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『死んだ俺だけが、世界崩壊前に戻れる』  作者: Y.M
第1章

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5/18

「覚醒者」

黒いコートの男は、静かに廊下を歩いてくる。


 足音だけが響く。


 カツ、カツ、カツ――。


 ユウは反射的にレナを庇うように前へ出た。


「誰だ……?」


 男は答えない。


 銀色の拳銃をゆっくり下ろし、二人を観察するように目を細めた。


 右目だけが赤く光っている。


 人間じゃないみたいだった。


「……グールを倒したのはお前たちか」


 低い声。


 ユウは警戒したまま頷く。


「だったら何だ」


「Lv2でタイプⅠを撃破か。悪くない」


 男は感情の読めない顔で言った。


「特にそっちの女。“未来視系”は珍しい」


 レナが身を固くする。


「どうして分かるの……?」


「目を見れば分かる」


 男は短く答えた。


 その瞬間。


 廊下の奥から、唸り声が響いた。


「グルルル……」


 ユウが振り返る。


 犬型の怪物が三体。


 前回、自分を殺した化け物だ。


「っ……!」


 だが男は焦らない。


 むしろ、ため息をついた。


「面倒だな」


 次の瞬間。


 パンッ!!


 乾いた銃声。


 一体の頭が吹き飛ぶ。


 黒い粒子となって消滅。


「え……?」


 速すぎて見えなかった。


 男は片手で拳銃を構えたまま、淡々と歩く。


 パンッ。


 パンッ。


 二発。


 残り二体も崩れ落ちた。


 静寂。


 ユウは言葉を失った。


 強い。


 レベルが違う。


「……何者だよ、あんた」


 男は少しだけ黙ったあと、答えた。


「《覚醒者》だ」


「覚醒者……?」


「お前たちみたいに、スキルを得た人間のことだ」


 男は壁にもたれた。


「この世界はもう終わった。正確には、“終わり始めてる”」


 ユウの喉が鳴る。


「なんなんだよ、この化け物……!」


「門の向こうから来た」


「門?」


「ダンジョン。異界。呼び方は何でもいい」


 男は淡々としていた。


 まるで、もう見慣れているみたいに。


「これから世界中で門が開く。怪物が溢れる。国も警察も、そのうち機能しなくなる」


「そんなの……」


 信じられるわけがない。


 だが現実に怪物はいる。


 ユウは一度死んでいる。


 否定なんてできなかった。


「体育館へ向かえ」


 男が言う。


「そこに“最初の生存圏”が作られる」


「……あんたは?」


「俺は別行動だ」


 男は歩き出す。


 その背中に、ユウは思わず叫んだ。


「待てよ!」


 男が止まる。


「どうすれば生き残れる」


 短い沈黙。


 そして男は振り返らずに答えた。


「強くなれ」


 それだけだった。


 黒いコートが角を曲がり、姿を消す。


 レナが小さく呟く。


「……映画みたい」


「笑えないけどな」


 ユウは苦笑した。


 だが。


 少しだけ希望もあった。


 化け物に対抗できる人間がいる。


 なら、自分も。


 その時。


 スマホが震えた。


【緊急クエスト発生】


【第一体育館へ到達せよ】


【制限時間:00:08:42】


【失敗時:死亡率上昇】


「は……?」


 数字が減っていく。


 ユウとレナは顔を見合わせた。


 そして次の瞬間。


 校舎全体が激しく揺れた。


 ゴゴゴゴゴ……!!


 窓ガラスが割れる。


 天井にヒビが走る。


 遠くから、今までより遥かに巨大な咆哮が響いた。


 学校そのものが震えるほどの。


「……嘘だろ」


 ユウは青ざめた。


 外の校庭。


 そこに、“ビルほど巨大な黒い影”が立ち上がっていた。

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