姫に誓う 1
【簡単な登場人物紹介】
・相田アキ:主人公。男。
江原さんという女子を殴り、周りから冷たい目で見られている状況で【七夕】を迎える。
結果、【他人の記憶を消す】能力を授かり、能力で、自分が江原さんを暴行した記憶を周りから消している。
・霞野原カレン:隣の御嬢様校の女子。
【七夕】に【他人の見えるものを消す】能力を授かる。
その能力を使い、しばしば透明人間のように行動している。
痩せの大食いで、おそらく胃下垂。
・大原さん:大原事務所の美人。アキとカレンの雇用主。
【七夕】以降、能力を授かったものの起こす問題を解決する仕事を請け負っている。
超能力は超能力で制せ、の考えで、アキとカレンを自分の元で働くようスカウトした。
・静井さん:アキの前の席の女子。
大人しくて、カレン曰く「いかにも男好きしそうなキャラ」。
・飯田:アキのクラスメイト。男。
・江原さん:【七夕】以前にアキに殴られ、顔に大きな痣を負った女子。
【用語?説明】
【七夕】七夕に、「願い」を持った者のなかに、能力を授かる形で願いをかなえてしまった人がいるという。アキ、カレンもそのうちの一人。
【8月7日】
テスト期間を迎え、苦しい一方、何処か、きたる夏休みの香りでそわそわとした雰囲気の学校。今年の夏休みは大原さんの仕事と、受験勉強だろうか、なんて思いを馳せる。
「テストどうだった?」
校門に向かう僕の後をかわいい女子――クラスメートの静井さんが小走りで追いかけてきた。
「どうだろう。ぼちぼちかな」
「あっ、それはよくできたってことだなっ」
静井さんこそどうだった?と聞くと、どれだけ数学が難しかったかを堰を切ったように話始める。静井さんの主観と謙遜にもとずく話だけ聞いていると、静井さんの数学の点数は推定1桁点だな、などと思って笑っていると、ふいに彼女の言葉が途切れた。
どうしたのかと思えば、校門の外に立つ霞野原カレンを見つけたらしい。
「カレンさんだっけ?待ち合わせ?」
「バイトあるからな」
「ふーん……。アキくんってカレンさんみたいな子がタイプだったんだね」
「タイプとか関係ないな」バイト仲間だからな。
「意外、ではないかあ」
ではどんな女子だったら意外だろう。
「ほら、女子グループのリーダーみたいなタイプだったら、意外っ、って言うよ、私」
「女子グループのリーダーってどうやって見分けるのさ」
「その子が持ってる可愛くない物を他の人がかわいいって褒めてたら、リーダーよ」
ほんとかよ。
それじゃ、私お邪魔だから、と言い残し、小走りに静井さんが去っていく。
カレンに近づくとニマニマ、下世話な笑みを浮かべて
「お邪魔だったかしら? 彼女さんとのデート」
という。
どいつもこいつも浮かれた思考で。
……夏だからな。
大原事務所も夏仕様に変わっていた。
南国っぽい音楽が流れ、部屋の壁にはインテリアの如くビキニが飾られていた。なにより大原さんの肌の露出が増えていた。それを氷点下の視線で相棒カレンが見ていた。
「今回の依頼は人の捜索よ」
大原さんが薄い資料を手渡しながら言う。
「行方不明になっているのは神田花純、17歳。いなくなったのは3日前」
「行方不明っていうんだから警察に届けとか出てるんですよね?」
と僕が訊く。
「出てるわ。でも見つかっていないの」
「その神田花純って人を見つけれて、それに関わる「超能力」を始末すればいいんですね」
「超能力の始末はどちらでもいいわ。それは貴方方の判断に任せる」
「ずいぶん薄いですけど」
と僕は大原さんから受け取ったペラッペラの資料を捲って
「他に情報は無いんですか?」
「私から渡すのはこれで全部。あとは貴方方で調べてちょうだい。確実に言えるのはこの件には超能力が絡んでいるから、警察より貴方方のほうが役に立つってことよ」
その、超能力絡みって情報は、例の不透明な情報筋からですか。
僕が不親切な雇い主に苦笑している横で、カレンは何故か食い入るようにその薄っぺらい資料を見ていた。
【8月8日】
僕はカレン通う女子校に来ていた。もちろん、女子校に男子がそう易々入れるはずはなく、カレンの力を借りて、透明になって不法侵入だ。
神田花純さんの行方捜索をすることになったわけだけれど、さてどうしようと、途方にくれることは無かった。
というのも、昨日、事務所を出るなりカレンが
「神田花純ってたぶん私と同じ学校の生徒だわ」
と言うからだ。
改めて今日カレンが確認したところ、カレンと同じ学年に「神田花純」という名の女子がいた。
僕たちは校舎を2つほど抜けて、校舎裏のようなスペースに出た。花壇だけがあり、生徒は僕とカレン意外にいない。
「それで、神田花純は3日前から行方不明なのか?」
「きっとそうだと思うわ」
「なんだその曖昧な」
「彼女、1週間前から入院していて学校に来ていないのよ。行方不明だとしてら、病院からいなくなったってことね」
「1週間前から入院?怪しいな」
今回の件と関係があるかもしれない。
「何があった?」
「ここよ」
そういってカレンは目の前の花壇を指差す。
「ここに落ちたの」
どういうことだ、詳しく教えてくれ。
「私も詳しく知らない。だから詳しく知っている人に聞きましょう」
僕が首を捻って間もなく、短い悲鳴が聞こえた。
悲鳴の主は僕の後ろに来ていた女子だった。
「びっくりしました……霞野原さんに呼ばれてきてみたら、男の人が校舎の中にいるから」
「大丈夫よ、ここならだれも来ないし」
「きょ、許可はとっていないのですね。じゃあ秘密なんだ、どきどきします」
その女子は頬に手を当て目をキラキラさせる。
「アキ、彼女は合崎綾女さん。神田花純さんと仲がいい子。合崎さん、彼がお話した『例の』相田アキ」
「例のって……綾女さん、確認ですけど、僕の事なんて聞いてます?」
「えっと、神田花純ちゃんに一目ぼれして彼女の行方を捜している方って」
おいおい、僕は花純ちゃんに一目だって会ったことないぞ。
「まあ、そんなことはいいじゃない」
とカレンが言う。
「まあ……、とにかく綾女さん、神田花純さんについて教えてほしいんですけど。特に1週間前にあったことについて。仲がいいんですよね?」
「仲がいいってほどじゃ……」
綾女さんは何故か小声になり目を伏せる。
「とにかく、花純ちゃんは1週間前、そこの校舎からこの花壇に落ちました」
そう言って、花壇の目の前の校舎を指す。
入院と言うことは、花壇に落ちたために怪我で済んだんだろう。
「何階から?」
「4階みたいです」
「どうしてわかるの?」
「4階の窓の外に花純ちゃんの指輪が落ちていたから。それに4階に私たちの教室があるんです」
4階に教室がある、ということは、
「教室から飛びおりた?」
「それが……」
綾女さんは言いにくそうに下を向く。
「落とされた、みたいなんです」
ダレニ?
「三色すみれちゃんっていう同じクラスの子に……」
「どうしてわかったの?」
「一つは花純ちゃんが落ちた当時――放課後だったんですけど、教室に残っていたのがすみれちゃんだけだったから。
二つ目は、あそこに小さい建物があるでしょう?弓道部の練習場なんですけど」
そういって校舎と、花壇を挟んで阪大側にある小さな黒い屋根の建物を指す。
「あそこから見ていた人がいるんです。百合ちゃんっていうんですけど」
「どう思う?」
学校を出、綾女さんと別れてカレンに問う。
「ナニを?」
「この件」
「正直なこといわせてもらうと関わりたくないわ」
「仕事に前向きじゃないのはカレンはいつものことだけどな」
「今回の件は特に。自分と同じ学年の人のことだし、校舎から突き落とされた事件に、人が一人行方不明。警察がやるような事件じゃない?気が進まないわ」
全く同感だった。
「一応、大原さんに気が進まない旨を伝えておこうか」
「伝えて仕事を食い下げてくれるかしら?」
「言ってみるだけならタダだろう」
そういって大原事務所に向かった僕たちを、待っていた客がいた。
腰まで掛かる長い黒髪で、どこか挑発的な目をした彼女は――「三色すみれ」と名乗った。




