2-5
「あっ、無理しないで!まだ寝てても良いからね」
「えっ、えっと……ぼく、倒れちゃったの?」
少女は辺りをキョロキョロと見回して、明らかに動揺している様子だ。
純子さんは客が来たらしく、先程離席してしまった。なので僕一人でこの子の相手をしなくてはならない。
「うん。いきなり倒れたから、多分寝不足だったのかな」
陰魔のことは伝えないことにした。先程、純子さんが言っていた通り、視えない人を無駄に怯えさせる必要は無いと思ったからだ。
それに、僕だって全く視えてないし。
「うへぇ……外でぶっ倒れて知らない人に迷惑かけちゃうなんて……むり……やむ……しぬ……」
「え、ちょっ、別に僕は迷惑かけられたとか思ってないからさ!だから死なないで!?」
今にも死にそうな少女を何とか宥める。しかし少女の顔は暗いままだった。ど、どうしよう。どうしたらいいんだ。女の子と接する機会なんてあんまり無かったから、扱い方が分からない……!
「ぼ、僕は直樹将吾!アンタは?」
とりあえず話を変えようと自己紹介をしてみる。彼女は俯いたまま、暗い声で答えてくれた。
「……芋煮成世……」
芋になるよ?……いや、芋煮成世さんか。
変わった名前だな。凄く覚えやすいけど。
「えっと、成世さんはどうして寝不足に……?」
話が上手く続けられず、僕は結局彼女について気になったことを聞いてしまった。しかし、彼女は再度俯いてこう呟く。
「……言ったって、信じないよ」
まさかそんな返答が返ってくるとは予想外だった。これが女の子なのだろうか。女心は難し過ぎるだろ。
「ま、まあとりあえず話してみたら?吐き出すだけでもすっきりするかもよ?」
「………………」
少女は暫く俯いて黙っていたが、やがて意を決したように口を開いた。
「……人形が、捨てられないの」
「人形?」
いったい、どういうことだろう。
それは、断捨離がしたいけれど愛着が湧いて捨てられないとか、そういうこと?
でもそれだけで寝不足になるほど悩むものだろうか。
「人形のせいで、寝不足になったの?」
僕の問いに彼女はこくりと頷く。
どうやら人形のせいで彼女は寝不足になるくらい悩まされ、
……そういえば、先程から気になっていたのだが……彼女の腕には人形が抱えられていた。それが《捨てられない人形》なのだろうか。
でも、倒れた時には何も持っていなかったように思えたけど……。
「人形って、それ?」
僕は何の気なしに、彼女の抱えていた人形を指さして聞いた。すると……
「えっ……きゃあああああああ!!」
突然、彼女は大声を上げ、人形を壁に叩きつけたのだった。




