2-1
今僕は、純子さんの食堂の扉の前に居る。
何故なら神々廻さんに会いに来たからだ。
彼はホームレスらしく、住居が無いので普段は何処に居るのか全く分からない。だが、ここの常連という話は聞いていたので、ここで待っていれば会えると思ったのだ。
ガラッ
「あっ……将吾さんじゃありませんか」
ふいに引き戸が開く音が背後から聞こえ、そこから純子さんが顔を出す。
「あ、ごめん。ちょっと待たせて貰ってるんだけどさ」
「ふふ。ひょっとして、黎一郎さんのことですか?」
「まあ、そうだけど。色々話したいことがあるんで……」
「なら是非中でお待ちになってください。今茶菓子をお持ちしますね」
「えっ、ちょ……!」
中に入れて貰えるのは有難いが、別にそこまでして貰わなくても……!
僕が止める前に純子さんは素早く厨房の奥へと引っ込んでしまった。これはもう、大人しく待つしかなさそうだな……。
「こんにちは、将吾」
「……ふゥん。純子にタカるたァ、やるなゴショー」
僕は席に座って純子さんの用意してくれた茶菓子を食べながら待機していると、背後から聞き覚えのあるふたつの声がした。
「馨ちゃん、こんにちは。それに神々廻さん……別に僕、タカってる訳じゃないから」
……アンタじゃあるまいし。
まあ、これは口に出さないでおくけど。
「黎一郎。彼の名前は将吾だよ」
「あァ?興味ねェよ、そんなモン」
間違えられた僕の名前を馨ちゃんが訂正してくれたが、人の名前を興味無いの一言で切り捨てられるこの人はなかなかだと思う。きっと自由に生きてきたんだろうな。ホームレスだし。
「邪魔するぜェ」
「ちょっと、黎一郎。……ごめんね、相席しても、いい?」
神々廻さんは問答無用で僕の座っていたテーブル席に相席して来た。
そんな彼の行いを馨ちゃんが詫びる。……苦労してるんだろうなあ。
「あら、黎一郎さん。来られたんですね」
「おう、純子。団子寄越せェ」
「はいはい。ちょっとお待ちになってくださいね」
神々廻さんの声を聞きつけて、厨房の奥から顔を出す純子さん。
「黎一郎だってタカってるじゃない」
「あァ?俺は良いんだよ」
それはどういう理屈だ。まあ別にどうでもいいんだけどさ……。




