「死に戻る者、視る者」
グールの爪が空を裂く。
だがレナは、紙一重でその軌道から外れていた。
まるで攻撃を“知っていた”みたいに。
「え……」
ユウは目を見開いた。
レナ自身も驚いている。
「見えた……」
彼女の青い瞳が揺れる。
「次にどこへ来るか……全部……!」
グールが咆哮した。
怒っている。
獲物に避けられたことを理解したのか。
怪物は床を砕きながら突進する。
「右!」
レナが叫ぶ。
ユウは反射的に動いた。
直後、爪が横を通り過ぎる。
風圧だけで肌が裂けそうだった。
「まだ左後ろ!」
「くっ……!」
未来視に合わせて動く。
まるでゲームの回避みたいだ。
だが、一歩間違えれば死ぬ。
グールは連続で腕を振るう。
速い。
重い。
普通なら絶対に避けられない。
それでも。
レナの未来視と、ユウの身体強化。
二つが噛み合っていた。
「今ならいける!」
ユウは叫び、机を踏み台に飛び上がる。
グールの肩へ着地。
怪物が暴れる。
「うおっ!?」
振り落とされそうになる。
だがユウは、さっきの戦闘で気づいていた。
この怪物。
顔面の赤い光を殴った時だけ反応が違った。
(あそこが弱点か……!)
「白峰!」
「三秒後、暴れる!」
「十分だ!!」
ユウは金属パイプを握り直した。
怖い。
手が震える。
でも。
ここで逃げたら、また誰かが死ぬ。
なら――。
「終われぇぇぇぇ!!」
全力で振り下ろす。
ガァァァン!!
赤い光に直撃。
一瞬。
世界が止まった。
次の瞬間。
グールの身体にヒビが走る。
「グ、ォォォォオオオ!!」
絶叫。
怪物が狂ったように暴れる。
ユウは吹き飛ばされ、床を転がった。
「げほっ……!」
痛い。
全身が痛い。
だが。
グールの身体は崩れ始めていた。
黒い粒子となって。
「倒した……?」
レナが呆然と呟く。
怪物は最後に低い唸り声を漏らし――消えた。
静寂。
ユウとレナの荒い呼吸だけが響く。
「はぁ……はぁ……」
生きている。
本当に。
さっきまで死ぬと思っていた。
その時。
スマホが再び震えた。
【初回討伐成功】
【経験値を獲得】
【レベルが上昇しました】
【Lv1 → Lv2】
「……は?」
ユウの身体が光に包まれる。
疲労が少し消えた。
筋力も増した気がする。
レナも画面を見つめている。
「ゲームみたい……」
「笑えないけどな……」
ユウは壁に寄りかかる。
だが。
まだ終わっていなかった。
廊下の向こう。
悲鳴が聞こえる。
複数。
そして。
“銃声”。
パンッ!!
「……え?」
学校で銃声?
二人は顔を見合わせた。
すると次の瞬間。
校内放送が、突然ノイズ混じりに鳴り響いた。
『――生存者へ告ぐ』
知らない男の声だった。
低く、落ち着いた声。
『今から十分後、この学校は“安全区域”ではなくなる』
ノイズ。
『生き残りたければ、第一体育館へ向かえ』
『繰り返す』
『選ばれた者たちよ』
『死にたくなければ――“覚醒しろ”』
放送が切れる。
沈黙。
「……何なんだよ、これ」
ユウの呟きに、答える者はいなかった。
だがその時。
教室の外。
廊下の奥から、“人影”が現れた。
黒いコート。
銀色の拳銃。
そして。
赤く光る片目。
男は、静かにこちらを見つめていた。




