第3話「忍び寄る影」
「……ありがとうキリエ。アタシもまた会えて嬉しい」
ミティスは頬を染めつつ、ゆっくりとキリエの肩を掴んで引き離す。
「能力、手に入れたんだ。修行したの?」
「向こうで良い師に会えてね……ちょっと待った」
ミティスが振り向くと、未だ巨大な人型の狼としての形を保った怪物が体を起こしていた。
「俺は何人同時でも構わないぜガキ共……」
「あぁ、そう。なら遠慮なく……」
「叩きのめしてやる」
キリエとミティスが先に動いた。二人の体からは黄金色のオーラが溢れだしている。能力を全開にしているのである。
「捕まえてやる!」
ガラシャは一直線に突っ込んでくる二人を両手で捕らえようとしたが、キリエはスライディングで股下に潜り込み、ミティスは翼の先から輝く光を吹き出して頭上に回り込んだ。
「うぐっ!!」
膝関節を切り裂かれたガラシャが怯んだ隙に、背後まで回り込んだミティスはお目当ての部位――その長い尻尾を握り締める。
「でりゃあ!!」
「おぐあっ!?」
ガラシャの体が重力に逆らい宙に舞う。ミティスが竜人の筋力で尻尾から背負い投げをかましたのだ。ガラシャは受け身も取れず、強かに体を地面に叩きつけられた。
「おぐっ!?」
駄目押しと言わんばかりにキリエが怪物の口内に魔法の刀を突き刺した。
「これで……おしまい!」
キリエは刀を刺したまま怪物の足に向かって走り抜ける。正中線を魔法の刃で一気に切り裂かれ、そこから赤い魔力の噴水が盛大に噴き出した。
「か……がっ……」
ガラシャは最後の足掻きとして起き上がろうとするも、魔力の大半を失った肉体では無理のある動きである。
能力で維持していた屈強な肉体もみるみる萎んでいき、露になったのは醜い赤ん坊の様な顔をしたチンピラの姿だった。
「……よしっ!」
「あぁ」
二人は敵を完全に無力化したことを確かめてから互いの拳を突き合わせた。
一仕事を終えたキリエとミティスは瓦礫に腰掛けて互いの近況報告をしていた。
「……なんか風の噂で『ゴールド・ブレイズ』っていうチームを組んだって聞いたけど」
「ああ! 解散したの!」
「解散!?」
「まぁ方向性の違いってやつ? トラブルがあったわけじゃないんだけどね。だから今はソロでやってるってわけ」
「そうか……それならうちの組織に来ないか?」
「ミティスの?」
「そうだ。後ろ盾が大きい組織だから安心して戦える。アタシが暗殺ギルドの心配をする必要がなくなったのもそのおかげで――」
晴天の空から降ってきた雷の様に、それは突然姿を現した。
「……」
その姿は一言で表すと「異様」という言葉でしか語れないだろう。
光を吸い込んでいるような漆黒のローブに加え、手足もまた黒いリネンを包帯のように巻き付けている。
そして何より目立つのが仮面だった。髑髏を模した白の模様が刻み込まれており、本人の体格の大きさも相まって、気の小さい者であればそれだけで腰を抜かすであろう。
それは正に、新月の夜に現れる死神とでも言うべき風貌だった。
―― 第4話に続く。




