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リバース・フロム・ディスペア  作者: rururu-nn


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17/18

幕間1 鈴

 白い部屋は、音がしない。


 女はいすに座り、膝の上の機械犬をなでている。金属の背中には、脂も、筋も、血の管もない。だから、なでられる。


 人の体は、そうはいかない。皮の下の肉の重なりが、層になって全部見えてしまう。四歳の時から、ずっと。


 黒いコートが二人、長い袋を一つ運んでくる。


「鈴の鳴る場所で、拾いました」


「左肩に、古い切り口の層がある方ね。番号を欲しがっていた」


「はい」


「では、処理場の札を、もう一枚」


 袋が出ていく。女は、そちらを見ない。


 入れ替わりに、のどの筋の厚い女が入ってくる。指に巻いた糸が、一本足りない。


「黒い犬が、私の声を割りました。776は眠りかけていて、それでも指が、私の声の仕組みを知りたがっていました」


「その前は」


「義手の男に、青い線を一本。拾われる前に、男がそう話したそうです」


 機械犬をなでる指が、止まる。


 青い線。昔、この建物の地下で、一度見たことがある。


 机の上のファイルの表紙に、776。端が、何度も開かれた形に曲がっている。


 実験の日、台の上の体は、層が二枚重なって見えた。皮も、筋も、骨も、二人分。その境目だけが、どうしても読めない。


 生き物を見て、読めない所が残る。四歳のあの日のあとは、記録の中でしか見たことがない。目の前で見るのは、初めてだ。


 女は、手の甲の白い傷を親指でなぞる。


「川は、探しますか」


「探すふりだけでいいわ。あれは、自分から来るのよ。資料室の紙の端に、血が一筋ずつついていたそうよ。指の皮が切れるまで、301から全部めくった層だもの」


 女は機械犬を床に下ろし、表紙の番号を指で一つ叩く。


「次は、私が見に行く」


 引き出しには、処理場の札の控えが入っている。301から775までの束。


 776の札だけが、そこにない。


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