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笑わないキミの笑顔を探そう  作者: 無色花火
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34話 進む文化祭クラス会議

 夏祭りや秋祭りなど、「祭り」と言うものは得てして始まる前から人々の心を高揚させるもので、それは高校の文化祭も例外ではない。

 俺の通う遠柳(とおやぎ)高校の生徒たちも例に漏れず、もう1ヶ月前にまで迫った文化祭に心踊らせている。


 遠柳高校の文化祭は金曜と土曜の2日に渡って開催される。漫画みたいな後夜祭なんてものはなく、閉会式が終わったら片付けをして、ホームルームの後に解散だ。あと、土曜日の振替休日は、後日全く関係のない日に設けられるらしい。……次の月曜でいいじゃん。俺恩恵受けられるかわからないじゃん。

 また、文化祭の全体運営は生徒会とその顧問が取り仕切り、定期的に生徒会と各クラスの文化委員で会合が開かれ、そこで進捗等を報告するらしい。まぁ、俺には関係のない話だ。


 そんな文化祭ムードが学校全体を覆う中、俺の所属する2年5組では現在、当日の出し物である喫茶店の内容詰めが行われている。

 教壇には文化委員である柿ノ江さんが立ち、今回は書記を邦依田さんが務めている。

 ちなみに担任は隅の椅子に座り静観している。生徒の自主性に任せる方針のようだ。


「まず当日の役割ですが、大きく分けて3つ。『厨房』と『接客』と『受付』です」


 前回同様、言葉こそ丁寧だが緩い喋り方で進行していく柿ノ江さん。後ろで邦依田さんが3つの単語を等間隔に記していく。


「次に時間の配分……まぁ簡単に言うとシフトかな。ですが、金土とも午前と午後に分けて20人ずつでやっていきます」


 一連の話を要約するとこうだ。


 ・役割は調理担当の『厨房』、接客担当のそのまま『接客』、受け付けや会計、客引きを担う『受付』の3つ

 ・時間帯は9時~13時の午前と、13時~16時の午後のふたつ

 ・午前午後それぞれ20人ずつに分かれ、そこから更に『厨房』『接客』『受付』に分かれる(各役割の具体的な人数は後ほど決める)

 ・担当する時間帯は基本的に2日とも自由(要は金曜と土曜で時間帯が同じでも違っても構わない)

 ・ただし、役割は両日ともに固定(金曜が厨房なら土曜も厨房)


 ──とまぁこんなところか。


 これから具体的な役割決めが始まるのだが、ここでひとつ、問題がある。

 このクラス、いやこの学校においてほとんど(・・・・)孤立している少女──沖田さんだ。


「なぁ織宮。沖田って、料理出来るのか?」


 小声でそう尋ねてくるのは俺の前の席の3バカがひとり、五十谷景だ。


「なんでそれを俺に訊く? ……まぁ普通に出来るよ。得意と言っても過言じゃないな」

「さすが唯一の友達。知ってんだな」


 顔をニヤけさせ茶化すように言う五十谷。ウゼぇ……


「で? なんでいきなりそんなことを?」

「いや、だってさ。沖田に接客とか客引きとか出来ると思うか?」


 一旦思考…………終了。


「難しいだろうな」


 悪く言うつもりはないが、他のクラスメイトでも日常会話すら危ういのに満足のいく接客が出来るとは思えない。俺だってまだ会話に手こずることもあるのだ……最近は別の要因もあるのだが。

 だからと言って沖田さんを否定するつもりは毛頭ないので、敢えて「無理だ」とは言わなかった。


「いや無理だろ」


 ……が、コイツにそんな気は一切ないらしく躊躇なく言い切った。

 ちょっとは遠慮というものを知れよ……


「その点厨房ならまだ出来ると思うんだよ。最悪無言でもちゃんと作業してくれそうだし。それに、オトモダチ曰く料理出来るらしいしな」


 むっ。なんか嫌味のような含みのある言い方をしてくれる。突っ込むのも面倒だしここは敢えてスルーする方向で行こう。


「まぁ、その点に関しては問題ないと思う。沖田さんしっかりしてるし」

「ひゅ~。さっすがぁ」

「……うっせえ」


 コイツはどこまでも茶化してくるようだ。殴りてぇ……

 ウザい五十谷の相手をしていると、柿ノ江さんの声のボリュームが上がった。


「厨房は当たり前だけど食品を扱うので、料理に自信のある人は出来るだけ立候補してくれるとありがたいです。逆に全く出来ないって人の立候補は控えてください」


 いくら高校の文化祭とはいえ、食品を扱う以上は健康や衛生面に細心の注意を払う必要があるのだろう。包丁も満足に扱えなければ論外ということだ。

 それでも「しないでください」ではなく「控えてください」と完全拒否しない部分は、やはり文化祭だからという理由があるだろう。


 各々自分のやりたい役割を求めて、いざ役割決めが始まろうというところで五十谷がピッと手を挙げた。


「はいはぁーい! 織宮くん曰く、沖田さん料理出来るらしいでーっす!」


 そしてそんなことを言い放った。

 途端、別にそこまで騒がしかったわけではない教室が、まるで全ての音を失ったかのように沈黙した。

 俺の前には「あれ? やっちゃった?」的な表情を浮かべて周りをキョロキョロするこの居心地の悪い静寂の元凶。

 全員の視線が五十谷に向き、そこからゆっくりと沖田さんの方へと流れていく。


「……」


 普通ならここでビクッと震えたり慌てて否定するなり照れるなりするところなのだろうが、そこはさすが沖田さん。周囲の視線にも一切の反応を見せずただただ座って前を見ている。姿勢いいな。

 そして俺はと言うと……


「……」


 沖田さんの後流れてきた視線に対して必死で平静を装い、ただひたすらに無言を貫いている。今の俺もさぞ姿勢のいいことだろう。

 そのせいで、クラスの全生徒から注目を浴びるふたりの人間が全くの無反応という、なんとも珍妙な空気が出来上がっていた。……おい五十谷。どうしてくれんだよこの空気。


「えー……っと……沖田さん?」


 耐えかねたのか柿ノ江さんが空気を断つべく沖田さんを呼ぶ。

 それに対する沖田さんの返答は、僅かに顔を動かして柿ノ江さんの方に向けるというもの。大体5センチくらい。


「料理……出来る……かな?」


 いつもの緩い感じの柿ノ江さんは鳴りを潜め、凄く控えめに、それはもう控えめに尋ねる。

 沖田さんは小さく首肯。


「厨房……やってもらっても、いいかな?」


 言葉の勢いは、まさに恐る恐るというもの。

 教室を支配するは静寂。

 生徒たちの心に蔓延るは緊張。

 五十谷(バカ)のひと声によって生み出された沈黙の世界。

 この場にいる誰も彼もが固唾を呑み、ひとりの少女の出す答えを聞くために耳を傾ける。

 その中心にいる、いつもは蚊帳の外にいる少女は──やがてゆっくりと口を開き、


「別に……構わない」


 と答えた。


「そ、そっか。ありがとうっ……」


 柿ノ江さんの言葉を皮切りに、緊張の糸がプツンと、いやブチッと千切れたように教室中が安堵に覆われる。沖田さんは相変わらず我関せずだ。

 心の平和を取り戻した教室は、役割決めを再開した。この時、一連の出来事の引き金である五十谷がクラス全員から鋭い冷たい視線を頂戴したのは言うまでもないことだ。


 そこからは特に問題らしい問題もなく、滞りなく役割決めは進行した。

 ちなみに俺は『厨房』になった。俺自身料理がある程度は出来たというのも半分あるが、もう半分は沖田さんがいるからだろう。唯一の友達故の配慮か、沖田さんの制御目的かは、柿ノ江さんが俺に料理が出来るか名指しで訊いてきたのと、俺が厨房に決まった時のホッとしたような顔を見れば察しはつくだろう。


 その後、話し合いによって提供する料理のうち、スイーツがショートケーキとスコーンとクッキーに、飲み物がジュース数種とコーヒーに決定した。スコーンは中学の調理実習で一度作ってるからレシピが大体同じなら俺も問題ないだろう。


 ほとんどの内容を決め終え、話し合いは次の作業に移行する。


「次は各係のリーダーがふたりずつだけど……邦依田さん、厨房係のリーダー頼めないかな」

「もちろん。全然いいよ」


 どうやら邦依田さんは菓子作りが趣味らしく、厨房係のリーダーに任命された。そう言えばショートケーキとスコーンを提案したのも邦依田さんだった。彼女の菓子作り趣味は結構周知の事実なのかもしれない。

 その後、残り5人のリーダーが選定され、そのうちの接客係のひとりが柿ノ江さんだった。文化委員として引っ張っていくところは引っ張っていくようだ。見た目の緩い感じに反してしっかりしていらっしゃる。……偏見だな。

 ちなみに各係のリーダーふたりは2日とも別々の時間に配属され、それぞれの時間帯を取り仕切るのだそう。


 余談だが、3バカがリーダーに立候補したところ、ほぼ満場一致(沖田さん不参加のため)で却下の判定が下った。


「それじゃあ最後に試作会だけど……邦依田さん、放課後家庭科室使える日わかる?」

「水曜日以外ならどこでも使えるよ。あ、でも今週は無理だから来週以降かな」

「わかった。ありがと」

「他のクラスが使うかもしれないから、何日か候補を出しておいてね」

「おっけー」


 何やら試作会なるものがあるらしいが、あれよあれよと話は完結してしまった。言葉通りなら、文化祭で出す料理の作り方とかを確認するための場だろう。


「なぁ五十谷。なんで邦依田さんが家庭科室使える日とか知ってるんだ?」


 当たり前のように進んでいた会話の、ひとつの疑問点を見つけたので、取り敢えず手近な五十谷に尋ねる。


「あぁ、織宮は知らねぇんだっけか。邦依田って料理部の部長なんだよ。聞くところだと顧問より料理が出来るらしいぜ」


 へぇ。そうだったのか。菓子作りを趣味にしているとは聞いたが普通に料理も得意なんだな。

 高校の料理部の顧問ってことは恐らく家庭科教師なんだろうけど……その教師超えちゃうって、そりゃリーダーにも選ばれるわ。悩む余地なしだな。


(……ん? 邦依田さんって、確か吹奏楽部にも入ってたよな……)


 以前サクラモールで遭遇した時に、桜木先輩とは吹奏楽部の先輩後輩関係だと聞いたのを覚えている。


(つまり、兼部をした上で料理部の部長やってるってことか? スペック高いなぁ……)


 客観的に見て性格やコミュニケーションに難あれど、沖田さんも毎日全食を自分で賄うほどの料理の腕だ。そこに料理部の部長を務める邦依田さんがリーダーとして引っ張っていくとなると…………これは今年の文化祭、先行き安心かもしれないな。

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