第4話「巨影」
「……お友達?」
「まさか」
キリエは腰を上げて剣を引き抜き、謎の人物に向かって声をかけようとする。
が、仮面の男は意外にも両手を挙げて敵意が無いことをアピールした。
「待て。私は君たちと争うために来たわけではない。ただその男の身柄を確保しに来ただけだ」
「駄目だね」
キリエの代わりにミティスが答える。
「こいつは然るべき機関に引き渡す。勿論お前にも来てもらう」
「……交渉の余地は」
「無い」
「……そうか」
覆面の男がそう言ってうつむくと、手袋の指先から漆黒の液体のようなものが流れ始めた。
――能力発動・闇夜侵食
「なんだコレ……!」
「ミティス! 踏んじゃ駄目!」
キリエは足元にまで迫っていた黒い液体から素早く離れたが、一瞬判断が遅れたミティスは液体に触れてしまう。
「能力技巧、闇蛸」
液体の中から黒い触腕が飛び出したかと思うと、ミティスの体に絡みついた。
「なんだこれ……!」
身を捩らせ逃れようとしても、ぬめりと腕力を兼ね備えた触腕はなかなかミティスを離そうとしない。
「これってまさか……!」
不気味な黒い触腕を前にして、キリエは息を呑む。
「闇属性の魔法!!」
圧倒されるキリエを尻目に、仮面の男は悠々とガラシャの方へと歩いていく。
「邪魔!」
キリエは回転斬りの要領で自身に襲いかかろうとしていた触腕たちを真っ二つにした。
「闇蛾」
黒い革の手袋に包まれた男の手から、漆黒の蛾が数十匹は飛び出した。
「うっ、うわ!」
黒い蛾の大群がキリエの周囲を包み込む。視界がほぼ黒く染まり、剣を振り回しても蛾たちは影を斬るように振りほどけ無い。
「……」
仮面の男は気絶したガラシャの姿を見つめて、手を伸ばす。
「はああっ!!」
その時、背後からキリエの怒気をはらんだ声が響いた。仮面の男が振り向くと、キリエは全身から金色のオーラを放って蛾の群を消し飛ばしていた。
「(身体強化の魔力を体内で操って放出したのか……素人ではない)」
「おおおっ!!」
ミティスの方は触腕を力ずくで引きちぎった所だった。
「そこを動くなっ!」
真紅の光を放ち突進するミティス。
「ちっ!」
仮面の男は身を躱すも、その速さに完全にはついていけず、ミティスの拳が掠り、仮面が宙を舞った。
「あっ……!」
「えっ……!?」
2人の少女は目を疑った。
「うぐ……!」
剥がれた仮面の下から現れたのは、金色の瞳に黒曜石の様な美しい毛並みを持つ、狼の獣人の顔だったからである。
「貴方……魔族……!」
キリエが呟くが、男は返事もせず黒い影を纏い、自身の姿をカラスの姿に変える。
そして、本来のカラスとは明らかに異なる速度で瓦礫の隙間を縫い、飛び去っていった。
「待て!」
追おうとしたミティスのスマリトが音と光を放つ。
「追わなくていい。あの大暴れしてくれた奴の方から情報を聞き出せる。それに、方角から奴の逃げた場所の見当がつけられる」
「その声……!」
キリエは目を輝かせながらミティスのスマリトを手に取った。
「ヘルタ!」
「久しぶりだねキリエ。元気そうで何よりだ」
「本当に久しぶり!それじゃあミティスが言ってた組織って……」
「いや、リディーマーズは今活動休止中だ。暗殺ギルドの動きも大人しくなってきたから、今は後継に管理を任せてるんだ」
「そうなの? じゃあ今ヘルタがいるのって……」
「空を見てみな」
キリエが見上げると、雄大な影が彼女の体を包みこんだ。少女の瞳がみるみる内に見開かれていく。
「うそ……これって……」
「すごいだろ? 転生者の持ち込んだ技術をこの世界の魔術で再現した、最先端技術の申し子だよ」
ミティスは自慢げに微笑んだ。
ーー第5話に続く。




