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笑わないキミの笑顔を探そう  作者: 無色花火
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35話 “わからない”ふたり

 今朝のホームルームで文化祭の大まかな内容も固まり、ぎこちない昼休みも恙なく……はなかったが過ぎ、終礼でも出し物に関して触れられたものの大したことは決まらず、今日の全ての課程が終了した。もう数日もしない近く、本格的に準備がスタートし校内は文化祭ムードに包まれていくだろう。


 そんな祭りの足音が近づく中、沖田さんと屋上でふたりきりになっている今もなお一定の居心地の悪さを感じつつ、桜木先輩が言った「気づくべき何か」と内包する感情に頭を抱えているが、俺は今日のことで沖田さんにある負い目を感じていた。昼休みにも同様に抱えていたが、いろんな考えがごちゃごちゃになって遂に言い出せなかった。

 それはまさに今日起こったばかりの出来事。文化祭の役割決めの時間に五十谷が騒ぎ立てたアレである。そう、沖田さんに厨房の役割が充てられたことだ。

 本人は気に留めていないかもしれない。だがこれまで必要最低限以上に他者と関わるのを拒絶してきた彼女を思うと、今回の件のきっかけの一端を担ってしまった俺としては気にせざるを得なかった。


 だから謝った。五十谷に沖田さんが料理が得意かと訊かれそれに対して正直に「得意だ」と答えたこと、それを聞いた五十谷が面白がって声を上げたことを含めて。


「気にしてない」


 案の定返ってきた言葉は予想通り、沖田さんらしいと言えるものだ。


「うん。そうだろうなぁとは思ってた。ただ俺が言いたかっただけなんだ」


 沖田さんは良くも悪くも自分の心に素直だ。嫌ならば嫌と言うし、必要ないと思ったなら寄せ付けないし切り捨てる。だから自分の考えを貫くことができるし、ほとんど孤立している現状を生み出してしまった。それはひとえに過去の出来事が故のことだが、自分に対する素直さというのは先天的にも後天的にも得難いものだ。


「あんまり大勢の中に入って行くのは苦手だろうから。……無理してないんならいいんだ。沖田さんが決めたことに口を出したくないし、出すつもりもないから」

「…………大丈夫。作るだけなら、ひとりでもできる」


 ……まったく、ブレないなぁ、この子は。まぁ、そんなところが沖田さんの魅力なわけだけど。


「それに、今年は、去年とは違う……から」


 ……ッ!?


「それって、どういう……」

「……なんでもない」


 今この状況、このタイミング。「去年とは違う」……言葉通りに受け取ってもいいのだろうか。

 沖田さんの中に俺が存在していると、そう思ってもいいのだろうか。

 自意識過剰ではないだろうか。……いや、自意識過剰でもいい。今はそうだと思いたい――――いや、そう思えた。


「そっか。でも何かあったら言ってね。俺じゃあ力不足かもしれないけど、それでも沖田さんの力になりたいから」


 俺はできることをしよう。だって、今の沖田さんは、ひとりじゃないんだから。


「……どう……して?」


 沖田さんは僅かに目を見開く。

 それに対する答え。俺がそうする理由。それは――


「俺が――」


 口を開き、言いかけて…………やめた。


「俺が、沖田さんの友達だから……だよ」


 俺は、何を言おうとした? 一度言葉を切ったのは何かを言おうとして、それを言うまいと思ったからだ。……だが、それが何なのかが分からない。

 この姿を現すことなく消えた言葉が、俺の踏ん切りの付かない感情の正体なのだろうか。


 気づかれただろうか。今の途切れ。この違和感。このぎこちなさ。

 悟られずとも、何かは感じ取ったかもしれない。それが悪い受け取られ方をされていなければせめてもの救いだ。




 ◆◇◆◇




 沖田耀弥は自室のベッドの上で足を伸ばしていた。

 両親は仕事で帰っておらず、家には耀弥以外誰もいない。自分で夕食を作り、自分で洗濯をし、自分で次の日の弁当を作る。それが耀弥の日常。

 決して両親に見放されているわけではない。むしろ耀弥が()のようになってからはより一層心配性になったと言える。だがふたりとも多忙な仕事の日々に苛まれ、長い間耀弥と時間をともにできずにいた。もちろん耀弥は承知しているし、それについて文句もなかった。

 ……だが、耀弥の現状(イマ)を作り上げた一因ではないのかと言われたなら、それは否定できないだろう。たとえ耀弥にその自覚がなかったとしても。


 ベッドの片隅にもたれかかったクマのぬいぐるみを引き寄せ、両手で抱く。それはずっと幼い頃に両親から誕生日に買ってもらったもの。もう10年以上、引っ越しする前からベッドに飾っている。

 見つめるのはその一点。クマの首元のリボンに取り付けられたクラゲのキーホルダー。水族館に行った日の帰りに悠灯にもらったプレゼントだ。

 家族以外から何かをもらったことなんていつ以来だろうか。そんなことさえ色褪せて思い出せない。でもそれだけに、揺らいだ。

 ずっと誰にも心を閉ざしてきた少女が、心を開き、友達になってもいいと思えた少年。

 耀弥と同じような虚ろさを持ちながらも、そんな悠灯と接していくだけ凍てついてしまった感情が冬終わりの雪のようにゆっくりと解けていった。


 だからわからなくなった。悠灯も、自分も、自分の心も。

 夕食を家に誘った理由、悠灯の言葉で髪を伸ばそうとした理由、それを隠そうとした理由。

 初めてのことが多すぎて、それがどんどん蓄積していって、何を考えるべきなのか頭も心も処理ができなかった。



 ……何より驚いたのは、悠灯からこのキーホルダーをもらった時に、笑ったこと。



 あの日耀弥は、自分が笑ったことを自覚していた。


 だがそれ故に、どうして笑ったのか理解できなかった。


 喜びも悲しみももう何も感じられなくなったのだと思っていた。それなのに、何気ない日常のひとコマのように、そうすることが当たり前というように、意識することもなく自然に笑えたのだ。



 どうして笑えたのか、わからなかった。






「友達、って……なんだったっけ……」






 ――わからない。






「友達って……なに、なんだろ……」

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