女性を護っていただけだったんだよ!」
僕の言葉を聞いて彼はニヤリと笑う。
「……成程なァ。だったら……さっさと出ていきやがれェ!!」




