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「ちょ、普通に開ければ良いじゃん!」とツッコミを入れようとしたが、それは言葉にはならなかった。
「う……ぁ……」
代わりに出たのは悲鳴にもならなかったような声。
だって、部屋に居たのはあのドロドロの本体であろう辛うじて人の形を保っているようなドロドロと、それから伸びている触手に拘束されている両親の姿だったからだ。
「父さん!母さん!」
僕は両親に向かって叫ぶが2人は無反応だ。
もしかして、もう……死─────
「……落ち着け。気を失ってるだけだ」
神々廻さんの言葉に僕はほっとする。
だが、そう長くは持たないであろう状況なのは、陰魔に詳しくない僕でも理解出来た。
『ウ、ウゥ……カネ……カネェ……』
耳障りな声が響く。あのドロドロが喋ったのだろうか。
その言葉を聞いて、神々廻さんは鼻で笑った。
「……成程なァ。どうやらあの陰魔はテメェの財産に目をつけやがったそうだぜ」
「お、お金?」
「馨。読めるか」
「うん。やってみる」
神々廻さんに促されると馨ちゃんは目を閉じ、何かを唱え始める。
僕は邪魔をしてはいけないと、彼女を静かに見守ることにした。
「混沌に飲まれし咎人よ……汝の罪を我に示したまえ……」
「……黎一郎」
終わったのか、彼女は目を開いて神々廻さんを呼ぶ。
「あァ。どうだった」
「その人、ギャンブルで借金に追われて、家族からも縁を切られたみたい。それでもギャンブルを止められなくて、勤めていた会社からお金を盗んだの。それが社長にバレて逃走中に車に轢かれたみたい」
「……はァ?何だそりゃァ。自業自得じゃねェか」
「しかも、その会社は……直樹グループだったの」
……何てことだ。それは父さんの会社じゃないか。
ってことは、この陰魔は元々父さんの会社で働いていた社員だったってことなのか。
「つまり自分が死ぬ切っ掛けになったシャチョーさんに復讐しに来たと。完全な逆恨みだけどなァ」
「そうだよ!父さんは何も悪くないじゃないか!それに、母さんなんて完全なとばっちりだ!」
「陰魔ってのはそういうモンなんだよ。基本自分勝手でクソみてェな奴の成れの果てってことだ」
神々廻さんはケラケラと笑いながら、番傘を陰魔に向ける。しかし声には明らかに怒りの感情が込められていた。
「それを祓って天国なり地獄なりに逝かせてやるのが俺の仕事だ。まあこの馬鹿は間違いなく地獄逝きだろうが」
先ほどまで殆どこちらに反応を示さなかった陰魔は、彼の《地獄逝き》という言葉に反応した。
『ウゥ……!オレハ、ワルク……ナイ……!』
陰魔は神々廻さんの方へ向かって、襲い掛かる。
『ジゴクナンテ、イクモノカ……!カネ、モット、カネヨコセエエエエエ……!!』
「……悪ィな。俺ァ、ホームレスだ。金なんか一銭も持っちゃいねェよ」
「さて……とっとと地獄逝って、反省しなァ!!」
彼は向かってくる陰魔に臆することなく、番傘の先端を突き刺した。




