第一話 玲香・新生活
チャイムが鳴る。
入学式の直後、目に新しい教室には固い顔の生徒たちが整列している。
自由に話していい時間だというのになんで誰も動かず誰も話そうとしないのだろう。
こんな固い空気は嫌いだ。
「ねぇねぇ」
後ろに座っていた大人しそうな男の子に声をかけてみる。
「え…あ…こんにちは」
「そんな固くならずにさ、ちょっと話そうよ!」
「う、うん」
「君、名前は?」
「山中月樹…だよ」
「山中君か〜。私は山田玲香!よろしくね」
外は鮮やかな青い空。
ふと、山中君の後ろに座っている丸眼鏡の女の子に目がついた。
「やっほー!君も一緒に話さない?」
早速話しかけてみる。
「…いらない」
女の子は俯いた。
こんなにはっきりと拒絶されるとちょっと落ち込む。
それにしても、「嫌だ」ならわかるけど「いらない」と答えるなんて少し変だ。
名札に書かれた文字は…山脇。山脇さんか、覚えておこう。
いつか仲良くなれるといいな。
「あの子、山脇さんだって。出席番号連続で苗字に山がつくなんてすごい偶然だね!」
「そう、だね」
ぎこちない会話。
ぎこちなくても、少しずつ相手に近づいていける。
それだけで私は安心できる。
「えっと、山田さんだったっけ?私も一緒に話していい?」
隣の席の女の子が話しかけてくれた。
「いいよ!」
「じゃあ僕も話していいかな?」
「私も!いい?山田さん」
「あはは、別にいちいち言わなくてもみんなで話したらいいじゃん〜!あと山田さんじゃなくて玲香でいいよ」
少しずつ柔らかくなって行くみんなの顔、解けていく張り詰めた空気。
ワイワイと盛り上がっていく教室の中心は、私。
別に私中心じゃなくてもいいのに、いつだっていつの間にか中心にいるのは、私。
「ねえ玲香、あの子さっきから一言も話してなくない?ずっと外見てる」
「山脇さんのこと?うん…そうだね」
「じゃあ私、山脇さんのこと誘うね!」
山脇さんは確かに何も言っていないが…この輪に入ることを望んでいるのかな。
さっき話しかけた時の山脇さんの様子を思い出す。
「けど山脇さんはこの輪に入りたいのかな…?」
そう言った私に山中君が微笑みかける。さらりとこぼれた前髪に覗いた目元が穏やかだった。意外とイケメンなんだな。
「それは聞いてみないとわからないんじゃない?とりあえず誘うだけ誘ってみたら?」
「そうだね」
「ねぇ山脇さん、山脇さんも話そうよ!玲香と話すの面白いよ」
外を見ていた山脇さんの顔が、少しだけこちらに動いた。
肩で切り揃えた髪が、動きとともに揺れる。
「いらないってば」
一瞬沈黙が私たちを覆った。
「何その言い方!」
誘った女の子――沙月が山脇さんをキッと睨みつける。
山脇さんは視線をまた窓へと戻した。
「山脇さん、感じ悪いねー。そう思うでしょ?」
「えっと、そうかな?きっとまだ緊張してるんじゃ、ないかな?きっとすぐに仲良くなれるよ!!」
必死に言っても、批判は収まりそうになかった。




