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笑わないキミの笑顔を探そう  作者: 無色花火
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90話 兄妹はやっぱり兄妹

「織宮くんは、俺のことを真面目な奴だと思ってる節があるだろ?」


 沖田さんへのプレゼントも決まり、そこそこ人のいる会計の列に並んでいる最中。伊鶴さんは俺にそんな問いかけをしてきた。


「実際、そうですよね?」


 少なくとも、現状の伊鶴さんの印象は初対面とほとんど変わらない。生真面目と言うとまた違うが、節度は持っているほどの真面目な人だ。

 仕事中だって、俺や水方くん、史渡さんのような常連には砕けた話し方だが、他のお客さんに対してはとても丁寧な態度、言葉遣いで接客している。というかそもそも、俺への話し方に関しては、俺が綾葉高校の生徒だと知るや否や一瞬で接し方が砕けまくった祈鷺先輩に拳骨を落とし続ける伊鶴さんに、気にしないでほしいと俺の方から提案したゆえものだ。


「それは多分、比較対象の祈鷺がアレだからそう見えてるのと、バイト中にしか会ったことなかったからだ。俺はアイツと違ってオンオフをはっきりさせてるだけで、普段までカッチリしてるわけじゃないぞ」

「そうなんですか?」

「あぁ。軽口も叩くし愚痴も零す。周りには気を配るがバカもする。四六時中肩肘張ってちゃさすがに気が滅入る」


 まぁ、祈鷺先輩の性格は誰かと比較するには些か規格外すぎるというものか。

 ……オンオフがはっきりしていて、オフの間は祈鷺先輩ほどぶっ飛んではいないものの、からかったり軽口を言うこともある。なるほど……つまり伊鶴さんは、桜木先輩みたいなタイプが近いということか。あの人も結構茶目っ気強いからなぁ。


「でも、伊鶴さんが真面目なのに間違いはないと思いますよ。オンオフの切り替えがその証拠かと」

「そうか? ま、細かい部分は考えるの面倒だから、その辺は織宮くんの主観に任せるよ」


 なるほど。こういうところで面倒くさがるのも「オフ」のうちってことか。

 俺が知っている伊鶴さんは「Frieden」でバイトしている時の一面だけ。もしかしたら今後は、今日みたいなオフの伊鶴さんを知る機会が増えるのかもしれない。


「あぁ……ってことは、前に緑川先輩の話をした時のはオフになってたってことですね」


 そうだ。今日も伊鶴さんの意外な一面を見たが、あの時はもう一段驚いた。かつてないほどに食い気味だったからな。そう言えばあの時も伊鶴さんへの印象が結構変わったな。


「ははっ、あれな。どうも写真のことになると勝手にスイッチが切り替わるんだよ」

「いいと思いますよ。それだけ好きなことがあるって、俺には羨ましい限りですから」


 俺にはないそれ(・・)が、羨ましく思える。


「織宮くんにはないのか? そういうの」

「はい。あんまり何事にも熱中できなくて」


 以前まではそれに対してどうこう考えることもなかったが、今ではそれもなんだか寂しいものだと感じる自分もいる。


「強いて言うなら、カノジョか?」


 俺の自虐混じりの言葉を受けて、「オフ」の伊鶴さんが顔を覗かせた。


「なんか言い方に含みを感じますが……否定はできないですね」


 まぁ、俺が沖田さんを「好き」という点では熱中しているとも言える……のか? 


「あるじゃん」

「いや、これってそういう話じゃなくて趣味とかそういう話ですよね!?」


 そもそも、これはあれだ。「好き」の違いだ。俗に言う(?)likeとloveの違いだ。俺が沖田さんに向けるのはloveの方であって、今の趣味の話題はlikeだ。

 でも不思議なことに、「熱中していない」と答えると「好きじゃないと」言っているようなものになる……謎だ。


「はははっ。まぁ、冗談はこの辺にしとくか。クリスマスを満喫するカップルの片割れにちょっかい出したかったんだと思って大目に見てくれや」

「はぁ……なんでさっきから妙に生き生きしてるんですか……」

「いや~変に気ぃ使う必要もなくなったからなぁ。これから店の外で会うときは真面目クンしなくて済むと思ったらつい、な」


 なんだろう。さっきから伊鶴さんの背後に祈鷺先輩の影が見える。


「今、過去イチ伊鶴さんと祈鷺先輩が兄妹なんだなーって感じました」

「え、どういうこと?」


 さすがに祈鷺先輩ほどハイテンションではないが、面白いことを見つけた時はは嬉々としてトコトンいじる。そしてその時の顔はそっくりだ。


「いえ、お気になさらず」


 どうやらそのことに自覚はないらしいので黙っておこう。


「なんかあいつに似てるって言われると釈然としないな……」

「兄妹なんて、どこかしら似ててなんぼだと思いますけど。俺兄妹いないんでわからないですけど」


 ちなみに兄弟はいないが、年の近いいとこはいる。


「俺とあいつの似てるトコって、顔立ち意外思い当たらないんだけどな……」


 うんうんと頭にハテナを浮かべる伊鶴さんを横目に、俺はさっきのし返しができたような気分で少し笑みが零れた。




 ◆◇◆◇




「今日はありがとうございました」


 無事に会計を済ませて店の外。伊鶴さんに付き合ってもらったお礼を伝えた。


「あぁ、お役に立てたようでなによりだ」


 本当に、今日は伊鶴さんに助けられた。もしあの時偶然会っていなかったら、プレゼントの案に手芸用品を思いつくのも、それから「Cra-Ha(ここ)」に辿り着くのもずっと後になっていた。


「そうだ。織宮くん、連絡先交換しようぜ。何気に今まで知らなかったしさ」

「あ――」


 伊鶴さんからのその提案。それにいつも通り、すみませんと、嘘を以て断ろうと口を開いた俺は、言葉にする前に一度止めた。そして――


「はい、もちろん」


 そう答えた。

 これまでの俺なら、間違いなくスマホを持っていないと答えていた。だが、今回はそうしなかった。それは、桜木先輩の時のような理由ではない。

 確かに伊鶴さんにもお世話になっているし、それも理由に含まれている。だが今回はそれが主たる理由ではなかった。

 簡単に言えば……変わろうと思った。付き合いの長さより、付き合いの深さ。それをもっと、大事にしていきたいと思った。

 もしこれが少し話す程度のクラスメイトなら、きっと俺は「嘘」を選んでいた。


(こんなに積極的に変わろうなんて思えるようになったのも……沖田さんの影響かな)


 改めて、沖田さんの存在の大きさを身に沁みながら、俺は伊鶴さんと連絡先を交換した。


「じゃあ、俺はそろそろ授業行くわ。健闘を祈ってるぜ」

「別に、勝負に行くわけじゃないんですから……」

「こういうのは捉え方の問題だ。ま、頑張れよ」


 そんな応援の言葉を残して、伊鶴さんは去っていった。俺はもう一度、心の中でお礼を言う。


「さて、と……これからどうするか」


 一度スマホで時間を確認するが、出てきたのが早い時間帯だったというのもあり、まだまだ余裕がある。電車の移動時間はさほど長くないので考慮する必要もないし。

 かといって、ここは探索するには些か広すぎる。ここから大きく移動したら駅方面の出口から出られそうな気がしない。それに、はっきり言えば、目的のものは入手できたのでもう用はない。

 まぁ、そんなわけで早々に帰ろうと結論付け、帰りの一歩を踏み出そうとしたその同時。


「本屋だ」


 「Cra-Ha」の斜め向かいに「比嘉屋(ひがや)書店」という本屋を見つけた。「比嘉屋書店」は、これまでの転校先の町々でも幾度か見かけた、割と大手の本屋だ。

 そう言えばここ最近は……というかここ数ヶ月は全然本屋と縁がなかった。最後に行ったのは夏休みだったか。


(せっかくだし、寄ってくか)


 何か買おうというわけでもないが、探す分にはタダだ。もしかしたら目ぼしいものがあるかもしれないし。

 そしてここも、例に漏れず結構な広さだ。サクラモールの「青城書店」のひと回りはあるだろう。


「えーっと。文庫本のコーナーは……っと」


 初めて来る本屋はいつもそうだが、マジで迷路のようだ。自分より背の高い本棚がズラーッと立ち並び、自分の現在地がわからなくなる。

 それでも案内表示を見ながら店内をまわりまわって、お目当てのコーナーになんとか辿り着いて、適当に背表紙を見ていく。


「そう言えば、あの人の新刊ってあるのかな……」


 以前何度か買ったことのある作家で、名前は木時(きどき)静寂(しじま)という。まぁ十中八九ペンネームだろう。俺は特定の作家のファンというわけではないが、この人が今出している「虚ろを往く旅人」という長編作品は全巻読んでいる。

 この話は、幼少期を孤児院で過ごした旅人と1匹の喋るムササビが、世界を旅する道中で出会った兄妹と、顔も名前もわからない彼らの親を探す物語だ。手がかりひとつないところから始まり、偶然訪れた国で僅かな情報を得たり、孤独だった双子に主人公が子供らしさを教えたり、すれ違いや衝突を経て少しずつ双子の親に近づいていく展開が読んでいて面白い。

 刑事モノとか病院モノとか、そういった少し堅いものより学園モノやファンタジーといったジャンルの方が個人的には好きだ。

 俺は早速、出版社と作家の頭文字を頼りに著者名を探す。


「おっ、あった。っと……新刊は……これか」


 最新が何巻だったかは覚えていないが、この表紙だけ見たことがない。

 そう言えば、沖田さんも同じこの作家の本を読んでいたが、結局その話題で繋がることはできなかったな。あの時買って終わりじゃなくて話を振っていればよかったと、今更ながらに少し後悔だ。今度会ったら新刊買ったか訊いてみよう。

 ちなみに、俺が読書をするようになったのは中学で二度目の転校をしてすぐ。心に抱えていた退屈を埋めるような形でなんとなく1冊を手に取ったのが始まりだ。今思えば、俺の読書趣味って結構ネガティブな理由で始まったんだなぁ。……って、なに物思いに耽ってんだろ。


「取り敢えず、今はこれだけでいいか」


 入店した時の予定より大きくずれたが、俺はその一冊を持って会計を済ませた。そして、伊鶴さんに案内してもらった道を逆戻りして、迷うことなく無事帰路についた。




 ◆◇◆◇




 プレゼントを無事に買い終えたことで心にゆとりが生まれた。

 だからか、手渡しにするか郵送にするかで悩んでいたのも、既に自分の手で直接渡そうという方針に固めることができていた。

 待ってほしいと言われたのはこの際仕方ない。人生初の恋人へのクリスマスプレゼントが郵送……それで終わらせてしまうと、絶対に心残りが生まれると思った。

 決行は24日。朝早めの電車に乗って、昼前には向こうに着くようにする。そして、この手で沖田さんに直接渡す。謝るのはその後だ。




(――の、はずだったんだけどな……)




 クリスマスイヴ――その前夜。母の代わりに来客の応対で玄関の扉を開けると……




「……こんばんは」




 どういうわけか、沖田さんがそこに立っていた。

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