「最初の門」
「……俺が?」
ユウは思わず聞き返した。
体育館中の視線が集まる。
当然だった。
Lv2の高校生。
化け物相手に数回生き残っただけの素人。
そんな自分が、“門”に入る?
「無理だろ……!」
別の男子生徒が叫ぶ。
「中なんて行ったら死ぬぞ!」
「実際、かなり死ぬ」
九条は平然と言った。
空気が凍る。
「だが、門を放置すれば外も終わる」
眼鏡の男が補足する。
「門は怪物を生み続けます。中心部を破壊しない限り、被害は拡大する」
「じゃ、じゃあ自衛隊とか……!」
「まだ対応できてない」
九条が即答した。
「今の日本は、全国同時多発だ。通信もかなり死んでる」
体育館の空気が重くなる。
本当に世界が壊れ始めている。
ユウは拳を握った。
怖い。
また死ぬかもしれない。
いや、多分かなり高確率で死ぬ。
だが。
もしここで何もしなければ。
この体育館の全員も、外の人たちも死ぬかもしれない。
「……俺、行く」
気づけば口にしていた。
「天城くん!?」
レナが振り向く。
ユウ自身も、少し驚いていた。
でも。
前回死んだ時。
何もできないのが一番悔しかった。
「お前は?」
九条がレナを見る。
レナは数秒黙り込み――小さく頷いた。
「私も行く」
「正気か!?」
教師の一人が叫ぶ。
「君たちは高校生だぞ!」
「でも、誰かが行かないとダメなんですよね」
レナの声は震えていた。
それでも逃げなかった。
九条は二人を見て、わずかに目を細めた。
「あと二人必要だ」
特殊クエストは五人制限。
だが体育館は静まり返ったまま。
誰も名乗り出ない。
当然だ。
怖いに決まってる。
すると。
「……俺が行く」
低い声。
短髪の男子生徒が前へ出た。
制服の腕をまくり、鋭い目で九条を見る。
「じっとしてても死ぬんだろ」
ユウは見覚えがあった。
二年の朝倉レン。
学校でも有名な不良。
喧嘩が強いらしい。
「スキルは?」
九条が聞く。
「《身体硬化》」
「悪くない」
九条が頷く。
すると今度は、体育館の隅から小さな声がした。
「ぼ、僕も……」
眼鏡をかけた小柄な男子。
一年生だろうか。
かなり怯えている。
「役に立つか分からないけど……」
「スキル名は」
「《解析》です……」
九条の赤い目が少し見開かれた。
「……レア系か」
その言葉で周囲がざわつく。
小柄な男子は慌てて縮こまった。
「な、何かまずかったですか……!?」
「いや。むしろ当たりだ」
九条は体育館の出口を見る。
外では黒い門が脈動していた。
空間が液体みたいに歪んでいる。
「メンバーは決まりだ」
九条。
ユウ。
レナ。
朝倉。
そして《解析》持ちの一年。
五人。
スマホが震える。
【攻略メンバー確定】
【初回門攻略クエスト開始】
その瞬間。
黒い門の中央に、“階段”が現れた。
闇へ続く階段。
底は見えない。
冷気みたいなものが流れ出している。
「……行くぞ」
九条が先頭へ進む。
ユウは唾を飲み込んだ。
戻れない気がした。
一歩踏み込めば。
今までの日常には、もう二度と。
そして。
五人は、“最初の門”へ足を踏み入れた。




