残高ゼロの死闘! 火竜の息で目玉焼きを焼け
更新遅れました。
財布の中身は、ついに真の「ゼロ」へ。
セレスのくしゃみをデバッグした代償として、俺の生命線だった20円は、極光の熱に溶けて消滅した。
学園の学生食堂の香りに、空腹の悲鳴をあげる俺たちの前に、学園一の「全肯定・騎士」ガラムが、一枚の不穏なポスターを持ってきた。
「主よ! お喜びください! 学園の掲示板に、カイ様に相応しい『神の御業』を求める依頼が貼られておりましたぞ!」
ガラムが掲げたのは、黒ずんだ羊皮紙。そこにはこう記されていた。
『求む:女子寮地下ボイラー室の火竜のデバッグ。報酬:五兆ゴールド、もしくは学食の食券1ヶ月分』。
「……五兆ゴールド、または食券1ヶ月分? 単位がおかしいだろ、この学園。……というか、なんで女子寮の地下に火竜なんているんだよ」
俺が呆れ顔で呟くと、ルルが名探偵()の勘を働かせて、鼻を鳴らした。
「ふん、名探偵の私にはわかるわ! あの学長、またあんたの1000年前の『適当設定』を押し付ける気ね。……たしか、**『Q31:ボイラー室が壊れた時は、野生のドラゴンを捕まえてきて無理やり火種にするのが効率的』**っていう、サイコパスな設定があったはずよ」
「「…………最低ですわ(ね)!!」」
アリアの視線が氷点下まで下がる。
「カイ、貴方がかつて書いたその効率主義のせいで、今この瞬間も女子寮のお湯が『ドラゴンの機嫌次第』になっているのですわよ。……騎士として、そして一人の女子学生として、このバグは見逃せませんわ!」
俺たちは、またしても(しかもよりによって)女子寮の地下へと向かった。
最深部のボイラー室。重厚な扉を開けた瞬間、熱風が俺たちの顔を焼き、視界が真っ赤に染まる。
「……グルルルル……! センタク……オワッタノニ……マダ……アツクシロト……!?」
そこにいたのは、全身が溶岩のように赤く輝く小型の火竜。……だが、その姿は異常だった。首にはボイラーのパイプが無理やり繋がれ、彼が怒りの吐息を吐くたびに、学園中のお湯が沸く仕組みになっている。
「……ハッ! なんという効率的なエネルギー活用! さすがは主! しかし、この火竜……怒りの設定値がMAXですぞ! 私が盾になって、そのブレスを全肯定で受け止めている間に、カイ様はデバッグを!」
ガラムが盾を構えて火竜の前に躍り出る。
ズガァァァァァァン!!
火竜が放った超高熱のブレスが、ガラムの盾を赤く染める。
「……あ、熱い! 熱いですぞ主! ですが、貴方の情熱に比べれば、この太陽のような熱さも、ただのぬるま湯……! ぐおぉぉ!」
「ガラム、お前、顔が溶けてるぞ! ……アリア、抑えろ!」
「お任せください! 【聖なる鎮火】!!」
アリアが、手近な水道管の設定を書き換え、大剣から高圧洗浄機のような勢いで聖水を噴射した。……が、火竜の怒りは収まらない。
「……待て! 火竜! お前、本当は……熱いのが嫌いなんだろ?」
俺は、火竜のステータス画面を管理者権限()で覗き込んだ。
そこには悲しきバグが。
『属性:火竜。特技:ブレス。悩み:極度の冷え性』。
「……はぁ!? 冷え性の火竜なんて、設定した覚え……あ、あったわ。中二病の時に『逆説の美学』とか言って、矛盾設定を盛るのが流行ってたんだ……!」
俺は、一文無しの手を火竜の額にかざした。触媒にするお金はない。だが、俺には「創造主としての罪悪感」がある。
「【設定反転】! お前の体温設定を、周囲の熱を吸収してエネルギーに変える『エコ設定』に書き換える!」
俺が叫ぶと、火竜の周囲の熱気が一瞬で収まり、ボイラー室が心地よい春の陽気に包まれた。火竜は「……スヤァ」と満足げに目を閉じ、冷え性が改善された心地よさに眠りに落ちた。
「……ふぅ。……これで、お湯も安定して沸くはずだ。……ガラム、生きてるか?」
「……主……。私は今……貴方の優しさという名の冷却水に包まれて……最高に……幸せ……」
ガラムは盾を抱えたまま、満足げに気絶した。
「……助かったわね。……あ、見て、カイ。火竜の吐息の残り火で、ちょうどいい感じに目玉焼きが焼けてるわよ」
ルルが、ボイラーの熱板で焼けた目玉焼きを差し出す。残高はいまだにゼロだが、俺たちは「食券1ヶ月分」という、何よりも尊い勝利を手に入れた。




