第2話「月と流星」
キリエは剣腕に力を込めてガルシャの右腕を弾き返すと、流れるように次の攻撃の体勢に入る。
「能力技巧、獅子落とし改め、月砕き!」
怪物の掌に刀が深々と突き刺さり、鮮血の代わりに赤い魔力が噴出していく。
キリエは怯んだガルシャの懐に飛び込むと、そのまま体当たりを食らわせて怪物の体勢を大きく崩した。
「能力技巧、三日月切り・天!」
両手で刀の柄を握り、三日月形の剣閃で顎を切り裂く様に振り上げる。醜い人型の狼の下顎から真っ赤な魔力が吹き出した。
「(これだけ魔力を失えば倒れるはず……)」
「グルル……!」
「えっ」
斬撃の後隙を狙われたキリエの体が怪物の右手に捕らえられ、そのまま周囲の瓦礫に向かって投げつけられる。
「お姉ちゃん大丈夫!?」
「絶好調!!」
先ほど助けた女の子に向かってキリエはすかさずピースサインを繰り出した。
「このでかいワンチャンの相手はアタシが引き受けるから、貴女はママを探しに行って!」
女の子が言われた通りにその場から離れると、キリエは刀を杖にして瓦礫の中から立ち上がる。
「(あー……こいつやたら頑丈じゃん……ちょっと厳しいかも……)」
怪物が嗜虐的な笑みを浮かべてこちらに向かってくると同時に、キリエのスマートリトグラフが着信音
を響かせた。
「ちょっとタイム! スマリト鳴ってるから!」
「ぐる……」
ガルシャは律儀に足を止めた。
「もしもし!? 今取り込み中なんだけど!」
「久しぶり。キリエ」
相手の声にキリエは危うくスマリトを落とすところだった。
「嘘でしょ……?」
「名乗る必要は無いよな?」
空を見上げると、真昼であるにも関わらず浮かんでいる三日月型の影。その後ろには煌めく星の様な光が尾を引いている。
ガルシャは不機嫌な唸り声を鳴らすと横の建物をよじ登っていく。
「誰だか知らねえが邪魔する気なら叩き落としてやる!!」
驚異的な脚力で跳び上がり、三日月の影に向かって太い腕を振り上げる。
ーー能力技巧・竜螺旋
三日月の形が素早く変形し、高速回転の勢いのままに怪物の腹に突っ込む。
思わぬ反撃を喰らったガルシャは体勢を崩し、重力に従ってそのまま地面に叩き落とされた。
三日月形の影……いや、翼膜に穴が空いてるとはいえ、それは逞しい竜の翼だった。
その翼を背負った少女がキリエの傍らに着地する。少女の両手足は屈強な鱗に覆われ、腰からはしなやかな筋肉質の尾が生えていた。
「やっ」
キリエへ少し恥ずかしげに挨拶を交わそうとする半竜の少女。
顔面の左半分は布が巻き付いて隠れているが、残りの部分からは端整な顔立ちが覗いており、短く切り揃えられた銀色の髪がよく映えている。
「暗殺ギルドのほとぼりも冷めた頃合いだと思って……戻ってきたんだ。新しい組織の保護も得られたし。それでーー」
竜人の少女の言葉が途中で止まる。キリエがいきなり彼女の体を抱き締めたからだ。
「生きてて……よかった……ミティス……」
キリエの言葉には単なる知り合いには見せない、熱い想いが込められていた。
――第3話に続く。




