「侵入」
体育館の空気が凍る。
金属扉が、ゆっくり内側へ歪んでいく。
ギギギギ……。
耳障りな音。
誰も動けない。
「な、なんだよ……」
生徒の一人が震える声を漏らす。
次の瞬間。
ドゴォン!!
扉が吹き飛んだ。
悲鳴。
突風。
そして現れたのは――巨大な“腕”だった。
黒い皮膚。
筋肉が異常に膨れ上がり、指先は刃物みたいに尖っている。
その腕が体育館の入り口を掴み、“本体”を無理やり押し込んできた。
「ベヒモスじゃない……!」
レナが青ざめる。
だが十分デカい。
三メートル以上はある。
異形だった。
人型に近いが、顔の半分が裂けている。
赤い目が四つ。
背中から無数の触手。
【中位個体を確認】
【《オーガ・タイプⅡ》】
【脅威度:C】
【推奨レベル:12以上】
「Cランク……!」
ユウは歯を食いしばる。
それでもベヒモスよりはマシだ。
だが今の自分たちじゃ到底――。
オーガが咆哮した。
「ゴォォォォォォ!!」
衝撃波だけで、生徒たちが悲鳴を上げる。
「九条さん!」
眼鏡の男が叫ぶ。
「分かってる」
九条が前へ出た。
銀色の拳銃を構える。
赤い右目が強く光った。
その瞬間。
空気が変わる。
ユウは本能で理解した。
この人、さっきまで本気じゃなかった。
パンッ!!
銃声。
オーガの肩が爆ぜる。
だが怪物は止まらない。
咆哮しながら突進。
「死ね」
九条が低く呟く。
次の瞬間。
彼の姿が“消えた”。
「え……?」
速すぎて見えない。
気づけば、九条はオーガの懐にいた。
拳銃を怪物の口へ突き込む。
パンパンパンパンッ!!
連続発砲。
オーガの頭部が内側から破裂した。
黒い血が飛び散る。
巨体が崩れ落ちた。
静寂。
体育館中が凍りついている。
「……すげぇ」
誰かが呟いた。
九条は無表情のまま拳銃を下ろす。
だが。
ユウは気づいた。
九条の呼吸が少し荒い。
「……まだ終わってない」
九条が低く言う。
その瞬間。
校庭から、巨大な咆哮が響いた。
ベヒモス幼体。
そして。
校舎の外。
空間が再び裂け始めていた。
一つじゃない。
二つ。
三つ。
四つ。
無数の黒い門。
「嘘だろ……」
体育館の誰かが絶望したように呟く。
眼鏡の男が青ざめる。
「門の増殖速度が早すぎる……!」
九条の表情も険しくなる。
「予定より早い」
「どういうことだよ!」
ユウが叫ぶ。
「こんなの、どうやって生き残ればいいんだ!」
九条は数秒だけ黙った。
そして。
「――門を閉じるしかない」
その言葉と同時に。
ユウのスマホが、真っ赤に点灯した。
【特殊クエスト発生】
【最初の門を攻略せよ】
【参加可能人数:5名】
【失敗時:この地域は崩壊します】
体育館が静まり返る。
誰も動かない。
そんな中。
九条が、真っ直ぐユウを見た。
「お前、来い」
「……は?」
「死にたくなければ、強くなれ」
九条の赤い目が鋭く光る。
「門の中でな」




