隣校の刺客! 筋肉ですべてを解決する魔導士
2話連続投稿です。
ようやく手に入れた「食券1ヶ月分」という名のプラチナチケット。俺たちは学園の食堂で、湯気を立てる大盛り定食を前に、勝利の余韻に浸っていた。
「……美味い。20円の領収書を噛んでいたあの頃の自分に、このハンバーグを食わせてやりたい……」
「カイ様! 貴方が咀嚼するその音……それこそが世界の調和(BGM)です! 私も全肯定の精神で、この激辛カレーを飲み干しましょうぞ!」
ガラムが涙を流しながらカレーを流し込み、アリアが「はしたないですよ」と嗜めながらも、幸せそうにオムライスを頬張る。
だが、その平穏を打ち破るように、食堂の重厚な扉が物理的に「粉砕」された。
埃が舞い上がる中、入り口に立っていたのは、魔法学園の制服をはち切れんばかりの大胸筋でパツパツに膨らませた、一人の巨漢だった。
「……ここか。魔法に頼り切った軟弱者が集まるという、アイギス学園は」
男が足を踏み出すたびに、床のタイルがメキメキと音を立てて沈み込む。背負っているのは杖ではなく、巨大な鉄の柱だ。
「ふん、名探偵の私にはわかるわ! あいつ、隣の『武闘魔導学園』の特待生よ! 名前はマッスル・ボルテージ。**『Q72:魔法を使いすぎると筋肉が死ぬので、すべての魔法現象を物理で打ち消す』**という、極限の脳筋設定の持ち主だわ!」
ルルが、食べかけのコロッケを落として叫ぶ。
アリアが即座に立ち上がり、口元のケチャップを拭って聖剣を構えた。
「隣校の刺客……! 教育的な交流なら歓迎しますが、食堂の扉を壊すのは騎士道に反しますわ! 私が成敗して差し上げます!」
「待て、アリア! こいつ……ただの脳筋じゃないぞ」
俺は、マッスルのステータスを管理者権限()で覗き込んだ。
そこには目を疑うような記述が。
『特技:魔力相殺(物理)。趣味:ポエム。悩み:プロテインが喉を通らない』。
「……おい、お前。本当はプロテイン、無理して飲んでるだろ?」
俺の問いかけに、マッスルの強面がピクリと震えた。
「……な、何を根拠に……! 俺のこの鋼の肉体は、たゆまぬ研鑽と、イチゴ味のプロテイン(激マズ)によって作られたものだ!」
「嘘をつくな! 『Q73:筋肉キャラは、実は甘いものと可愛いものが大好きというギャップを持たなければならない』……。1000年前の俺が、そんな安直なキャラ付けをした痕跡が見えるぞ!」
俺の「厨二病」の指摘に、マッスルの拳が止まった。
彼は震える手で、懐から一冊のノートを取り出した。そこには、びっしりと「花の妖精と子猫の友情物語」という自作ポエムが綴られていた。
「……バレたか。……俺は、筋肉を鍛えすぎて、繊細なポエムを書く指先が震えてしまうのが悩みだったんだ……! だが、学園の面目のために、魔法を拳で粉砕しに来た!」
「……カイ様! なんという悲しき宿命! 筋肉と詩情の矛盾、私が全肯定で受け止めましょう! さあ、私の胸板を、貴方のその魂で叩いてご覧なさい!」
ガラムが上半身の服を脱ぎ捨てて前に出る。
「「……やめなさい!!」」
アリアとルルの声が、物理的な衝撃波となって食堂を揺らした。
「……マッスル。お前の悩み、俺がデバッグしてやる。……筋肉を保ったまま、指先だけを『繊細な詩人』の設定に書き換えてやるよ」
俺は、食券を一枚触媒にして、マッスルの右手に「繊細なタッチ」をエンチャントした。
マッスルは震える手でポエムを書き上げると、「……書ける。……筆圧で紙が突き破れない……!」と号泣しながら、壊した扉の修理代(三兆ゴールド)を置いて去っていった。
「……ふぅ。……また一人、バグった奴を救っちまったな」
俺は、残された三兆ゴールドを見て、ニヤリと笑った。
一章完結(第30話)まで、あと9話。
残高ゼロから一転、俺たちは「学園一の富豪」へと成り上がろうとしていた




