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「……で、何の用だァ」
串団子を食べながら、神々廻さんは言う。
どうやら自分に用があることを見抜いていたらしい。
「よく分かったね、用があるって」
「そりゃァここに来る奴ァ、よっぽど純子の旦那の料理が気に入ったか、俺に用がある奴だからなァ」
「……正解だよ。だって住所不定のアンタが確実に現れる場所はここしか知らない」
僕の返答に彼は満足げに笑ってみせる。そして立ち上がりドン、と左足をテーブルの上に置いた。……行儀が悪いなあ、と思った。
「前置きは良い。さっさと用件を話しやがれェ」
「……う、」
……正直、話しづらいことでもあった。
しかし僕や両親の命を救って貰った建前、このままなあなあにしておく訳にはいかない。
「……あァ?何だ。さっさと言え」
「あ、あのさ……うう、」
「何だ!ゴニョゴニョしやがって!言いやがれ!」
どうやら彼は割と短気な方らしい。机を乗り越えて僕に掴みかかろうとしかねない勢いだったので、僕は諦めて白状することにする。
「お代、とか」
「あァ?」
「いや、その、お祓い代とか、幾らになるのかな……って」
「はァァ??」
僕の言葉に彼は素っ頓狂な声を上げる。
だって、そうだろ。こういうのって結構なお金を吹っ掛けられるもんじゃないのか。
それにこっちは本当に命を救われているんだ。どれだけ高い金額を提示されても拒否出来る身分ではない。
僕の家は確かに裕福だが、僕自身が使えるお金はそれ程多くは無い。
払おうと思ったら両親に事情を話すか自分で稼ぐかしかないのだが……僕はわざわざ両親に嫌な思いをさせたくなかった。
目を覚ました両親に昨日の話をする時だって、上手く誤魔化して伝えたのだから。
そもそも、両親は陰魔が見えていなかった。
今噂になっているとはいえ、正直視えないものは居ないという考えの両親である。陰魔関係の話がニュースで報道された時も「そんなものが存在する訳がない」といった態度だったし、事実僕だってこの目で見るまでは半信半疑だった。
……だったら両親には頼れないし、僕が支払いをするしかない。もうバイトするしかないかな、でも両親が許してくれるだろうか等と考えていると、神々廻さんは大きくため息をついた。
「……あのなァ。そんなことでわざわざ会いに来たってのか」
「そ、そんなことって!現に僕は命を救われて……!」
「要らねェよ、バァカ」
い、要らない!?
神々廻さんも割と危険な目に遭ったような気がするけど、要らないだって!?
いや、今思い返してみたら割と余裕だった気もするな……。
いやそれでも!仕事をして報酬は要らないなんてこと、ある!?
「こういう仕事だから、黎一郎はお金を受け取らないの」
側で聞いていた馨ちゃんが口を挟む。
「こういう仕事だから、って……?」
「陰魔なんて視えない人は視えないでしょ。だから祓っても信じて貰えない。詐欺だって思われちゃう。実際、祓い手のふりをした詐欺行為は流行ったから……」
確かに祓い手の数が減っているのならそういう詐欺が起こっていても不思議では無いだろう。
視えない人からしたら実際には何もしていなくても……いや、何なら取り憑かれてすらいなかったとしても、不安を煽るようなことを言われ祓った振りでもされれば、信じてしまう人はいるかもしれない。
「それに黎一郎はただでさえ怪しい格好だもの。余計に詐欺師だと疑われちゃう」
「おいコラ何言ってやがる」
……それに関しては完全に同意だけど。
「……ま、そういう訳で金なんか取っちゃいねェよ。必要もねえしなァ」
「それだからホームレスなんじゃ……」
「あァ?別に良いだろ。俺ァこの生活が気に入ってンだ」
「誰かに縛られるのは嫌だって、いつも言ってるもんね」
神々廻さん一人ならまだしも、馨ちゃんも連れているんじゃ彼女に負担がかかるんじゃないだろうか。そう思ったが、馨ちゃん本人も大して気にしていなさそうだった。
ならこのことは僕が触れるような話では無いのだろう。
「でも命を救って貰っておいて、何もお礼が出来ないのは……ちょっと気になるんだけどさ」
「ゴショー、お前なかなか面倒くせェ奴だな」
仕方ないだろ。仮はきっちり返しておきたい性分なんだ。借りっぱなしで後で変な要求されるのも嫌だし。
「仕方ねェ。礼は考えといてやらァ」
皿に乗った最後の串団子を咥えながら、彼は立ち上がる。
「神々廻さん、何処行くの」
「散歩。行くぜ、馨」
「うん。分かった」
そう言って神々廻さんは馨ちゃんを連れ、食堂から出て行った。
「……行かないのですか?」
彼の後ろ姿を見送ると、ふいに純子さんが声を掛けてくる。
「えっ……」
「黎一郎さんのこと、気になっているのでは無いですか?」
図星を突かれ、言葉に詰まってしまう。
僕のそんな様子を見て、純子さんはくすくすと笑った。
「自分の思いのままに行動してみた方が、後悔しないかもしれませんよ」
「……!行ってきます!あ、お代……!」
「結構ですから、どうぞ追いかけてあげて下さい。黎一郎さんはああいう性格ですから、あなたのような人が必要かもしれませんね」
今なら追いかければ間に合うだろう。
僕は純子さんに頭を下げ、食堂を飛び出した。




