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「うっ……!」
家に踏み込んだ瞬間、鼻を刺すような異臭と立ちくらみに襲われる。
だ、駄目だ……やっぱり怖い……!
「大丈夫。私が絶対あなたを守るから」
そう言いながら馨ちゃんが手を繋いでくれると、不思議と動揺と立ちくらみは収まった。
小学生に守られるなんて恥ずかしいが、今はそんなことは言っていられない。
「し、神々廻さん!大丈夫!?」
「あァ。しかしだいぶ侵食されてやがるなァ。よくこの中で生活出来たモンだぜ」
家の中も、赤黒く気持ち悪い触手のようなものが張っていた。
吐きそうになったがぐっと堪える。
「と、父さんと母さんは……?」
そういえばいつもだいたいリビングに居るはずなのだが、今日は居ない。
出掛けてくれていればそれで良いのだが……。
「……いねェか」
蠢く触手をまるで暖簾でも潜るかのように潜る神々廻さんにドン引きする僕。
「あ、あのさあ、それ気持ち悪くないの?」
「……あァ?」
僕の言葉に不機嫌そうに返事をする神々廻さん。どうやら彼にはそれどころじゃないらしい。でも僕は……出来れば触りたくない。
「黎一郎は、あなたの両親を探してくれてるの」
「あっ……」
……そうか。言葉はぶっきらぼうでも彼は僕の両親を助けようとして、こんな気持ちの悪い触手の中を率先して歩いてくれているのか。
「……神々廻さん!」
「あァ?何だようるせェな」
「僕、案内するから。僕の家なんだから家の構造はよく分かってる」
そう言って僕は触手を潜りながら先陣を切ることにする。
そんな僕の様子を見て、神々廻さんはニヤリと笑った。
「成程。ただの人間にしちゃァ、度胸はあるらしいな」
「そりゃ、僕の家族のことだから」
「祓い手に任せっきりにする人間ばかりの中、テメェは大したモンだぜ」
神々廻さんはそう言って僕の頭をぐしゃぐしゃに撫でる。
……優しかった頃の父さんを思い出す、撫で方だった。
「……その扉の向こうから人の気配がする」
馨ちゃんがぽつりと呟く。
そこは、両親の寝室だった。
「じゃあここに父さんと母さんが……!?」
思わず扉に触れそうになった僕を、神々廻さんが制する。
「待ちなァ。人の気配だけじゃねェ。これは……《居る》な」
「えっ……」
「テメェに憑いてた奴の親玉だ」
「ええ!?あの外のやつが本体じゃないの……!?」
もっと凄い奴がこの部屋の中に居ると言うのか。僕は身震いする。
「心配しないで。下級の陰魔だから」
そんな僕の背中を馨ちゃんが撫でてくれる。さっきから彼女に宥められっぱなしだ。僕の方が年上なのに情けない。
「おい、覚悟は出来たかァ」
「……そんなの、とっくに出来てるさ」
「はッ。強がりやがって。……馨、そいつをしっかり守ってやれ」
「分かってるよ。黎一郎」
神々廻さんは背中に背負っていた漆黒の番傘を引き抜く。
「……行くぜ。すぐに片付けてやらァ!!」
そしてそのまま番傘を扉に叩きつけた。




