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第三十一話 重要監視対象

## 第三十一話 重要監視対象


 黒崎は、その夜、境界を越えたことになっていなかった。


 記録上、黒崎は北側行政連絡室にいた。


 移動記録はない。

 入域許可もない。

 会議予定もない。


 だが、川沿いの古い配送拠点の奥に、黒崎は座っていた。


 そこは、白羽生活支援センターの施設ではなかった。


 白羽地域物資管理株式会社。


 看板にはそう書かれている。


 白羽は、企業名だった。


 国ではない。

 軍でもない。

 役所でもない。


 だから、荷物を運ぶことができた。


 だから、食料を配ることができた。


 だから、子どもを移すこともできた。


 国境を越えたのではない。


 物資確認に来ただけ。


 紙の上では、そういうことになっていた。


 倉庫の奥には、会議室と呼ぶには狭い部屋があった。


 壁は薄い板で仕切られている。


 蛍光灯が一本、低く唸っている。


 机の上には、処置室二の記録が積まれていた。


 生活名再定着。

 過去名刺激。

 視聴覚遮断。

 反復音声。

 鎮静補助準備。

 対象児、なお。

 反応語、はる、川、さかな。


 その横に、木製のバットが一本置かれていた。


 使い古されている。


 手元の部分だけ、少し黒ずんでいる。


 誰も、そのバットについて聞かなかった。


 部屋には五人いた。


 黒崎。


 白羽地域物資管理株式会社の地域統括。


 白羽生活支援センターの責任者、長谷部。


 処置室二の記録を作った社員の上司。


 北側治安連絡室の古い男。


 椅子は六つあった。


 一つだけ空いていた。


 その空席の前には、名札が伏せられている。


 黒崎は、それを見なかった。


 誰も、それを起こさなかった。


「白羽は企業です」


 黒崎は、最初にそう言った。


「企業は社員を守りません。事業を守ります」


 白羽の地域統括は、顔を動かさなかった。


 長谷部も黙っている。


 蛍光灯の音だけが、部屋に残った。


 黒崎は、処置室二の記録を一枚取った。


「処置室二」


 紙を机に置く。


「生活名再定着」


 次の紙を置く。


「反応語、はる、川、さかな」


 また一枚。


「必要時、鎮静補助」


 最後に、黒崎はバットを持った。


 振り上げなかった。


 ただ、机の上の紙の上に、ゆっくり置いた。


 木の重さで、紙が少しへこんだ。


「なぜ、名前を残した」


 誰も答えなかった。


 黒崎は、声を荒げなかった。


「名前を消す仕事で、名前を残すな」


 長谷部のまぶたが、少しだけ動いた。


「現場には、識別が必要です」


「識別は番号でいい」


「子どもに番号を使えば、支援ではなくなります」


「では、内部用語にすればいい」


「生活名は内部用語です」


「内部用語を、紙に残すな」


 黒崎の声は静かだった。


 静かだから、逃げ場がなかった。


 白羽の地域統括が言った。


「処置室二の件は、現場の手続き不備として整理します」


「遅い」


「すでに関係書類の回収を始めています」


「遅い」


「該当社員の処分も」


 黒崎は、初めて空席を見た。


 伏せられた名札。


 誰も座っていない椅子。


 地域統括は、それ以上言わなかった。


 黒崎はバットから手を離した。


「社員一人を消しても、部屋は消えません」


 長谷部が言った。


「部屋の名称は廃止します」


「名称ではない」


 黒崎は、処置室二の写真を机に置いた。


 白い壁。

 吸音材。

 椅子。

 ベルト。

 ヘッドホン。

 遮光ゴーグル。


「部屋そのものです」


 白羽の地域統括は、写真を見た。


「別拠点へ」


「移すな」


 黒崎が遮った。


「今、移せば追われる。今は止めろ。処置という言葉も使うな。生活名再定着も使うな。過去名刺激も使うな」


「では、何と」


「児童環境調整」


 長谷部が目を上げた。


 黒崎は続けた。


「刺激軽減支援。生活移行補助。呼称安定確認。好きな言葉を使え。ただし、部屋に名前をつけるな」


 白羽の地域統括が頷いた。


「分かりました」


 長谷部は何も言わなかった。


 処置室二。


 その名前をつけたことで、白羽は読まれた。


 読まれたものは、使えない。


 黒崎にとって、問題は子どもではなかった。


 読まれたことだった。


     *


 黒崎は、別の封筒を出した。


 薄い。


 赤い判もない。


 古い経歴照会の写しだった。


 表には、短く書かれている。


 真柴直樹。


 白羽の地域統括が言った。


「旧南第三の」


「正式職員ではありません」


 黒崎は封を開いた。


「だが、白羽生活支援センターの裏口を見ていた証言者を押さえた。境界側に接続した。相原を動かした。処置室二の扉を開けさせた」


 長谷部が静かに言った。


「現場には来ていません」


「来ていないから厄介なんです」


 黒崎は紙を一枚置いた。


 元陸上自衛官。

 宇都宮駐屯地勤務歴あり。

 中央即応連隊所属歴あり。


 それだけだった。


 紙の上では、それだけだった。


 白羽の社員上がりの者たちは、ほとんど反応しなかった。


 だが、北側治安連絡室の古い男だけが、紙から目を離さなかった。


 黒崎は、その沈黙を待った。


「知っていますね」


 古い男は、ゆっくり言った。


「広報では、国内外の緊急事態に迅速に対応する部隊です」


 白羽の地域統括が聞いた。


「広報では?」


 古い男は答えなかった。


 黒崎が代わりに言った。


「それ以上は、広報誌には書かれません」


 長谷部は紙を見た。


「つまり、何ですか」


 黒崎は、少しだけ背もたれに体を預けた。


「過去に、あの組織は政治の場で“暴力装置”と呼ばれたことがあります」


 白羽の地域統括が眉を寄せた。


「その言葉は危険です」


「こちらが作った言葉ではありません」


「文書に残すべきではない」


「残しません」


 黒崎は言った。


「読ませればいい」


 机の上には、宇都宮駐屯地と中央即応連隊の二行だけがある。


 だが、その二行は、知っている者にだけ別の景色を見せる。


 黒崎は続けた。


「分裂後の内戦で、元中央即応連隊の系統にいた者たちが何をしたか。ここにいる治安の人間なら、いくつか知っているはずです」


 古い男は黙っていた。


 黒崎は、その沈黙に向かって話した。


「彼らは政権を名乗らなかった。旗も掲げなかった。声明も出さなかった」


 バットの横で、紙が一枚めくられる。


「ただ、橋を押さえた」


 もう一枚。


「港を開けた」


 もう一枚。


「封鎖線の穴を知っていた」


 もう一枚。


「避難民を動かした」


 もう一枚。


「子どもを乗せた車を、名簿に入る前に逃がした」


 長谷部の顔が、ほんの少し変わった。


 白羽にとって、それは最も困る種類の人間だった。


 名簿に入る前。


 生活名をつける前。


 親族反応を測る前。


 記録を整理する前。


 子どもが、どこかへ戻ってしまう。


 黒崎は言った。


「彼らは大軍ではありません。人数も少ない。だが、道を作れる」


 白羽の地域統括が言った。


「戦闘能力の問題ですか」


「違います」


 黒崎は即答した。


「帰路形成能力の問題です」


 その言葉に、長谷部が目を伏せた。


 帰路形成能力。


 それは、白羽の資料にはない言葉だった。


 だが、白羽が最も嫌うものだった。


 子どもを現在の生活に固定する。

 過去名への反応を減らす。

 親族への接続を切る。

 生活名へ再統合する。


 それらはすべて、帰路を消す仕事だった。


 その反対側にいる者。


 道を覚えている者。

 橋を見られる者。

 封鎖の抜け目を読む者。

 書類になる前に人を動かす者。


 白羽にとって、それは暴力より危険だった。


「真柴直樹は、その系統ですか」


 地域統括が聞いた。


 黒崎は紙を見た。


「紙には、そこまで書いてありません」


「では、断定できない」


「断定しません」


 黒崎は、経歴照会書を閉じた。


「だから、重要監視対象です」


     *


 長谷部が口を開いた。


「排除ではないのですか」


「排除は最後です」


 黒崎は言った。


「危険なものは、まず分類する」


 白羽の地域統括が頷いた。


 その考え方には馴染みがあった。


 白羽は子どもも分類する。


 生活名に反応する子。

 過去名に抵抗する子。

 親族関連語で不安定化する子。

 集団生活に適応する子。

 旧家庭帰属に戻ろうとする子。


 分類してから、処置を決める。


 黒崎も同じだった。


 ただ対象が、子どもではなく直樹になっただけだ。


「真柴直樹は、使える可能性があります」


 その言葉に、長谷部が初めて明確に反応した。


「使う?」


「道を知る人間は、使えます」


「従えば、ですか」


「従えば」


「従わなければ」


 黒崎は、机の上のバットを指で少し動かした。


 音は小さかった。


 だが、全員が聞いた。


「孤立させる」


 黒崎は言った。


「子どもから離す。旧南第三から離す。証言者から離す。帰り道から離す」


 長谷部は、その言葉をゆっくり理解した。


 殺すのではない。


 消すのでもない。


 まず、道から切り離す。


 真柴直樹が危険なのは、銃を持っているからではない。


 今は銃もない。


 怪我もしている。


 旧駅裏で紙の器を持って座っているだけだ。


 それでも危険だった。


 なぜなら、見えない道を見てしまうから。


 声を拾うから。


 数えられていない人間を、証言者に変えるから。


 子どもを、名簿ではなく名前で見るから。


 黒崎は言った。


「直樹を敵にしすぎるな。英雄にもするな。旧南第三に近づくほど、周囲に不利益が出る形にする」


 白羽の地域統括が言った。


「支援環境再評価」


「そうです」


「理由は」


「特定元自衛官による児童保護案件への影響可能性」


 長谷部が言った。


「大野晴斗の反応は」


「誘導反応として再評価する」


「川、さかなも」


「自然想起か、外部誘導か。確認が必要です」


 長谷部は、小さく息を吐いた。


 処置室二で失ったものを、少し取り戻せる。


 晴斗が「川」と言った。

 「さかな」と言った。


 その反応が、白羽には都合が悪かった。


 ならば、反応そのものを疑えばいい。


 本人の声を、本人の声ではないものに変える。


 白羽は、それができる企業だった。


     *


 古い治安連絡室の男が、そこで初めて黒崎に聞いた。


「真柴直樹を、本当に使うつもりですか」


 黒崎は男を見た。


「使えるなら」


「ああいう手合いは、使われません」


「知っているのですか」


「似た者を見たことはあります」


「分裂後ですか」


 男は答えなかった。


 黒崎はそれ以上聞かなかった。


 沈黙も記録になる。


 ただし、紙にはしない。


 男は言った。


「彼らは命令で動くように見える。だが、最後は現場で選ぶ」


「だから目障りだった」


「はい」


「北にも南にも?」


「旗ではなく、通れる道を見る者がいた」


 黒崎は、少しだけ笑った。


「それで十分です」


 白羽の地域統括が聞いた。


「何が十分なのですか」


「真柴直樹を排除対象にしない理由です」


「危険なのに」


「危険だからです」


 黒崎は言った。


「危険な者は、排除する前に周囲を見る。誰が近づくか。誰が庇うか。誰が名前を呼ぶか。誰が道を残そうとするか」


 長谷部は、その言葉に気づいた。


 直樹だけではない。


 直樹を監視することで、旧南第三の周囲が見える。


 健二。

 相原。

 三枝。

 倉持。

 川島。

 森谷佐和。

 炊き出しの人々。

 片方だけ軍靴の男。

 子どもたち。


 直樹は標的であると同時に、網だった。


 近づく者が、浮かび上がる。


「では」


 白羽の地域統括が言った。


「通達を出します」


 黒崎は頷いた。


「白羽からではなく、北側行政連絡室から」


「白羽は企業ですから」


「そうです」


 黒崎は立ち上がった。


「企業は、国境を越えません。荷物を運ぶだけです」


 その言い方に、誰も笑わなかった。


     *


 通達文は、その場で作られた。


 古いノート型端末の画面に、文字が並ぶ。


 旧南第三支援環境再評価通知。


 理由。


 特定元自衛官による児童保護案件への影響可能性。

 当該人物は、元陸上自衛官であり、宇都宮駐屯地勤務歴および中央即応連隊所属歴を有する。

 対象児に関する過去名反応、記憶語反応、親族候補への接近過程について、外部誘導の有無を確認する必要がある。

 旧南第三における支援環境、証言者接触過程、対象児呼称の扱いについて、再評価を求める。


 地域統括が画面を見た。


「暴力装置という言葉は」


「入れない」


「中央即応連隊の説明は」


「入れない」


「なぜですか」


 黒崎は言った。


「説明すれば、反論される。説明しなければ、知っている者だけが黙る」


 古い治安連絡室の男は、何も言わなかった。


 画面の中に、宇都宮駐屯地と中央即応連隊の文字が残った。


 それだけでよかった。


 白羽の処置室では、子どもに「なお」という名札をつけた。


 この倉庫では、直樹に別の名札がつけられた。


 元陸上自衛官。

 宇都宮駐屯地。

 中央即応連隊。

 重要監視対象。


 最後の一語だけは、内部資料にしか入らない。


 外へ出る通達には載せない。


 読ませたい者にだけ、読ませる。


     *


 通達が印刷される前に、黒崎は空席の前に置かれた名札を取った。


 裏返す。


 そこには、処置室二の記録担当社員の名前があった。


 若い名前だった。


 黒崎はそれを一度だけ見て、地域統括に渡した。


「この名前も残すな」


 地域統括は頷いた。


「退職扱いにします」


「自己都合で」


「はい」


「家族は」


「ありません」


「なら早い」


 長谷部は、そのやり取りを黙って聞いていた。


 処置室二では、子どもの名前を変えた。


 ここでは、社員の名前が消された。


 白羽は企業だった。


 企業は社員を守らない。


 事業を守る。


 黒崎は、バットを置いたまま部屋を出た。


 記録上、黒崎はその夜、そこにはいなかった。


     *


 翌朝、旧南第三に通達が届いた。


 封筒は、白羽生活支援センターからではなかった。


 北側行政連絡室。


 相原が受け取った。


 倉持が隣に立っていた。


 三枝もいた。


 健二は、子どもたちの帰り道の地図を畳んでいる途中だった。


 昨日、橋に灯りがついた。


 花音は、地図の橋の上に小さな黄色い丸を描いていた。


 颯太は、魚の横の「はると」をまだ消していない。


 蓮は、入口の方を見ていた。


 相原は封を切った。


 一枚目を読んだ。


 顔が変わった。


 健二は、その顔を見ただけで分かった。


 また紙だ。


「何ですか」


 三枝が聞いた。


 相原は、紙を机に置いた。


「旧南第三支援環境再評価通知」


 倉持がペンを持つ。


「理由は」


 相原は読んだ。


「特定元自衛官による児童保護案件への影響可能性」


 教室の奥で、美月が小さく言った。


「直樹さん?」


 颯太は、名前札を握った。


「直樹さんがいると、ここ駄目になるの?」


 相原は、すぐには答えなかった。


 答えられなかったのではない。


 言葉を選んでいた。


 三枝が紙を受け取り、目を通す。


「大野晴斗さんの反応も、外部誘導の有無を確認するとあります」


 蓮が言った。


「川って言ったの、直樹さんのせいってこと?」


「そう書きたいのでしょう」


 三枝の声は冷たかった。


 蓮の顔が歪んだ。


「ずるい」


 いつもの大きな声ではなかった。


 低い声だった。


「白羽がやったことなのに」


 倉持が、ホワイトボードに書いた。


 北側通達。

 旧南第三支援環境再評価通知。

 理由、特定元自衛官による影響可能性。

 対象、真柴直樹。

 宇都宮駐屯地。

 中央即応連隊。

 大野晴斗の反応、外部誘導疑義。


 美月が言った。


「名前を消そうとしたのは、白羽ですよね」


「はい」


 三枝が答えた。


「直樹さんじゃないですよね」


「違います」


 颯太が小さく言った。


「じゃあ、何で」


 誰も、すぐには答えなかった。


 相原が言った。


「議題を変えに来ています」


「議題?」


 颯太が聞く。


「処置室の話を、直樹さんの話に変えようとしている」


 健二は、ホワイトボードを見た。


 昨日の一行がまだ残っている。


 返事を急がせない。

 名前を急がせない。

 過去を急がせない。


 その下に、倉持は新しい紙を貼った。


 処置室は、白羽の部屋。

 名前を消そうとしたのは、直樹ではない。

 議題を戻す。


 蓮が、それを見た。


「それ、いい」


 美月も頷いた。


 颯太は、まだ不安そうだった。


「直樹さん、来なくなる?」


 その時、無線が鳴った。


 直樹だった。


「ケン」


 健二は無線を取った。


「兄ちゃん」


「通達、来たか」


「来た」


「俺は、しばらく旧南第三には入らない」


 教室の空気が止まった。


 颯太が、小さく首を振った。


 健二は言った。


「兄ちゃん」


「子どもを巻き込む理由にされる」


「でも」


「道は外からでも見られる」


 直樹の声は、いつも通りだった。


 いつも通りに聞こえるようにしていた。


「俺が近くにいることで、名前が戻る邪魔になるなら、距離を取る」


 颯太が、小さく言った。


「やだ」


 無線には届かない声だった。


 でも、教室には届いた。


 健二は、無線を握った。


「兄ちゃん」


「何だ」


「これは、議題を変えられただけだ」


 直樹は黙った。


「処置室は白羽の部屋だ。名前を消そうとしたのは、兄ちゃんじゃない」


「ああ」


「だから、こっちは議題を戻す」


 無線の向こうで、直樹が少しだけ息を止めた。


「ケン」


「何」


「白羽は企業だ」


「うん」


「企業は、失敗した社員を切る。次は、道を切る」


 健二は、ホワイトボードを見た。


 帰り道の地図。

 橋の灯り。

 川島の家。

 仮校舎。

 魚。

 はると。


「切らせない」


 直樹は短く言った。


「なら、道を見ろ」


「見る」


「俺を見るな」


 健二は言葉を失った。


 直樹は続けた。


「俺の経歴を見るな。紙に乗せられる。道を見ろ。晴斗の反応を見ろ。川島の家を見ろ。処置室を見ろ」


 健二は、ゆっくり頷いた。


「分かった」


「議題を戻せ」


「戻す」


 無線が切れた。


 教室には、朝の光が入っていた。


 白羽の白ではない。


 倉庫の蛍光灯の白でもない。


 普通の朝の光だった。


 倉持が、最後に一行を書いた。


 直樹を見るな。道を見る。


 相原が、それを少し見てから言った。


「その表現は、記録には強い」


 三枝が頷いた。


「でも、必要です」


 健二はホワイトボードを見た。


 北側は、直樹に名札をつけた。


 元陸上自衛官。

 宇都宮駐屯地。

 中央即応連隊。

 重要監視対象。


 だが、旧南第三は、その名札に飛びつかない。


 見るべきものは別にある。


 白羽が作った部屋。


 白羽が流した声。


 白羽が外した名前。


 晴斗が返した言葉。


 川。

 さかな。


 そして、昨日灯った橋の光。


 議題を戻す。


 それが、次の作業になった。


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