「第一体育館」
「走れ!!」
黒コートの男の叫びと同時に。
ベヒモス幼体の腕が振り下ろされた。
轟音。
校舎が“潰れた”。
コンクリートが爆発したみたいに吹き飛び、廊下が崩壊する。
「うわぁぁぁ!!」
ユウは男子生徒を抱えたまま飛び込むように階段を転げ落ちた。
レナも続く。
熱風。
砂煙。
耳鳴り。
もし一秒遅れていたら、全員死んでいた。
「げほっ……!」
ユウは咳き込みながら顔を上げる。
一階。
だが天井には巨大なヒビ。
学校そのものが限界だった。
「体育館まであと少しだ!」
黒コートの男が先頭を走る。
異常な速さだった。
まるで強化された人間。
ユウたちも必死についていく。
途中、廊下には大量の血痕があった。
壊れたスマホ。
引き裂かれた制服。
現実感がなかった。
数時間前まで普通の学校だった場所とは思えない。
「……っ」
レナが顔を伏せる。
未来視があるせいか、普通の人より精神的負担が大きいのかもしれない。
その時。
スマホのタイマーが残り三分を切った。
【第一体育館到達まで:02:51】
「急げ!」
黒コートの男が体育館の扉を蹴り開けた。
中へ飛び込む。
ユウたちも続いた。
そして――。
「……え」
体育館の中には、数十人の生徒がいた。
泣いている者。
怪我人。
呆然としている者。
教師たちもいる。
入り口付近には、机やマットで作られた簡易 barricade。
即席の避難所だった。
「生存者だ!!」
誰かが叫ぶ。
視線が集まる。
だが、その空気はすぐに変わった。
黒コートの男を見た瞬間に。
「……《覚醒者》だ」
「本物か……?」
ざわめき。
ユウは違和感を覚えた。
知っているような反応。
すると体育館の中央から、一人の男が近づいてきた。
三十代くらい。
スーツ姿。
眼鏡。
妙に落ち着いている。
「ご苦労様です、九条さん」
黒コートの男――九条は軽く頷いた。
「状況は?」
「最悪ですね」
眼鏡の男は苦笑する。
「校庭に大型個体。校外にも複数の門が確認されています」
ユウは口を開いた。
「……あんたら、何を知ってる」
二人がこちらを見る。
九条は少し黙った後、答えた。
「お前たちは“第一次覚醒世代”だ」
「は?」
「この現象は初めてじゃない」
空気が凍った。
「……どういう意味だよ」
眼鏡の男が代わりに話す。
「二十年前にも、一度だけ門は開いています」
「え……?」
「ただし当時は規模が小さかった。政府によって情報は封鎖されたんです」
ユウは言葉を失う。
じゃあこれは。
突然起きた災害じゃない。
“知っていた人間”がいる。
「俺たちは、その生き残りですよ」
九条の赤い目が光る。
「門の向こうを知る人間だ」
その瞬間。
体育館の外から、絶叫が響いた。
「きゃあああああ!!」
全員が振り向く。
扉の向こう。
何かがいる。
重い音。
ズン。
ズン。
ズン。
そして。
体育館の金属扉が、“外側から”ゆっくりへこんだ。
まるで巨大な手で押されているみたいに。




