2-10
「うえ……酔った……」
神々廻さんは人ひとり抱えているスピードでは無い速さで全力疾走。
おかげで目的地である食堂には着いたが何せ乗り心地は最悪で、見事に酔ってしまった。
「……大丈夫かよ」
彼が呆れた表情を向ける。元はと言えばアンタのせいだってのに……。
「っ、大丈夫。早く行こう」
こんなところで立ち止まっている訳にはいかない。時間が無いんだ。
僕の言葉を聞いて、神々廻さんは食堂の扉を蹴破った。……だから何で普通に開けないんだろう。
「これも、陰魔を威嚇する為なの」
「そ、そうなんだ……」
単に足癖が悪いだけだと思っていたが、ちゃんと意味があったのか……。
よし、とりあえず純子さんを助けに行こう……!
「……!純子さん!」
「……チッ、遅かったか」
奥の部屋に突入すると、そこにはボロボロになって倒れている純子さんが居た。
急いで駆け寄ったが、まだ息はある。どうやら気絶しているだけのようだ。
「ごめん……純子さん……」
「おい馨、頼んだ」
「うん、分かった」
馨ちゃんがベールを張る。前回、僕に使ってくれた術と同じに見えた。
しかし、前回よりも明らかに範囲が広い。集中する為か、彼女は目を閉じて黙ってしまう。
「……とりあえずこれでこの結界内には奴は入って来られねェ。テメェらはここでじっとしてな」
このベール……結界だったのか。恐らく彼の口振りからして陰魔を寄せ付けない結界。
だから前回の陰魔は僕に手を出せなかったのだろう。
「神々廻さんはどうするんだよ!」
「あァ?俺はこっから出て戦うに決まってンだろうが」
そりゃそうか。陰魔を祓えるのは彼だけだ。
しかし何も出来ない自分が、歯痒いと思ってしまう。何かしようにもそもそも陰魔が視えない自分は足手まといにしかならない。
それでも祓い手である彼に全てを押し付けるのは、嫌だと思ってしまった。結局思うだけで、僕には何も出来ないのだけれど。
神々廻さんは結界から出て、転がっている人形に向かって歩みを進める。やはり、人形が陰魔だったのだ。
しかし、彼はすぐに足を止めてしまう。
「……!アイツめ……!要らねェって言っただろうが……!」
神々廻さんは懐から何か取り出したかと思うと、それを地面に叩きつけた。
「ちょ、いきなり何を……!」
急に何事かと思いそれを拾い上げると、それは小さな袋と手紙だった。
僕は折り畳まれた手紙を広げ、内容を確認する。
『愛しの旦那へ。
絶対役に立つと思うから、陰魔が一時的に視える粉入れておいたよ!
お代はまた会った時に請求します!是非使って感想を教えておくれよ!
可愛いつづるちゃんより。』
「……………」
あまりにも巫山戯た内容の手紙に思わず無言になってしまったが、そんな内容が吹っ飛んでしまう程、僕はとんでもない道具を手に入れてしまったかもしれない。
「……いいや!使っちゃえ!」
だって、神々廻さんは要らないって言ってたし。でも使わないのは勿体無いから僕が使ってしまおう。
僕は小袋を開封し、その中に入っていた紫色の粉をばらまいた。




