暴走する全属性! 魔導実習は命がけ
「靴下を白く洗い上げる英雄」という、何とも名誉なのか不名誉なのか分からない称号を引っさげて、俺たちは正式に「魔法学園アイギス」の制服に袖を通した。
ガラムが「主と同じ制服を着られる……! これぞ全肯定の極み!」と朝から涙を流して廊下を這いつくばっている。アリアはメイド服の上から制服を羽織るという、もはや「属性過多」な騎士道を見せつけ、ルルは「名探偵の制服姿、拝ませてあげるわ」と顔を真っ赤にしながら胸を張っている。
だが、平和な学園生活など、このバグった世界にあるはずがなかった。「……えー、本日の実習はペアでの『魔力共鳴』だ。相手の魔力を受け止め、増幅して撃ち出す。……おい、カイ。お前のペアは、生徒会長のセレス様だ」
教官の言葉に、教室が凍りついた。
セレス。第十五話で出会った、あの銀髪の「盛りすぎ設定」令嬢だ。彼女の周囲には、今も火の粉と氷の粒、そして微かな電撃がランダムに発生している。
「……よろしくね、デバッガー君。私の『全属性』を受け止めきれるかしら? 失敗したら、この教室、物理的に『概念』から消えるわよ」
セレスが不敵な笑みを浮かべ、俺の目の前に立つ。
俺は冷や汗を流しながら、彼女の華奢な手を取った。……瞬間、指先から火山が噴火したような熱さと、絶対零度の冷気が同時に流れ込んでくる。
「……っ!? こ、これは……! 設定が渋滞しすぎて、魔力が『ゴミ箱行き』一歩手前のノイズになってやがる!」
「ふん、名探偵の私にはわかるわ! そのセレスって女、自分の魔力を一ミリも制御できてないのよ! あんたが1000年前に適当に盛った『最強設定』が、彼女の身体を内側から爆破しようとしてるわ!」
ルルが観客席から叫ぶ。アリアも大剣の柄を握り締め、「いつでも救出に飛び込めますわ!」と殺気を放っている。
「……あ、……あ……」
セレスの顔が、急激に青ざめた。鼻先が、ぴくぴくと痙攣を始める。
「……カイ様! 危ない! セレス殿の鼻腔に、世界の終焉の予兆が見えます! 私が身代わりになって、その爆風を全肯定して差し上げますぞ!」
ガラムが盾を構えて突っ込んでくるが、間に合わない。
「……は、……は……っ、……は……ッく……!!」
「【設定上書き(リライト)・属性圧縮】!! 20円(触媒)よ、このカオスを一本の筋に変えろ!!」
俺は叫び、セレスの暴走する魔力を自分の身体をバイパスにして一本に束ね、教室の窓から空へと誘導した。
ズガァァァァァァァン!!
セレスの「くしゃみ」と共に放たれたのは、虹色の巨大な極光。
それは空を割り、雲を消し飛ばし、はるか上空を飛んでいた無人の魔導艇を一隻、消し炭に変えて消えた。
「…………ふぅ。……止まった……」
俺は、煙を吹く指先を見つめて膝をついた。
セレスは、顔を真っ赤に染め、俺に手を握られたまま呆然と立ち尽くしている。
「……私の、くしゃみを……止めた……? 1000年間、誰も……お父様ですら、私の鼻をデバッグできなかったのに……」
「……いや、止めたっていうか、空に逃がしただけなんだけど。……というか、今の爆発で20円が溶けて無くなったんだけど……」
俺は、文字通り「一文無し」になった財布を覗き込んで絶望した。
「……カイ様! 素晴らしい! セレス殿の生理現象すらデバッグするその御業……! やはり貴方は、神です! 私は今すぐ、今の『虹色のくしゃみ』を学園の公式聖歌として登録して参ります!」
「ガラム! やめろ! 余計なバグを増やすな!!」
全財産0円。だが、生徒会長のセレスの瞳に、これまでにない「不穏な熱量」が宿ったのを、俺は見逃さなかった。




