第10話「鳥になれ!」
「ターゲットの静止を確認!」
ハーベストムーン号の艦長ラブは、操舵部正面のガラス越しに幌馬車の動きが止まるのを確認した。
「馬車の台数は3台……ヘルタ、私が様子を見に行ってくる」
[許可する。ミティス、警戒を怠らないように]
「分かってる」
船体横の小さな扉が開き、その前でミティスは静かに翼を広げた。
————流星飛行
翼膜の端から真紅に輝く粒子がたなびく。そしてミティスは青い空へ身を投げ出すと、意思を持った流れ星のごとく平原へと向かっていった。
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「あんたが今回の事件の黒幕か?」
難なく幌馬車の場所へたどり着いたミティス。彼女は馬車の中から姿を現した不気味な鎧の男に問いかけた。
「いかにも。だがここまでだな。降参するよ」
ベルゼブは以外にも両手を上げてミティスに降参の意を示した。
「拉致した女性たちはどこだ?」
「一番後ろの幌馬車に全員乗せている」
余りにも素直すぎる態度にどこか不信感を感じつつも、ミティスは一番後ろの馬車まで移動して、幌布をめくり上げる。
「……あぁくそっ!」
ミティスが悪態をつくと同時に、巨大な猛獣の牙が彼女の胴体を捉えた。
「おい、そいつは高かったんだ。無闇に傷つけたりするなよ?」
「黙れ!」
ミティスに襲いかったのは獰猛な獅子——にも見えたが、そのような生易しいものではなかった。体躯は一般的な獅子の3倍は大きく、後頭部からは醜いヤギの頭が生えている。そして本来尾があるはずの場所に生えているのは、毒々しい緑色の鱗に覆われた蛇だった。
「キマイラ……か!」
ミティスは怪物の牙が体を貫く前に渾身の腕力で顎をこじ開ける。そのまま草地に放り出されるがすぐに体勢を立て直し、真紅のオーラを纏った足で顎元に膝蹴りを放った。
「どうだ!」
予想外の痛みに怯むキマイラ。しかしそれは獅子の頭部だけの話であり、尾の毒蛇は躊躇なく口から毒液を吐き出してくる。
「くっ!」
毒液が足元の草をみるみる溶かしていくのを見て、ミティスはすかさず側転して回避した。
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「何あの怪物……」
「あれは……キマイラです!」
艦内からミティスとキマイラの闘いを見下ろすキリエの疑問に、ブラが答える。
「人魔大戦の折に製造された生物兵器です。戦後もブラックマーケットで取引されているという噂もありましたが……一匹で小さな村なら滅ぼせるほどの危険な怪物ですよ!」
「ミティスに加勢してくる!」
「ちょっと待ってくださいキリエさん!」
艦の出入り口に向かうキリエの背中にブラウニーの一人が声をかける。
「まさかスーツの新機能を使うつもりですか!? あれはまだ調整中のプロトタイプです! ぶっつけ本番で使うのは余りにも危険すぎます!」
「何言ってんの! 英雄業はいつだってぶっつけ本番だよ!」
そう言うとミティスは一瞬の躊躇いもなくバク宙して船外へと自身の体を放り出した。
「鳥になってきます!」
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飛行船の外へと身を投げだしたキリエは、当然重力に従って凄まじい速度で地面へと落下していく。
「(このタイミングで……!)」
ミティスが両腕を広げると、スーツの腕部から水色の光の粒子が流れ出す。やがてそれはムササビの翼膜の様な形状となり、風の流れを捉えた。
「いやっほほーーー!!」
新スーツの滑空機能の初陣が大成功をおさめた喜びで、キリエは歓喜の叫びをあげる。
「これ最高! ミティスみたい!」
文字通り翼を得た高揚感に酔いしれながらも、キリエは平原でキマイラと闘うミティスの姿を目に捉えた。
「待っててねミティス……うん?」
ここでキリエは違和感に気がついた。今の角度のままだと着地点はミティスの近くではなく幌馬車の方だ。
おまけにどうやって着陸するのかを考えていなかった。
「………………身体強化!」
キリエはひとまず落下しても死なないようにする方針に切り替えた。
——第11話に続く。




