脅威
「じゃあ、行こうか。」
そう言うと、ノクサは入口に向かった。
連はその後についていきながら、あたりを見回す。
店頭に並んでいるものの中には、連が知っている物もあった。
「……なんでシャーペンが目玉商品?」
「きっと何かしらの力を持ってるんだろうね。」
「いつ追いつかれるかわからないし、とっとと入ろうよ。」
「ヴェールシアに入るのは初めてで?」
「いいや、勝手は分かってる。」
「そうでごぜぇやすか。次は二十日後ですので、気を付けてくだせぇ。」
「分かった。ありがとう。」
門番と会話を交わしていたノクサは、振り向いて言った。
「さ、入ろう。」
ヴェールシアには、リミナリアと違い入口から入ったはずなのに、
空気が違うように感じた。
連は目の前の景色を見て、呆気に取られる。
「見たことある光景かい?」
見たことがあるどころではなかった。
そこにあったのは、色のおかしいスカイツリーだった。
「何だ……これ。」
「言ったでしょ? 地形が同じって。」
「ほんとに地形だけじゃないか?」
空さえも色がおかしかった。
「そろそろ説明しようか。」
「ヴェールシアはね、地球と同じ地形をしている。それは分かっただろう?」
「ああ。」
「それは、ここにある物も同じなんだ。」
「地球でベッドがある場所には、この世界でも同じ場所にある。」
「まあ、ないものもあるんだけどね。」
「同じものがあるって言っても、色は違うし、ほとんどが使い物にならない。」
「使い物にならないものは、資材やアンティーク。そうやって利用されるんだ。」
「さらに言えばね、ここは三十日周期でリセットされる。」
「どんなに地面をえぐっても、建物を壊しても、三十日経てば元通り。」
「気をつけなきゃいけないのは、リセットの瞬間にヴェールシアに居ないこと。」
「入口付近はかなりの魔力を注がれて安定してるけど、他はそうじゃないからね。」
まともな色の地面を指さしながら言った。
「……聖女と呼ばれていたのも、リセットに巻き込まれてここから戻ってくることはなかった。」
「聖女って?」
「聖女ルシア。攻めも守りも兼ね備えた、世界最強って言われてた人だよ。」
吐き捨てるような言い方だった。
少しの沈黙の後、ノクサは続けた。
「あと気をつけるのは、原生生物だね。」
「普通は弱いんだけど、アイテムを喰ってると強くなってたりする。」
「私の知ってる中で一番やばかったのは……口から銃弾を放つ、犬型の原生生物かな。」
ノクサは、スカイツリーを見上げて軽く言った。
「……まあ、そこのスカイツリーとやらに登ってみようか。」
「聖女とノクサだったらどっちが強いんだ?」
「条件によるけど私が勝つだろうね。」
「ブレスレットは付けておいてね。」
「結局これは何なんだよ。」
「お守りだって言ってるでしょ。」
「無駄話は終わり、ほら、行くよ。」
中は酷い有様だった。
「凄いねこれ。」
「何だこれ……」
それは、壁に深く刻まれた爪痕だった。
熊など比較にならない。
爪痕の高さは、ゆうに連の身長を超えていた。
「中々強そうだね。」
「絶対遭遇したくないな。」
「無理じゃないかな……」
ノクサが小さく呟いたのを連は聞き取れなかった。
「上に行かない?」
「下はもうアイテム残ってないと思うんだよね。」
「いいけどどうやって登るんだ?」
「どれがいいかな……」
少し考え込んで言った。
「天井ぶち抜いて行く?」
完全に本気だった。
「他の選択肢は?」
「階段か外壁。」
「階段ってあるのか?」
「無いの?」
「見たことないんだけど。」
「外壁にする?」
「……そうする。」
ノクサは窓ガラスを割って外に出た。
「そこそこの高さで中に入ろう。」
連はガラスを避けながら頷いた。
「分かった。」
「まだそこなの?」
「なんでそんな早いんだよ……」
ノクサは命綱もつけずに、外壁を登り続けていた。
「こんなとこでいいかな。」
中腹まで行ったところで中に入った。
「なんでお前……息切れもしてないんだよ……」
「この程度じゃねぇ。」
連が息を整えている間にノクサは周囲を見回していった。
「こんなに物がないなんて、相当強いのかな?」
「……ひっ……う、うぅ……」
「泣き声?」
周囲を見回していたノクサが言った。
「こんなとこに人なんているのか?」
「居ないことはないと思うけど声からして大人でもなさそうだし、違うと思う。」
「確認して来る。」
「原生生物には気をつけなね。」
泣き声の正体はすぐに見つかった。
「大丈夫?」
「ご……ごめんなさい……わた、私のせいで……」
「な……泣いちゃダメだって、人を引き寄せちゃ……ダメだってわ……分かってるのに……」
連が聞き返す前にドゴォン、と音を立ててナニカが落ちてきた。
ナニカは蒸気を噴き上げながら、ゆっくりと振り向いた。
それは、象のように巨大な体躯を持ち、
鋭い牙と爪を備えた――虎のような原生生物だった。
「な……」
理解が追いつく前に、爪が振り下ろされる。




